スマートシティ普及のカギを握るのは、導入する自治体と、使う側である街の住民たちにICT(情報通信技術)活用の利点をリアルに伝えることだ。この特集では、全国各地で進められているプロジェクトに焦点を当て、「私たちのスマートシティ」の姿を探る。(取材・文/ゼンフ ミシャ)
提案のカギはユーザー目線 「業務効率化×生活改善」で勝負
ICTで街をつくる「スマートシティ」は、各地でかたちになりつつある。市と市民のパイプを太くしたり、街の魅力を世界にアピールして観光の活性化を図ったり……。スマートシティの活用領域が多様化している情勢にあって、自治体とベンダーは着々と“賢い都市”の構築を進めている。これらの動きに、スマートシティを事業化するうえでのヒントは必ずあるはず。スマートシティのユーザー(自治体、市民)に「役立つ」「使いたい」仕組みの提案に商機が潜んでいる。
●街の課題を「ちばレポ」る 
8月末の記者会見で質問に答える熊谷俊人・千葉市長。ICT活用による業務効率化に期待を寄せて、「ちばレポ」の導入を決めた 千葉県千葉市は、街の「こまった(>o<)」を募集中。この9月、市民が街中の不具合をスマートフォンで撮影して市役所に報告し、担当部署が優先順位をつけて修理するアプリケーション「ちば市民協働レポート」、通称「ちばレポ」を開設した。傷んだ道路や電球の切れた街灯など、市民が不具合に気づいて撮った写真を3枚まで載せることができ、市役所はそれらを見て「すぐに修理が必要」とか「後回しにしてもいい」といった具合に、対応の優先順位を決める。人員が限られているなかで、修理作業を効率よくこなす仕組みを実現しようとしているのだ。
8月末。「ちばレポ」の開設を目の前に、熊谷俊人・千葉市長が記者会見を開いた。今回、IT媒体の記者を会見に呼ぶのは初ということで、熊谷市長はやや緊張した表情をみせた。導入を決断した市長の表情の裏には、「ちばレポ」を広くPRすることで、市民に積極的に活用してもらい、千葉市の魅力の向上につなげるという期待がうかがえた。システムは、セールスフォース・ドットコム(セールスフォース)が提供するCRM(顧客関係管理)のプラットフォームを採用し、千葉市の地場SIer(システムインテグレータ)が構築を手がけた。千葉市は「ちばレポ」をテコに、市民の生活の改善だけでなく、市職員の業務の効率化も図る(詳細は12面を参照)。
●人工知能で回答を自動化 こうして、市民と市の両方がICT活用の恩恵を受ける仕組みを実現することが、スマートシティ案件の獲得への近道となりそうだ。9月の台風シーズン。多摩地区西部に位置する東京都あきる野市の市役所では、電話が鳴りっ放しだった。「台風の日でもごみの収集はあるのか」──。市民から相次ぐ同じような問い合わせに、市職員は休む暇なく対応しなければならなかった。こんなとき、問い合わせへの回答を自動化することができないのか。そう考えたあきる野市が踏み切ったのは、人工知能の活用だ。
人工知能の活用に関しては、このほど日本オラクルのクラウド上の情報管理ツール「Oracle Service Cloud」を採用し、市民向けポータルサイトを刷新した。同ツールの人工知能機能によって、気象の予測などを踏まえ、市民がその日、そのときにどんなことを知りたがっているかを判断し、それらの情報を自動的にデータベースから抽出してサイトに掲載する。市民はスマートフォンなどを使ってサイトに接続すれば、すぐに必要な情報を手に入れることができるので、市役所への問い合わせの電話が不要になる。新しいポータルサイトは、市民は「ほしい」情報を迅速に入手し、市は電話対応の負荷が減るということで、両者のウィン・ウィンを実現している。
[次のページ]