CASE 3 【福岡県北九州市】
●ママ友とモールで節電 以前から注目されてきた、スマートシティ活用のオーソドックスな領域はエネルギーの分野だ。東日本大震災の発生を機に「電力使用の効率化」の動きが加速したことに加え、2016年以降の電力小売市場の自由化も追い風になって、ここにきて、ITベンダーの取り組みが事業化のフェーズに入っている。
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北九州市・八幡東区のイオンモール。夏の暑い昼下がりには、近所のママ友が冷房の効くモールに集まって、会話をしたり、買い物を楽しんだり。一見、どこにもありそうな光景にみえるが、実は、スマートシティで暮らす主婦たちならではの日課だ。八幡東区の東田地区では、ITベンダーとして日本IBMが旗振り役を務めるかたちで、全国で注目を集めるスマートシティづくりの実証実験が進められている。ハウスメーカーと協業し、住宅にエネルギー管理システムを搭載するほか、電力使用に対する住民の意識を変えるユニークな仕組みを用意。「ダイナミック・プライシング(変動料金制)」というものだ。
この仕組みは、住宅に太陽光発電のパネルとスマートメーターを備え、発電所と蓄電池を連動させながら、複数のエネルギー資源を使うというもの。さらに、時間帯によって、1キロワットあたりの料金が異なる制度を採用し、電力需要が最も高い13~17時の間は、冷房などの使用をなるべく抑えてもらうために、料金を高めに設定している。だからこそ、節約に敏感な主婦は夏の昼下がりを自宅で過ごすのではなく、モールに出かけて節電をしながらコミュニティ生活を満喫するのだ。モール運営者のイオンも巻き込み、スーパーでの買い物に使えるクーポンを発行してもらうことによって、主婦たちに外出を促している。
こうした取り組みの成果も現れていて、ピーク時の電力使用量を平均20%削減することに成功。そもそも「ダイナミック・プライシング」を実現できたのは、スマートシティの実証実験の一環として、八幡東区東田地区を電力会社による電力供給の縛りからはずしたからだ。このように、ITベンダーと自治体が密に連携し、思い切って規制の壁を崩すことによって、スマートシティの土台を築くことがポイントになる。2016年以降、エネルギーの自由化が実行されれば、八幡東区東田地区は全国各地に横展開できる「賢い電力使用」のモデルケースとして注目を集めることになりそうだ。

【Interview】欠かせない提案先への支援 ビジネス化を促す

日本IBM
三崎文敬 部長 日本IBMでスマーター・シティー事業の事業企画推進を担当する三崎文敬部長は、「まさに今、事業化のフェーズに入っている」と言い切る。スマートシティのビジネスとしての仕組みについて、三崎部長にたずねた。
──スマートシティを実現するシステムの販売先には、大きくいえば「自治体」と「民間企業」の二つがある。それぞれに提案するうえでのポイントは何か。 三崎 「民間企業」については、当社は現在、積水ハウスなど住宅メーカーとの協業を進めている。大切なことは、住宅メーカーに単にエネルギー管理システムなどのツールを納入するのではなく、それらによってどんなビジネスの創出ができるかを明確にするという点だ。例えば、エネルギー管理システムをゲートウェイとして、気象情報を分析し、「曇りが続く」や「明日から晴れる」など、天気の予測を踏まえて電力使用をコントロールするというサービスを企画している。このサービスを武器に、住宅メーカーは自社製品の価値を高め、他社との差異化を図ることができるので、ICTを提供する当社にとって、提案がしやすくなると捉えている。
一方、「自治体」に対する提案は、民間企業よりハードルが高く、ビジネス化にはもう少し時間がかかりそうだ。採用を決めていただくうえで一番の障壁となっているのは、導入・運用費用を「既存の予算から捻出できない」ということだ。そんな環境下にあって、当社が力を入れているのは、経産省など国が用意する補助金を活用するために、情報収集や申請の手続きなどに関して自治体を支援することだ。スマートシティは、継続して取り組んでいかないと意味がないので、強い決断力をもつリーダーがいる自治体はどこかを見極め、その自治体の予算取りを手厚くサポートしたい。
──御社は観光を切り口に、京都でのスマートシティづくりに注力しておられるが、進捗はどうか。 三崎 京都では、増える一方の観光客に対応するために、交通を円滑にするバス・鉄道乗換案内システム「歩くまち京都」のプロジェクトが進められている。システムのポイントの一つが、クルマを郊外の駐車場に止め、電車やバスを使って中心部に行く「パークアンドライド」の活用だ。当社は現在、京都市と協力して、駐車場の満車・空車情報をリアルタイムに告知したり、タクシーを含めた交通機関のルートを案内したりする実証実験を担当させてもらっている。継続的に取り組むことができるように、予算取りについて京都市とのディスカッションを進めているところだ。