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<ストレージ管理ソリューション特集>有識者に聞く「ストレージ市場の今後」 ―ITR 生熊清司シニア・アナリストはこうみる ストレージの自動運用・効率管理にビジネスチャンスあり

2013/09/05 15:49

週刊BCN 2013年09月02日vol.1495掲載

 企業内に点在するデータを集約・分析して売り上げの拡大につなげたいと考えるユーザー企業が増えている。ユーザーの情報システム担当者は、これまで以上に効率的にデータを格納・分析できる安価なストレージシステムを求め始めた。ユーザーのストレージに対する要望は何か。IT調査会社のアイ・ティ・アール(ITR)でリサーチ統括ディレクターを務める生熊清司シニア・アナリストに話を聞き、SIerのビジネスチャンスを探った。

【プロフィール】
生熊 清司(いくま せいじ)
リサーチ統括ディレクター/シニア・アナリスト

 外資系のコンピュータメーカーとソフトメーカーを経て、1994年に日本オラクルに入社。データベース(DB)ソフトのマーケティング業務などを担当した後、06年にアイ・ティ・アール(ITR)に移籍した。リサーチ統括ディレクター兼シニア・アナリストとして調査業務を統括。ハードとソフト、サービスを問わず、国内IT市場の動向に精通する。


ユーザーの関心が高いのは「売り上げを伸ばすIT」

──多くのユーザー企業が今、投資対象にしているITの分野は?

生熊 ユーザーは「売り上げを伸ばすIT」に高い関心を抱いている。数年前までは「コストを削減するためのIT」を求めるユーザーが多かったが、最近は新ビジネスの立ち上げに必要なITなど、売り上げ拡大に貢献する情報システムを欲している。コスト削減による利益の捻出はひと段落し、母数を増やす(売り上げを伸ばす)ことで利益を増やそうとユーザーが考え始めている証だろう。

──売り上げを伸ばすITとは何か。

生熊 例えば、柔軟なIT基盤だ。ユーザーが新ビジネスの立ち上げを決めたとする。その時に、ユーザーは新たなITの導入を検討するが、以前よりも短期間でITを利用できるようにしたいと思う。また、うまくいくかどうかわからない新ビジネスに最初から多額の投資はしない。まずは最小構成のITインフラを構築し、ビジネスの発展具合に合わせて柔軟にすばやくIT基盤を増強したいと考える。こうした要望に応えるためには、柔軟なIT基盤が必要になる。多額の資金を投じ、長い年月をかけて開発したガチガチな(変更が効かない)システムは受け入れられない。「Software Defined Network(SDN)」や「Software Defined Software(SDS)」など、IT基盤を容易に変更できる技術・ツールが流行している理由は、柔軟なIT基盤をユーザーが求めているからだ。

 SIerにとっては、仮想化技術などを活用した柔軟なIT基盤の提案・構築力がこれまで以上に必要になる。仮想化技術はサーバーからスタートし、今後ストレージ、ネットワークと広がり、データセンター全体にまで広がる。とくに、ビッグデータの処理を考えると、ストレージの仮想化の対応は必須となるだろう。

堅調なストレージ市場
管理を支援するツールが注目浴びる

──データ量が増大する時代にあって、ストレージに対するユーザーの関心はとくに高いとみている。急成長する可能性があるのでは?

生熊 利用するデータ量は増加するが、ストレージの単価は今後も安くなるし、データを効率的に管理するための重複排除技術や圧縮技術も進化する。データが増加した分が、そのままストレージ購入の増加にはつながらない。ハードウェアという観点でみたストレージの量は堅調に伸びるが、むしろストレージ関連のソリューションとして需要が期待できるのは、新型ストレージとストレージの管理・運用ソリューションだろう。

──データの管理を効率的に行いたいというニーズが高まるということか。

生熊 そういうこと。コストを削減するためには、データの重要度に合わせてデータを格納するための装置を変更する必要が出てくる。例えば、頻繁かつ高速に使いたいデータは「Solid State Drive(SSD)」を使い、利用頻度が少ないデータはテープを使うといったことが費用対効果を高めるためには必要となる。日々、絶え間なくデータが増え続けるなかで、この割り振り作業を情報システム担当者が行うのは事実上不可能で、ツールによる自動化をユーザーは求めている。

 最近は、クラウドの登場で自社でストレージシステムを保有するよりもクラウドに預けたほうがいいという声もある。だが、クラウドサービスの機能や長期利用した際のコストを見定めなければ痛い目に遭う。オンプレミス型システムよりも、場合によってはクラウドのほうがコスト高になってしまうケースもあるので、慎重な判断が求められる。機密性の高いデータを社外(クラウド)に格納することを不安に感じるユーザーもいて、自社運用型でストレージを運用するユーザーは、クラウド時代にも確実に存在する。

 私は、企業経営には「ヒト」「モノ」「カネ」に加えて「情報(データ)」が必要だと説いていて、データの金庫であるストレージの重要度は必ず高まると確信している。SIerは、さまざまなストレージを扱う力と、それらを管理するソリューションを提案できる力量が求められていることを訴求したい。


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