ネットワークに強みを持つ各社が、運用やセキュリティーなどの機能をクラウドサービスとして提供する「NaaS(Network as a Service)」の活性化に向けて取り組みを強化している。これまでもIT市場のキーワードとしては存在していたNaaSだが、かつては初期費用の抑制といったコスト最適化が主眼だったのに対し、近年は人手不足やセキュリティーリスクといった、企業にとっての死活問題への対応としての側面が強くなっている。新たな時代のITインフラとして進化するNaaSの今を追う。
(取材・文/南雲亮平)
人手不足やAI活用に対応
企業がネットワーク環境を構築する際、一般的には物理的なルーターやスイッチなどの機器、ファイヤーウォールをはじめとしたセキュリティー製品を用意するとともに、通信事業者と契約してインターネット接続を確保する。拠点間接続を行う場合はVPN機器なども必要になる。そして、設定や保守、運用を行う専門の人材を自社で抱えることも避けられない。
NaaSの場合はどうか。サービスごとに内容は異なるが、基本的には多くの作業を事業者に委託できる。近年のNaaSでは、スイッチやセキュリティー機器などが仮想化され、クラウド上で提供される。ユーザー企業は最小限のハードウェアを各拠点に設置し、管理コンソールからネットワークの選択や操作を行うだけで構築が完了する。必要な帯域幅やサービスレベルも柔軟に選択できるため、通信量の増減に応じて帯域幅を調整し、コストを最適化する運用が可能となる。さらに、セキュリティーを最新の状態に保つことや、障害の監視・解決も事業者側が担う。
NaaSに対する需要の拡大が期待できる要因は主に二つある。一つはAIの急速な普及だ。AIの本格的な活用が進むにつれ、企業内のさまざまなデータを参照する機会が増えているが、実際の企業では地方のデータセンターやクラウドなどにもデータが分散しており、トラフィックの増大につながっている。AIエージェントがSaaSやほかのAIサービスを利用して自律的に業務を進めるようになると、通信量の予測はさらに難しくなる。数年単位の契約中に帯域幅を変更する場合、社内手続きや書類作成、依頼、実作業などに時間がかかる。NaaSなら社内の手続きとウェブポータルでの操作だけで、変動する需要にも迅速に対応できる。
もう一つの要因は人手不足だ。ネットワーク運用や機器管理には領域ごとに高度な専門スキルが求められるが、労働人口の減少が進む中で人材確保は厳しさを増している。こうした業務を一貫して委託できるNaaSは、回線の確保から運用代行まで幅広く対応できる有力な対策と言える。
従来のNaaSは初期投資の抑制やVPN整備、大規模なネットワーク運用の効率化といった面が重視されていたが、現在は、ネットワーク自体に高度なセキュリティー機能など通信以外の付加価値が加わっている点が大きな特徴となっている。
NTTドコモビジネス
“土管”から高機能サービスへ
NTTドコモビジネスは、「docomo business RINK」を展開している。企業経営におけるAI活用に最適なITインフラとして同社が提案する「AI-Centric ICTプラットフォーム」の中核となる事業で、光接続などのインターネット回線と、ネットワークに関係するさまざまな機能を、クラウドサービスのようにオンデマンドで利用できる環境を提供する。
NTTドコモビジネスの中村匡孝担当部長(左)と、前田隆志部門長
プラットフォームサービス本部クラウド&ネットワークサービス部の中村匡孝・販売推進部門担当部長は、「昔のインターネット回線は、ただ通信できればいいだけの“土管”として扱われていたが、今ではインターネット側にさまざまな機能を加えることができるようになり、インテリジェント化が進んでいる」と語る。
同サービスの強みは、ネットワーク網そのものにセキュリティー機能を統合している点にある。独自の「WANセキュリティ」により、ネットワーク内の脅威検知や振る舞い検知が可能だ。ほかのセキュリティー製品と組み合わせることで、EDR(Endpoint Detection and Response)が導入しにくい機器を含めた多層防御を実現し、脅威侵入後の迅速な対処を支援する。
運用面では、専用ポータルから帯域変更や拠点追加が即時に可能となる。従来、紙ベースの手続きで2週間かかっていた作業を、最短5分で完了するという。5Gを活用したワイヤレスアクセスも提供しており、物理回線の敷設が困難な場所や短期間のみ利用する拠点でも、早ければ10日ほどでインターネットを開通できる。同部の前田隆志・第1サービス部門長は、「ドコモグループの強みを生かし、通信容量無制限のプランを提供している点も大きな特徴だ」と説明する。
最近では、柔軟なインフラを求める需要を受け、工事現場や多店舗展開の小売・外食産業、物理回線が届かない山間部の物流倉庫といった現場への利用が広がっている。2025年からはパートナープログラムも始まった。地方の独自経済圏や各業態ごとに強みをもつSIerなどと連携し、さらなる導入拡大を目指す。
Coltテクノロジーサービス
API連携で世界と接続
Coltテクノロジーサービスは、主に海外と通信する必要がある企業をNaaSで支援している。同社のNaaSでは、Webポータル上でイーサネットや主要クラウドサービスへの接続、インターネットアクセスなどの回線サービスを発注・管理できる。強みとしているのは、世界中に広がる同社のネットワークとポータルをAPIで接続している点だ。
Coltテクノロジーサービスの
ミッチェル・モルダー本部長(左)と中川雄太プロダクトマネージャー
グローバルでサービスを展開する同社は、世界各地にインターネット回線を保有しており、それを支える機器も世界各地に配置している。従来は、ユーザー企業が海外のColt回線に新たに接続する際、現地スタッフが接続元や接続先の機器をそれぞれ設定・運用する必要があったが、現在はポータルからの操作だけで自動的に接続できるようになった。中川雄太・プロダクトマネージャーは「人の手を使わずに実現できるのは革新的だ」と語る。
導入シーンは多様だ。決まったタイミングで大量のデータ送信が必要なテレビ会社や、低遅延が求められる金融業界などの事例がある。災害時のリカバリー用途として通常時は最小帯域で維持し、有事のみ即時に増速するといった柔軟な利用も広がっている。
4月に正式発表を予定している独自の「Smart Path」機能も大きな特徴となっている。ユーザーはポータル上で、特定の海底ケーブルや地政学的リスクのある地域を避けるルートや、低遅延で最短のルートを自由に選択できる。さらに、各ルートのカーボン排出量も表示され、企業のESGへの取り組みにも貢献できる仕様だ。
NaaS普及に向けた課題としては、会社内に定着しているプロセスが挙がる。インターネット回線を用意する場合、社内予算の確保にあたっては費用が変動しない固定料金のサービスのほうが先々の見通しを立てやすく、承認を得やすい。一方、ネットワークをオンデマンドで柔軟に活用する場合、費用が変動するため、承認取得に必要な見積もりも出しにくい。
ただ、同社でアジア地区のセールスエンジニアリング&プロダクトマネジメントを担当するミッチェル・モルダー・本部長は「情報システム部門を整えるのが難しい中小企業などにもNaaSは適している」と話す。ネットワーク管理を専門家に任せられる上に、適切に利用すれば固定契約より安く済む場合もあり、人手不足解消やコスト最適化に繋がると強調する。
ネットワンシステムズ
運用を意識しない状態を提供
従量課金制ではなく、定額制のNaaSを提供する企業もある。ネットワンシステムズは、米Cisco Systems(シスコシステムズ)出身の経営陣が手掛ける米Nile(ナイル)のNaaSを国内で展開する。料金体系はデバイスやユーザーの数に応じたものではなく、オフィスの面積に基づく定額制を採用しており、費用の見通しを立てやすい点が特徴となっている。この料金制度の目的について、ネットワンシステムズビジネス開発本部プロダクトマネジメント部第1チームの吉田繁晴・エキスパートは「ユーザー企業が運用を意識せずに済む状態をつくることにある」と説明する。
ネットワンシステムズの
井上勝晴マネージャー(左)と、吉田繁晴エキスパート
ナイルのNaaSは、ハードウェアや保守部材を含め、すべて同社が保有する機器の設置を前提としている。完全リモートで運用できる体制を構築することを目的としているため、ハードウェアにコンソールポートなどはない。これにより、OSのバージョンや実行されているプロトコル、ハードウェアやソフトウェアの設定、構成、配置が標準化され、遠隔地から容易に管理できる仕組みとなっている。
ユーザー企業は、ネットワークの設計から構築、24時間365日の運用・保守までを一括してアウトソースできる。同社はサービス品質保証も掲げており、AIとデジタルツインによる予兆検知や自己修復機能を備える。同本部イノベーション推進部ビジネス開発チームの井上勝晴・マネージャーは、整備された環境でデータを得られることで「AIが状況を把握しやすく、活用もしやすい」と話す。セキュリティー面でも、デバイス単位でネットワークを細分化し、セキュリティーポリシーを適用するマイクロセグメンテーションを自動で行うため、煩雑なVLAN設計が不要になる。
主なターゲットは従業員500人以上の中堅企業や大企業を想定している。ネットワーク機器をすべてナイルが用意したものに切り替える必要があるため、リプレースや新規オフィス開設時などに提案を行う。現在は、全国に小規模拠点を持つ物流業者などで活用が進んでいるという。