【米ラスベガス発】6月15~18日(米国時間)の4日間にわたって米ラスベガスで開催された米Everpure(エバーピュア、旧Pure Storage)の年次プライベートカンファレンス「Pure Accelerate 2026」は、フラッシュストレージ市場で多くの実績を重ねてきた同社が、ストレージベンダーからの脱却を高らかに宣言した場でもあった。世界中の企業が「AIに仕事をさせる」フェーズに入りつつある現在、AIの性能を最大限に発揮させるべく、データは常に“AI-Ready”な状態であることが求められているが、社名からあえてストレージを取り除いたエバーピュアは、企業のAI-Ready化をどう支援しようとしているのか。現地での取材をもとにレポートする。
(取材・文/五味明子)
「ストレージがわれわれのビジネスにとって重要な存在であることは今も変わりない。しかし、社名に“ストレージ”が含まれていることで、現在の生業であるデータビジネスとは乖離している印象を与える可能性が大きい。今回の社名変更により、AIとデータがわれわれのビジネスの中心であると明確に示すことができたと思っている」ーーカンファレンスの会期中に行ったインタビューで、日本法人ピュア・ストレージ・ジャパンの五十嵐光喜社長は、エバーピュアへの社名変更についてこう語った。
ピュア・ストレージ・ジャパン
五十嵐光喜 社長
同社は2026年2月、創業時から親しまれてきたピュア・ストレージという社名をエバーピュアに変更し、同時にデータディスカバリー(探索)やデータコンテキスト化を得意とする米1touch(ワンタッチ)の買収を明らかにした。創業時から長く親しまれてきた社名の変更と、データ領域で高い評価を獲得してきたワンタッチの買収、この二つの大きな発表を同時に行ったことで、エバーピュアはストレージベンダーのイメージから脱却する意図を明らかにしたと言える。
今回のカンファレンスは、エバーピュアへの社名変更後にはじめて開催された大きな商談の場でもあるが、五十嵐社長は、顧客の反応について「非常に前向きに受け止めていただいている」とコメント。「データを重要な資産として扱うというわれわれの一貫したアプローチが、今回の社名変更でより正確に顧客に認識されたと実感している」と強調する。
ネットワールド
平松健太郎 執行役員
パートナーからも好意的な評価が目立つ。カンファレンスに参加した、ピュア・ストレージ時代からのディストリビューターであるネットワールド執行役員の平松健太郎・マーケティング本部長は「エバーピュアという新しい名前には、ストレージの枠を超えてAIやデータ活用分野へ本格的に踏み出す強い姿勢を感じる。パートナーとしても共同マーケティングを通じてその魅力を発信していきたい」と語る。「長年親しんできた“ストレージ”という言葉が消えてしまうことには若干寂しさを覚えるが、AIへの本格的なシフトを宣言したことはポジティブな動きとして受けとめたい」(同)。
戦略の中心は「データプライマシー」
ストレージベンダーからの転換は、以前から取り組んできたデータビジネスの延長線上にあるというのがエバーピュアの主張だが、同社は今回のカンファレンスで「データプライマシー(Data Primacy)」というあまり聞き慣れないコンセプトを提示した。
米Everpure
チャールズ・ジャンカルロ CEO
チャールズ・ジャンカルロCEOはこのキーワードについて、報道関係者に対し「AIがスケールしている現在、大規模なAIに対応するには、データが普遍的でコンテキストに沿っており、なおかつセキュアな状態が保たれていなければならない。しかし、現在の企業システムはアプリケーションを中心に構成されており、AIが対話しようにも数十、数百の異なるシステムに問い合わせることになる。一方、データプライマシーは企業が自らデータを制御し、コンテキストを構築するデータ中心のモデルだ。われわれは今後、データプライマシーというコンセプトにもとづき、AI-Readyなデータ環境を構築するソリューションを提供していく」と説明している。
そして、データプライマシーなモデルの実現に向けて、エバーピュアが最初に行ったアプローチがワンタッチの買収だ。プラットフォームを「データを見つける」段階から「データを理解する」段階へと進化させるサービスとして、今回のカンファレンスでは「Everpure Data Intelligence」を発表。これはワンタッチの技術によって実現したものだ。
エバーピュアコアプラットフォームビジネスユニットのショーン・ハンセン・バイスプレジデント兼ジェネラルマネージャーは、「AIに仕事をさせるにあたっては、データがあるだけでは不十分だ。ワンタッチの技術がエバーピュアのデータインテリジェンスサービスとして新たにポートフォリオに加わったことはわれわれにとって大きな強みとなる」と話す。
米Everpure
ショーン・ハンセン バイスプレジデント
半導体価格の高騰にどう対応するか
もっとも、冒頭の五十嵐社長のコメントにもあったように、エバーピュアにとってハードウェアビジネスが現在も重要な位置を占めていることには変わりない。しかし現在、AI需要が爆発的に増加したことにより、半導体を中心とするハードウェア部品の価格高騰と供給不足および納期遅延が世界中で深刻化しており、当然ながらエバーピュアの顧客もその影響から免れない。
ジャンカルロCEOはこの問題に対し、「製品の納入を心待ちにしている顧客やパートナーに対しては本当に申し訳なく思う。半導体価格は過去6カ月で6~8倍にも上昇し、われわれも製品価格を上げざるを得なかったことは事実だが、決して便乗値上げなどは行っておらず、粗利率も低い水準にとどめている」と説明、顧客やパートナーに対して現状への理解を求めた。
ネットワールド
野田早希 課長代理
「パートナー企業として、現在の市場に対するジャンカルロCEOの率直なコメントは非常に好感を覚えた」と、ネットワールドマーケティング本部インフラマーケティング部ストレージ課の野田早希・課長代理は評価する。「半導体の価格高騰に加え、円安基調が続いており、日本のパートナー企業は非常に厳しいビジネス状況に置かれている。だからこそわれわれは顧客に対してデータの削減率などを正確に検証し、必要な分だけをスマートに調達、増設する提案を心掛けなければならない。そういう状況にあって、トップが現状を誤魔化さずに話してくれることで、われわれのようなディストリビューターも顧客に対して正面から向き合える」(同)。
こうした状況に対し、エバーピュアはどのように対応していくのか。サプライチェーンにも深く関与するハンセンバイスプレジデントは「3年前はこのような事態は誰も予想できなかった」と前置きしつつ、「エバーピュアはこの厳しい状況の中でも有利な立場を維持できている。われわれの最大の優位性は(1)電力と冷却の効率(2)『FlashBlade//S』という非構造化データのスケールアウトに最適化されたストレージプラットフォーム(3)新しく提供するEvergreen Data Intelligenceーという三つの要素が一つのストレージプラットフォーム上で実現されていることにある。特に貴重なリソースである電力や設置スペースを大幅に削減できる当社独自のDirectFlashモジュール(DFM)は、競合にはまねできない優位性だ。これらをより強固にするため、サプライチェーン各社とは長期的で安定した契約を結んでおり、他社と比較しても安定した製品供給とリードタイムを維持している」と語り、現状の打破を図っていきたいとする。
オンプレミス需要が期待できる日本
AIニーズの高まりを受け、エバーピュアの競合にあたるストレージベンダーもデータマネジメント領域へ次々に乗り出している。こうした世界の変化に日本企業はどのように向き合っているのだろうか。五十嵐社長は「日本企業のAI活用はまだRAG(検索拡張生成)ベースの使い方にとどまっている企業と、AIエージェントの活用を前提にビジネスを変えようとしている企業の二極化が進んでいる。ある意味、RAGからの脱却が一つのターニングポイントになるのでは」と分析する。
また、日本企業の特徴として「データをオンプレミス環境に残したいという要望がいまも非常に強く、セキュアかつ容易にデータを活用できる手段がこれまで以上に求められている」と、ネットワールドの平松執行役員は指摘する。「オンプレミス前提のデータ活用では、アプリケーションデータのサイロ化やデータコピーの肥大化が大きな課題となる。エバーピュアが打ち出したAI-Readyなデータ環境を整えるというコンセプトには大きな期待を寄せている」(同)。
日本企業が抱える課題に対し、エバーピュアのアジアパシフィック(APJ)リージョンで技術を担当するマシュー・ウーストヴェンCTOは「メインフレームなどに蓄積するレガシーデータの扱いは日本独自の課題だ。これらの課題に対してもわれわれが提供するデータインテリジェンスなソリューションは大きく貢献できると思っている」と語る。また、APJビジネスを統括するネイサン・ホール・バイスプレジデント兼ジェネラルマネージャーは「日本企業は導入を決定するまでの期間は長いが、導入してからは当社の製品を長く使ってくれている。ソブリンAIなど厳格なデータマネジメントが問われる場面でも当社の製品を日本企業に選んでもらえるように努めたい」と、日本市場の特性に合わせた製品展開への意欲を見せる。
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記者の私見ではあるが、日本企業のAI活用に関しては「AIエージェントなど『AIに仕事をさせる』段階ではなく、生成AIなどを活用した業務改善にとどまっている」という印象が強い。先進的な企業も現れてはいるが、現状はオンプレミスにある膨大なデータを活用する方法を見いだせていない企業が少なくない。一方で平松執行役員は「現在の日本企業におけるAIへの熱意は、10年以上前のクラウドコンピューティングのブームとは比較にならないほど強くて大きい」と語る。
ハンセンバイスプレジデントは「保守的な環境と最先端のAIを結びつけて一足飛びの変化(リープフロッグ)を遂げるポテンシャルが日本にはある」と語る。保守的な環境から抜け出せないからこそ、日本企業がAI-Readyなデータの重要性に気づいたときに、新たな活路を見つけることができるのかもしれない。