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精鋭が揃うプロフェッショナル集団 デル、パートナービジネス拡大へ本格始動

2016/04/21 19:55

週刊BCN 2016年04月18日vol.1625掲載

 デルのパートナービジネスが本格的に始動する。2015年8月、平手智行氏が社長に就任し、パートナービジネスのトップには、平手社長と同時期にデルに入った松本光吉副社長が兼務する。松本副社長が統括するパートナー事業本部の各部門には、パートナー事業に長けた人物が責任者として配属され、直販中心のビジネスモデルを大きく転換し、パートナーと協業するビジネスモデルに大きくシフトした。業界を知る精鋭が揃い、プロフェッショナル集団へと変貌を遂げたデルのパートナー戦略とは、どのようなものなのだろうか。

(左から)根本 勲 シニアマネージャー 経営企画・オペレーション本部、正田三四郎 部長 パートナービジネス開発、本出浩之 シニアマネージャー インサイドセールス、福島一仁 営業本部長 第一営業本部 ディストリビュータ・リセーラー担当、清水 博 マーケティング統括本部長、松本光吉 副社長 パートナー事業本部長、三澤優子 営業本部長 第三営業本部 グローバル営業本部 SIパートナー・グローバルパートナー担当、角野哲也 営業本部長 第二営業本部 SIパートナー担当、瀧谷貴行 部長 ソリューションビジネス開発、細田善行 部長 ボリュームビジネス開発
 

「ディストリビュータ制度」を新設

 パートナービジネスで、デルが実施した最も大きな取り組みは「ディストリビュータ制度」だ。今年1月にダイワボウ情報システム(DIS)とソフトバンク コマース&サービス(ソフトバンク C&S)とディストリビュータ契約を締結。リセラーによるデル製品の取り扱いは基本的にこの2社を介する。

 このモデルによって、SMB向けのビジネスを含め、面的カバレッジを全国に広げるボリュームビジネスは「ディストリビュータがパートナー網の主軸を担う」ことをあらためて示したわけだ。しかも、ディストリビュータが間に入っても、これまでデル製品を扱ってきたリセラーに対する卸値が高くなるようなことは一切なく、それどころか、リセラーに対する支援も強化されている。

 ディストリビュータとのパートナーシップ深耕を担当する福島一仁・第一営業本部長は、「ディストリビュータ様と協力し、全国のリセラー様に製品・ソリューションの情報や商材を提供していく。過去を振り返ると、リセラー様は当社と競合関係にあった。今回の制度で、協業できるメーカーとして認識いただけるよう努めていく」という。
 

リセラーが売りやすい環境を整備

 また、リセラーの売る意欲を高める制度も重要になってくる。そのためデルは、リセラーを「Premierパートナー」「Preferredパートナー」「Registeredパートナー」という三つの認定レベルにカテゴライズして、トレーニングコースの受講や担当エンジニアの確保、収益目標の達成などの要件を満たすごとに認定レベルが上がっていく仕組みをつくった。リセラーが得意とする製品分野に対する支援策を手厚くしたり、デルの専門チームをアサインしたりなど、それぞれのリセラーに適した支援策を提供している。

 本出浩之・インサイドセールス・シニアマネージャーは、「デルは多くの中小のお客様を抱えていてニーズを熟知している。リセラー様がエンドユーザー様の利便性を向上するための商材を提供していく環境が整ったのではないか」と捉えている。さらに、「『デルモデル』といわれた強力なインサイドセールスチームが、今後はパートナー様とのビジネス拡大に、豊かな経験とノウハウを生かしてサポートしていく」と強調する。
 

パートナーの流通改善にも

 ディストリビュータ経由のビジネスモデルを構築するのは、リセラーへの流通を改善することにもつながる。ユーザー企業のなかで、とくに中小企業は製品を購入する際、迅速な納品を意識する傾向が高い。こういったケースは、PCやワークステーションなどで多い。そこで、ディストリビュータが売れ筋商材を在庫としてもつようになれば、リセラーにとっては、ユーザー企業に対して迅速に製品を納品できるようになるわけだ。

 細田善行・ボリュームビジネス開発部長は、「PCやワークステーションを全国のお客様にスムーズに届けるべく、さまざまなプロセス改善を実施していく。そして、パートナーの皆様の期待に応えていく」としている。
 

SIerの役に立つ存在に

 他のコンピュータベンダーが分社化、集中化するなか、製品のフルレンジを抱える点で「デルだけを注視していれば製品トレンドがわかる」と称するSIerは少なくない。そのため、SIerとのビジネスも多岐に渡り着実にビジネスも拡大している。

 SIerを担当する角野哲也・第二営業本部長は、「SIer様とのお付き合いも緊密になってきている。デルのできることをご理解いただき、USのラボの力なども借りて、年々高度化したご提案をさせていただいている」という。

 また、ユーザー企業の海外進出に伴って、デルのパートナーになり得るSIerのグローバル化が進みつつある。さまざまな製品をもつデルでも、日本企業をグローバルにサポートする案件が増加している。そのため、グローバルに展開するSIerと、より密な関係を構築することは、日本企業の競争力強化の支援につながる。このような点も、デルがパートナービジネスを加速させる要因だ。

 第三営業本部の営業本部長とグローバル営業本部の営業本部長を務める三澤優子氏は、「サーバー、ストレージ、仮想化、PC製品をもつシングルベンダーのデルは、パートナー様の多様化する要望に広範囲に応えることができる。グローバル市場を含め、さまざまなプロジェクトで連携していきたい」との考えを示す。
 

ISVとの共同マーケティングも

 デルの製品は、業界標準の技術を搭載し、さまざまな製品やソフトウェア、サービスと組み合わせやすいという強みがある。直近では、メディアマートと協業してIBMの統計解析ソフトウェア「IBM SPSS Statistics」をデルの検証されたハードウェアと組み合わせて販売協業することを発表している。デルでは、ISVとの協業にも取り組んでおり、決め手になるのが連携強化を目的とした「デル ISVパートナーエコシステムプログラム」だ。この制度では、認定されたISVがデルと共同でマーケティング/販売プロモーション活動を展開していく。各ISVが得意とする分野ごとに、ユーザー企業の業種/用途に応じたソリューションモデルの開発やデルのウェブページを利用した販売プロモーション、ハードウェアの検証環境やベンチマーク環境の提供/支援などを行っている。

 この分野で豊富な実績をもつ瀧谷貴行・ソリューションビジネス開発部長は、「SIer様、リセラー様とのビジネスには、今後、ISV様とのソリューションビジネスの推進がますます重要。デルの強みである、オープンなハードウェア、ISV様とのエコシステム、数十万を超える顧客ベースをもとに、お客様のニーズを分析し、パートナー様と共同で新規市場を開拓できる」としている。
 

パートナーが抱く今までの誤解を解く

 デルが調査会社と共同でSIerやリセラー、ユーザー企業を対象としたブランドイメージに対する調査を実施したところ、一つに「SIerにとってメーカーイメージが希薄」との結果が出てきた。これは、ダイレクト販売のみでSIerが競合になると意識していることのあらわれだ。この誤解を解くため、正田三四郎・パートナービジネス開発部長は「『デルだからできること』、例を挙げると当社がこれまで直接販売で育んできた数十万社のお客様の購入意思決定者とのリレーションを生かして、パートナー様のソリューションを直接紹介するという、当社ならではの協業モデルをますます強化していく」と訴えている。

 経営企画・オペレーション担当の根本勲・シニアマネージャーも、「当社には、ユーザー企業のさまざまな情報がある。この情報を活用することで、効果的なターゲットの選定と販売施策をパートナー様に提案することができる」とし、今後のより一層ピンポイントな戦略を立案中である。
 

「本当のデル」を知ってもらう

 また、調査では「トラブルに対して適切な対応ができないイメージ」との結果も出てきた。

 しかし、角野本部長は、こう語る。「当社は宮崎カスタマセンターで、製品サポートのコールセンターを行っており、さまざまな技術資格を取得したSEの社員がお客様の問題解決にあたっている。ダイレクトで鍛えられたサポート力はパートナー様のビジネスにも大きく貢献できると確信している」。デルは、パートナーを対象に宮崎カスタマセンターの見学会を実施。デルの社員は約3分の1が宮崎に在籍しており、新卒入社の社員の定着率も高い。そのサポート姿を見せたところ、ほとんどのパートナーから高い評価を得たのだ。
 

今だからこそパートナービジネス

 では、なぜ今、デルはパートナービジネスに力を入れているのか。これに対して、清水博・マーケティング統括本部長は、「オンプレミス型システムとクラウドサービスが共存する技術的な質的変化が求められているため」と説明する。古い技術(オンプレミス型システム)と新しい技術(クラウドサービス)が混在しているなか、双方をうまく組み合わせて活用することが重要になってくる。「新旧技術双方のメリットをうまく組み合わせて提案できるパートナー様に期待している」というのが、デルの考えだ。パートナーの価値を最大限に引き出していくため、「十分な支援を行っていきたい」(清水統括本部長)としている。
 

妥協のないチームを結成

 「デルモデル」というBTO製品の直販で急成長したデルが、2000年代後半からパートナービジネスへの注力を標ぼうして、ディストリビュータなどとのパートナーシップに力を入れて一定の成果を挙げてきたが、「直販のデル」というイメージが残っていたのは事実。“平手・松本体制”になって、直販モデルのイメージを払しょくし、パートナービジネス拡大に向けて本格的に始動した。

 松本副社長は、「パートナービジネス拡大のために、優秀な人材を次々と採用していく」という方針を掲げる。パートナー事業本部の各部門に、他社でパートナービジネスを手がけてきたさまざまな人材が次々と入ってきている。またIT業界でも特異で強力なデルモデルの資産も再認識している。歴戦のデル古参メンバーと新メンバーが納得するまで議論を繰り返し、全く新しい戦略が生み出されることに目を細める。松本副社長は、「デルは大きく変化している。デルの力強いDNAをより伸ばし、変化すべきエリアを熟考し、現在考えられる最高のチームを結成すべく社内外よりメンバーを招聘した。新しいデルの第一歩を踏み出した」と、妥協のないチームを結成したことに手応えを感じている。


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外部リンク

デル=http://www.dell.co.jp/