Special Issue

<プリンタメーカー座談会>大震災を契機にコスト削減の気運が高まる インクジェットのビジネス利用が増加

2012/03/01 19:56

週刊BCN 2012年02月27日vol.1421掲載

 2011年、日本経済は東日本大震災に引き続くタイの洪水、ユーロ危機など、自然災害や世界経済動向に大きな影響を受けた。プリンタメーカーもその例外ではなかった。だが、比較的早期に経済環境が復活したことで、2011年のページプリンタの販売台数が大きく落ち込むような事態は避けられた。商品面では、低コストを売りにしたA3インクジェットプリンタの市場が立ち上がり、法人向けの新たな売れ筋カテゴリとして定着しつつある。クラウドコンピューティングとの連携ソリューションが登場し始めた今、プリンタメーカーはどう動いていくのか。エプソン販売、OKIデータ、ブラザー販売、リコージャパンの販売責任者による座談会で実状をうかがった。


リコージャパン
販売戦略本部 プロダクト推進センター 画像I/O事業推進室 室長 山根浩一氏

ブラザー販売
マーケティング推進部長 大澤敏明氏

OKIデータ
マーケティング部 部長 森孝廣氏

エプソン販売
販売推進本部 LP・BIJMD部 部長 鈴村文徳氏

司会:本紙編集長 谷畑良胤


 ――2011年は東日本大震災やタイの洪水などの災害に見舞われた年になりました。影響はいかがでしたか。

 鈴村(エプソン販売)
  大震災、洪水と予期せぬ災害対応に明け暮れた1年でしたが、プリンタ市場全体は予想よりは影響が少なかったと思います。当社の場合も大規模案件はなかったものの販売台数は前年を上回ることができています。

ランニングコストや節電などによるトータルコスト削減はお客様の最大の関心事。
インクジェットプリンタのコストメリットをしっかり伝えたい
エプソン販売
販売推進本部 LP・BIJMD部部長
鈴村 文徳氏
ビジネスインクジェットプリンタ、ページプリンタ、スキャナのマーケティングを担当する。

 森(OKIデータ) プリンタの市場全体として、上期に震災影響がややあったものの、通年では昨年並みの需要はあったと思います。当社でいえば、上期に消耗品の販売量がやや減ったものの、本体販売は大きく伸長できました。下期に入り、タイの洪水の影響で好調な業績にややブレーキがかかる事態となっておりますが、当社のタイ工場が今年1月に本格稼働を再開し、商品供給量も復活しつつあります。通年では昨年度以上の実績は残せる予定です。

 大澤(ブラザー販売) 震災の影響は、数値にはそれほど現れませんでした。震災直後の11年4月には、影響がやや顕在化し、需給調整を含めて振り回されました。しかし、それほど大きなダメージを受けたという印象はありません。11年後半には、リプレース需要で市場が活性化し、毎月の動きをみれば対前年比をクリアできています。

 山根(リコージャパン) プリンタ市場全体については、皆さんと同じ印象です。震災の影響は、当社の場合、一時的に消耗品が少し落ちた程度でした。タイの洪水の影響はありましたが、現在は生産も通常に戻り、お待ちいただいているお客様に順次製品をお届けしているところです。結果として、今年度(12年3月期)はカラープリンタが前年を上回る伸びになりそうです。

 ――各社は2011年度(12年3月期)の期の途中にありますが、売上実績を含めて、特筆すべきポイントは何でしょうか。

 鈴村(エプソン販売)
  全体的にランニングによる売り上げが好調で、台数・金額とも伸ばすことができました。9月~10月より発売開始したビジネスインクジェット・ページプリンタ新商品が共に好調で、特に、低コストで機能を集約したA3インクジェット複合機「PX-1700F」、「PX-1600F」はA3インクジェット複合機市場そのものを伸ばしつつ、シェアも半分以上を占めています。一方で、新商品の生産が追いつかず、お客様にご迷惑をおかけすることになってしまいました。

 森(OKIデータ) 特筆する案件はないのですが、今年度上期は前年同期比130%で推移し、「COREFIDO(コアフィード)」シリーズは180%の伸びを記録し、販売の裾野を確実に広げることができました。また、プリンタのベーシックな性能や使いやすさといった基本をきちんと製品に反映したことやテレビCMを流すことで、ブランド効果がじわじわと出てきたのだと思います。当社は、数年前までは海外市場をターゲットにした商品開発中心でしたが、近年、日本市場向けの商品開発にも注力し、良い商品を増やしてきました。1月には、「第二世代COREFIDO(COREFIDO2)」を出しましたので、さらなる伸びを期待しています。

当社の生命線は、販売チャネルとの信頼関係。
パートナーを巻き込んだ最高の販売モデルの仕組みをつくる
OKIデータ
マーケティング部 部長
森 孝廣氏
商品企画、チャネル戦略、販売促進、SE的な技術支援などを含む国内のマーケティングを担当する。

 大澤(ブラザー販売) 販売実績については、A3インクジェット複合機が全体を底上げしました。2008年秋に初めてA3インクジェット複合機を発売して以来、11年にはエンジンを変えて二代目の機種を出しました。これは印刷スピードが格段に向上し、お客様から高評価を得ています。国内ニーズを取り込み、製品に反映させた結果だと思います。

 A3インクジェット複合機以外にも新製品を多く発売しました。これらは発売当初から好評で、SOHOのお客様に対して、さらに手を広げることができました。また、6月に発売した特定販社向けの「ジャスティオ プロ」は、販売パートナー様との関係を強化できたという点で、特筆できるポイントだと思います。

 山根(リコージャパン) 複数ある販売ルートのうち、法人向けネットショップ「ネットリコー」での販売が前年比約3倍と大きく伸びています。カラーレーザーもジェルジェット(ビジネスインクジェット)も好調です。当社の営業担当者がお客様をネットリコーに誘導することで、製品・サービスの販売増につながっています。

 ディストリビュータルートは力を入れている販路ですが、今年度も着実に販売を伸ばすことができました。システムインテグレータ(SIer)などのシステムルートは医療、流通、自治体など、業種ごとのニーズにあったソリューションを提供する取り組みを継続しています。ビジネスインクジェット領域も強化し、さらに伸ばしていきたいと考えています。あとは直売(グループ販社による直販)ですが、このルートでも大きな案件が多く取れるようになりました。

 製品は全体的に売れており、お客様のニーズに合ったものを提供することができています。

[次のページ]

関連記事

<プリンタメーカー座談会>クラウドとマネージド・サービスが新たなテーマ 2010年度は市場に晴れ間のぞく(前編)

<プリンタメーカー座談会>2010年度もエコとコスト削減が主テーマ 官需を中心にモノクロ機需要増す(前編)

<Industry Chart 業界の今を俯瞰する>ページプリンタ “眠れるプリンタ”が目覚めた 市場低迷から脱出、伸びの兆し

<プリンタ業界の動き>「BMLinkS」の普及なるか 標準仕様SDKを初めて提供