2019年10月15日から18日までの4日間、千葉市の幕張メッセで開催された「CEATEC 2019」。20回目の節目を迎えた今回は、展示スペースを1ホール拡張し、出展者数は787社・団体と前年を上回ったものの、来場者数は14万4491人と前年を下回った。16年に「脱・家電見本市」を標榜し、「CPS/IoT Exhibition」「Society 5.0の総合展」へと転換してから来場者数が減少したのは初めて。CEATECの動きは、現在のIT・エレクトロニクス業界が置かれた立場をそのまま表現する場ともなっている。CEATECがこの先進む道とは――。
(取材・文/大河原克行)
異業種企業の出展が増加
19年9月下旬。日刊紙各紙が、パナソニックがCEATEC 2019に出展しないことを相次いで報じた。
00年に「エレクトロニクスショー」と「COM JAPAN」の二つの展示会を統合し、「IT・エレクトロニクスの展示会」としてCEATECがスタートして以来、昨年まで19回連続で出展し、主役の座の一角を守ってきたパナソニックの不参加は注目を集めた。パナソニックは出展しない理由として、「対象となる顧客が明確な展示会に優先して出展するため」とした。
もともと家電見本市と位置付けられてきたCEATECは、電機大手各社の年末商戦向けの新製品や未来のエレクトロニクス技術が一堂に展示され、来場者もそれを目的として会場に訪れていた。来場者の中心は、IT・エレクトロニクス業界の関係者や消費を支える熱心なファンたちであり、対象は明確だった。
しかし、16年に「脱・家電見本市」を打ち出し、「CPS/IoT Exhibition」「Society 5.0の総合展」へと転換して以降、CEATECの様相は大きく変化してきた。主役だった電機大手8社の出展がそろわなくなり、代わって異業種企業の出展が増加。金融機関や旅行会社、建設機械メーカー、コンビニエンスストアなどの出展が相次いでいる。
今年もその様相は変わらなかった。30年の未来の「まち」を実現することをテーマに異業種企業が相次ぎ出展した主催者企画展示コーナー「Society 5.0 TOWN」には、ANAホールディングス、大阪ガス、大林組、関西電力、清水建設などが初出展。さらに、三井住友フィナンシャルグループ、バンダイナムコ、JTBなどが昨年に引き続き出展した。このエリアには、金融、製造、流通などの業界から、24社・団体が出展している。
実は、CEATECは16年以降、出展者の半数が新たに出展する企業であり、来場者の3分の1が初めて来場する人という状況が毎年続いている。今年もその傾向が見られ、4年連続でこの状況が続いた結果、CEATECは出展者、来場者の構成内容において、かつてとはまったく別の展示会に変化している。
開催初日には、20周年の節目を迎えたことを記念し、20回連続で出展した企業/団体を表彰したが、その数はわずか19社。電機大手では、富士通、シャープ、三菱電機の3社だけであり、パナソニックは19回、NECは18回。そして、日立製作所、ソニー、東芝はそれを下回っている。
20回連続の出展表彰でNECの遠藤信博会長(左)から盾を受け取った
富士通の時田隆仁社長
電子情報技術産業協会(JEITA)、情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)、コンピュータソフトウェア協会(CSAJ)という三つの業界団体が主催する大型展示会だけに、本来ならばそれぞれの業界団体の幹事企業はこぞって参加するのが慣例だ。実際、当初はその傾向が強く、電機大手8社全てが出展を続けていた。
しかし、リーマン・ショックの影響や日本経済の低迷、テレビやパネルで国際競争力を失った日本の電機大手の業績悪化などの影響があり、13年に日立製作所、14年にソニー、15年には東芝がそれぞれ出展を見送り、電機大手各社の足並みがそろわなくなってきた。これは部品メーカーや精密機器メーカーも同様であり、卓球ロボットで注目を集めたオムロンやいち早くスマートグラスを展示して話題を集めたセイコーエプソンも、2年前から出展を取りやめている。
「DX」に取り組む来場者へ訴求
出展者の変化とともに、来場者層にも変化が起きている。
CEATEC実施協議会によると、ここ数年は「IT・エレクトロニクス業界をはじめ、モビリティや金融、旅行や住宅など、あらゆる業界、業種から、まんべんなく来場している」という。いわば、幅広い産業からの新たな来場者を得ることでCEATECは盛り返してきたわけだが、それは裏を返せばパナソニックが指摘するように、対象となる顧客が明確な展示会ではなくなってきたことを意味するともいえる。
しかし、こうした見方が的確かというと、そうとも言い切れない。あらゆる業界から来場者が訪れているという事実は、従来の業界ごとに分けた切り口から見れば、来場者が「分散化」したと捉えることができるが、横串した切り口から見れば、新たな来場者層を「統合化」したと捉えることもできるからだ。
では、どんな層を統合化したのか。それは、「デジタル」あるいは「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という領域にかかわる人々だと定義できるだろう。先に触れた「Society 5.0 TOWN」で出展各社が披露したのは、テクノロジーを活用した新たなソリューションだ。そして、共創を前提にした展示を通して、さまざまな業界から訪れる来場者に訴求した。
例えば初出展のJapanTaxiは、タクシーに搭載したドライブレコーダーからデータを取得する仕組みを展示。このデータを活用して新たなビジネス創出につなげるための提案を行った。日本交通の4600台のタクシーだけで、1週間で都内の9割の道を通行しており、都内のあらゆる場所の最新の映像データを蓄積できる。工事箇所や渋滞箇所、ガソリンスタンドに表示されている価格や駐車場の空き情報、あるいは人気ラーメン店の行列ぶりまで情報を収集できるという。だが、自社だけではこのデータを活用できる範囲には限界があるため、CEATECの展示を通じて異業種企業からアイデアを得て、共創につなげる狙いがあった。
こうした「デジタル」あるいは「DX」という切り口で提案をすることができる展示会はCEATECしかない、というのが出展者に共通した声だ。
初めて都道府県知事の基調講演として、広島県の湯崎英彦知事が登壇した
今回は20回目で初めて都道府県知事の基調講演として、広島県の湯崎英彦知事が登壇したが、地方公共団体にありがちな企業誘致の話は一切なく、DXや働き方改革を紹介し共創を促すものになった。これも、CEATECの新たな姿を示すものとなった。
CEATEC実施協議会によると「業界の枠を超えた企業同士、あるいはスタートアップ企業や海外企業、政府・自治体などが共創するきっかけになる展示会との認識が高まっている」という。さまざまな業界から来場者を得ることによって成り立つ展示会が今のCEATECの姿であり、そこにCEATECの価値が生まれている。そしてそれは、IT・エレクトロニクスが向かうべき姿ともいえる。
というのも、この動きは主催団体の一角を占めるJEITAが進めている路線とも合致するからだ。
JEITAは、17年5月の定款変更によって、従来は「エレクトロニクス製品を生産する企業」としていた会員資格を、「エレクトロニクス製品を使用し、サービスを提供する企業」へと範囲を広げた。すでに、トヨタ自動車、JTB、バンダイナムコ、LIXIL、TOTO、セコムなどがJEITAの正会員として加盟。今年度は、JEITAの副会長に、JTBの田川博己会長、セコムの中山泰男社長が就任している。
JEITAの会長を務めるNECの遠藤信博会長は「今ではIoTやビッグデータ、人工知能の技術の進展により、産業構造や社会構造そのものが大きく変わりつつある。それによって、業界団体の役割も大きく変わり、従来型の産業の垣根は崩れ、単一の業界のことだけを考えて行動する時代ではなくなった」と言い、「日本が目指しているSociety 5.0の世界は、あらゆるものがインターネットでつながり、データを共有することで、多くの人が積極的に価値創造に参画し、自分に合ったライフスタイルと幸せを実現できる社会である。JEITAにはこのプラットフォームを構築する上でなくてはならない企業が集結しており、まさにSociety 5.0を支える業界団体と言っても過言ではない。業種、業界、地域、国家の枠を越えたデータの利活用には、ルールの策定、標準化などが必要であり、それを従来の枠にとらわれずに、スピーディーに行わなくてはならない。JEITAは、そのために変化していかなければならない」と指摘する。JEITA自らがITを活用する企業までを取り込んだ業界活動を開始。それらの企業との具体的な共創を行う場としてCEATECが位置付けられている。
こうした動きが、IT・エレクトロニクス業界にとって、避けては通れないことは、多くの人が気づき始めている。
冒頭に触れた、パナソニックがCEATEC 2019への出展を取りやめたことを報じた内容をみても、パナソニック独自の判断による事実を述べただけで、かつて日立やソニーが出展を取りやめたときのように、「CEATECの衰退」といった表現が用いられることはなかった。
裏を返せば、CEATECには、「CPS/IoT Exhibition」「Society 5.0の総合展」としての地盤が作られつつあることをメディアも認めているということである。大手電機が出展していなくても、その動きは、もはやCEATECの屋台骨を揺るがすものではないともいえる。
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