このプロジェクトに要注目! 実例が語るヒント
市と市民とのつながり、観光、エネルギー。スマートシティ活用の分野は幅広い。ポイントは、利用者にとっての利点を明確にすること。以下、各地のプロジェクトを紹介する。スマートシティをどのように提案すれば、受注に結びつけることができるのか。実例を通じてヒントを探す。
CASE 1 【千葉県千葉市】
●3年で登録者を5000人に 千葉市はこれまで、電話やファクシミリで市民から街中の不具合についての情報を収集し、Excelを使って手入力で処理した内容を管理していた。寄せられた情報は、年間およそ1万3000件に及ぶ。「何とかシステム化したい」。対応に追われた市役所の現場が悲鳴を上げたことが、「ちばレポ」をつくるきっかけになった。市は、5年間で6600万円の予算を捻出し、システムの構築・運用に使っている。「ちばレポ」を、市職員が利用する既存システムと連携し、市民が発見して報告した街の課題をできるだけの範囲でデジタルで管理していく。
千葉市長の熊谷氏は、「市民に対して『ちばレポ』の利用をいかに日常的に習慣づけるかが大切。私はすでに登録し、違和感なく使っている」と語る。アプリの主な利用者として、スマートフォンを使いこなし、街の改善に関して責任感が強い30~50代の市民を想定している。現在、「ちばレポ」を用いて報告する「レポーター」の数は1000人を超えており、3年間で5000人の登録を目指す。「ちばレポ」を通じて市民と街の一体感を強化し、「この街、おもしろい」と思ってもらうことによって、他の市への人口流出を防ぎ、地域経済の活性化につなげようとしている。

スマートフォンを活用し、街中の不具合を撮影して報告する ●市長がトップセールス 課題は、「ちばレポ」をいかに「ゲートウェイ」として用い、ICT活用を盛り上げるかである。熊谷市長は、「『ちばレポ』を、市民の生活を支えるいろいろなアプリを紹介する場にしたい」として、開発ベンダーにとっての商機に言及している。さらに、全国展開にも取り組む構えだ。市役所で、システムの活用について自治体の相談に応じる部隊を設け、「私がトップセールスになる」(熊谷市長)というかたちで提案活動を行い、「全国のデファクトスタンダードを目指す」と意気込んでいる。
ICT活用をツールにして、市民に“街のマネージャー”になってもらう。市民とのパイプを太くすることによって、治安や経済といった面で街の改善・活性化を図り、中長期でシステム投資の回収を狙う──。始まったばかりの千葉市の取り組みの今後の展開に、全国の自治体の注目が集まりそうだ。
CASE 2 【東京都渋谷区観光協会】
●「SHIBUYA」を手のひらに 「Welcome to Shibuya」。東京・渋谷区のPRキャラクター「妖精あいりっすん」が海外の観光客をスマートフォンの画面で迎える。忠犬ハチ公の銅像や駅前のスクランブル交差点など、渋谷の主要な観光スポットを多言語で案内するほか、スタンプラリーも用意する。渋谷区観光協会がこの6月に提供を開始した無料アプリ「あいりっすんNavi」だ。
国土交通省・観光庁は、海外から日本を訪れる旅行者の数を2020年までに2000万人に増やすことを掲げている。2013年の実績である約1000万人の倍にあたる目標値だ。世界の観光客に日本の魅力をどうアピールするのか。スマートフォンを活用し、場所を案内したり、スタンプラリーのように遊びの機能を備えたりするICTの仕組みに、期待が高まっている。ITベンダーにとって大きな商機だ。
渋谷区観光協会監修の下、「あいりっすんNavi」を企画してインフラを提供したのは、渋谷駅から約5分の場所に本社を構える日本システムウエア(NSW)だ。昔から渋谷に根づいている老舗SIerの同社は、O2Oモバイルサービス開発・運用基盤「ポスモバ」を利用し、スマートフォン向けアプリのシステムを構築した。特徴は、観光に便利な情報を提供するだけではなく、FacebookやTwitterなどソーシャルメディアとも連携し、観光の感想や街の気づきを共有する仕組みを設けることによって、渋谷というリアルの場をデジタルの世界に“移す”こと。世界各国の人にソーシャルメディアを通じて「SHIBUYA」を認識してもらい、「では、次の旅行は東京へ」というふうに、観光の活性化に結びつける構図だ。
渋谷区観光協会は今後、アプリの対応地域を拡大し、NSWは後方で必要なインフラを届けることによって、観光を切り口に新たなビジネスの創出を図る。

人気スポットの忠犬ハチ公像、歩行者でごった返しているスクランブル交差点、2012年に開業した新ランドマークの渋谷ヒカリエ。ICTを活用して、渋谷の魅力を世界に伝える
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