一時期の熱狂的なブームが収束し、落ち着きを見せるようになったRPA市場。メリットばかりが強調されてきた中で、デメリットについても認識されるようになった。導入支援や運用保守などの関連サービスがそろってきており、導入を検討する企業はますます増加傾向にある。一方で、すでに導入済みの企業の中には、OCRやAI、API連携によって複数のシステムをまたいで業務プロセスを自動化するユースケースが増えている。もはやRPAは単純作業を繰り返すだけのツールではなく、部門やチームをつなぐ結合組織としての役割を担うようになったといえる。新たな局面に突入するRPA市場の動向をまとめる。(取材・文/銭 君毅)
RPA市場は
次のステージへ
量が多く、ミスが出やすい定型業務で大きな威力を発揮するRPA。まさに人が嫌がる作業を代行してくれる頼もしい存在だと言える。わかりやすく省人化でき、ツールによっては小さく始めることができるだけに、働き方改革の“特効薬”として大きな話題となった。
しかし、よく効く薬には副作用もある。人が担っていた業務をそのまま代行するため業務内容がブラックボックス化してしまったり、レガシーなシステムをそのままに自動化してしまうことで本来改善すべき非効率的な業務フローの延命につながるといった点などがその一例だ。RPAの導入時には綿密な業務分析が必須になるという認識は一般的なものになりつつある。
また、導入後に関しても、その簡単さが故に管理しきれないほどのロボットを作成してしまい、ガバナンスが利かなくなるケースも多い。人の管理から外れた“野良ロボット”対策のためにはビジネス部門とIT部門が連携し適切な管理運用体制を構築していく必要がある。
こういったRPAが持つメリットとデメリットはここ数年で明確になった。同時に、その対策も確立されつつある。コンサルティング事業者はRPAを起点とした業務分析サービスを開始し、ツールベンダー各社は積極的にマネジメント機能を拡充している中で、RPA導入のハードルは下がってきている。
導入だけでなくその後の運用や管理までを安定させている事例も数多く出てきている。そうした中で、RPA市場を俯瞰した調査を見てみると、ユーザーのニーズに変化が表れていることが分かる。
MM総研の調査によると、2019年1月時点で年商50億円以上の企業1112社のうち、RPAを導入済みの企業は32%。18年6月時点と比べて約10ポイント近く増加しており、大企業を中心としてRPAの利用が拡大傾向にあるとみられる。また、注目すべきは、導入済み企業の中で利用拡大に前向きな方針を持つ企業が79%に上ることだ。導入済みの多くの企業がRPAの効果に高い満足度を示しており、スケールアップに高い関心を持っていることが分かる。
しかし、RPAツール単体での自動化には限界がある。適用業務を拡大するにしても、おのずと複数システムとの連携やアナログな業務の電子化などが必要になってくる。RPAベンダーから見たとき、これは新たなビジネスチャンスでもあり、市場は本格的な普及へと動き出そうとしている中で、各社は拡大するユーザーニーズへの対応を急いでいる。
市場に合わせた
ベンダーの動き
RPAベンダー側の対応としては、RPAツール以外の自社サービスと組み合わせて提供するほか、独自のマーケットプレイスを構築するなど、パートナーと連携していく方針を示している。
例えば、かつてOCRサービスをメインサービスとして提供していたKofaxでは、RPAツールの「Kofax RPA」とOCRや電子署名サービスなどを一つのプラットフォームに統合。「インテリジェントオートメーション(IA)」として提供している。アナログ業務をデジタル化できる機能をそろえたほか、ロボット管理機能やビジネスプロセスマネジメントを包括することでガバナンスを利かせつつ、システム間の結合組織としての役割を担うことができるようになる。特に、Kofax RPAなどのサービスをすでに利用している既存ユーザーに対しては、IAの無償トライアルを提供しており、スケールアップのニーズに対応している。
NTTアドバンステクノロジ 高木康志取締役
また、18年時点でRPAツール「WinActor」の導入社数が国内3000社を超えたNTTアドバンステクノロジでは19年では5000社の導入を見込む。その背景には、「WinActorの現場フレンドリーな使い勝手と柔軟な管理機能が評価されているから」と、NTTアドバンステクノロジのAIロボティクス事業部長の高木康志取締役は語る。全社的にRPAを展開する場合、ボトムアップでは部分最適にとどまったり、トップダウンではビジネス部門の細かな要望に対応できないといったケースがある中で、現場が使いやすく企業全体で管理しやすいというどちらの手法にも対応した特性が受け入れられているのだという。
また、同社ではRPAの周辺サービスとしてAI-OCRや、音声自動テキスト化機能、チャットボットなどを有する。直近ではWinActorユーザーの中で周辺サービスの案件も増えており、特にAI-OCRの問い合わせは日に10件近くまで増加しているという。ERPと組み合わせ提案するケースも増加傾向にあるといい、ERPを導入する際のオプションとしてWinActorを一緒に導入することも多い。
RPAIという
可能性
「総人口の減少という不都合な現実がある中で、働き方改革で労働時間も減る。24時間365日働けるRPAであれば生産性を数倍にできる。AIによって学習できればさらに優れた生産性を実現できる。私の興味はAIにある」。オートメーション・エニウェアが6月に開催したプライベートイベントに登壇したソフトバンクグループの孫正義会長兼社長はそう語った。
「RPAI」はソフトバンクグループの孫正義会長兼社長一押しのテクノロジー
人が設定した作業を繰り返すRPAにとって、構造化されていないデータを扱ったり、非定型の業務を自動化するのは苦手分野だ。単純な反復作業だけでなく自律的な判断を下しながら業務フロー全体を自動化できるようにクラスアップするにはAIとの連携が不可欠になる。人の手を代替するRPAと人の思考を代替するAIの融合はまさに次世代の労働力を獲得しようとする取り組みだといえる。
また、ロボットの性能自体を向上させるためにもAIの存在は見逃せない。アプリケーションやソフトウェアのバージョンアップの度にロボットが停止しないよう、高い認識精度が求められる。これに画像解析エンジンが寄与する要素は大きい。
すでにAIをサービス化し、RPAと組み合わせて提供しているのがオートメーション・エニウェア。米国でトップクラスのシェアを持つ同社は、RPAプラットフォーム「Automation Anywhere Enterprise」の自動化する業務フローを「IQ Bot」が継続的に学習することで人が介在する作業を低減する。また、IQ Bot自体が非構造化データの認識に特化したエンジンである一方で、「IBM Watson」などといった他社が提供するAIソリューションと組み合わせることも可能だ。直近では日本語対応したOCR機能をプラットフォームに包含する形で実装しており、プラットフォーム単体でカバーできる業務範囲を拡大させている。
UiPathの長谷川康一代表取締役CEO(写真中央)とパートナー関係者
また、UiPathではAIに特化したパートナープログラムを新たに整備し、エコシステム全体でAI対応へと踏み出している。それぞれのパートナーの持つAIソフトウェアを同社のマーケットプレイスに追加していく。多くのRPAベンダーがマーケットプレイスを構築し、パートナー各社のソリューションを載せている中で、同社ではAI連携の多様さを強みとしていくとみられる。また、これらのAI機能をマネジメントするサービスを提供していく予定で、AI機能のバージョン管理や自動化フローへの実装を容易にする「AI Fabric」の開発を進めている。
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