データ活用・システム運用ソフトウェアの開発・販売会社であるユニリタは、国内でクラウドコンピューティングが騒がれ始めた当時から、ビジネスモデルを転換すべくソフトのデリバリー方法やソリューション販売などの改革を断続的に行っている。同社製品・サービスは30種類以上。そのなかでも主力製品であるオンプレミス版のITサービスマネジメントツール「LMIS(エルミス)」は、顧客に導入するまでのカスタマイズが多く、パッケージ製品としての課題を抱えていた。同社はこの製品の改編を断行。従来のオンプレミス版に加え、2011年4月に「LMIS on cloud(エルミス・オン・クラウド)」としてリリースし、クラウドサービス化を実現して、1社で数千IDの導入を決めるなど、順調に成長している。この当時、クラウド移行には異を唱える人が社内外に多くいた。そのようななか、ビジネス転換を図ることができたのはなぜか。週刊BCNの谷畑良胤・編集委員が北野裕行・代表取締役社長執行役員に、そこに至る経緯や今後のクラウド展開について聞いた。

ITIL準拠の管理ツール「LMIS」をクラウド化

 ユニリタは、兄弟会社だったシステム運用のビーエスピー(BSP)とデータ活用のビーコンインフォメーションテクノロジー(ビーコンIT)が15年4月に合併し、社名を変更して誕生した。北野社長が同社トップに就任したのは17年4月。13年間、同社代表を務めてきた前社長(竹藤浩樹氏=現取締役会長)に代わり、クラウド時代のかじ取り役を託された。
 
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北野裕行
ユニリタ
代表取締役社長執行役員

 同社製品には、旧ビーコンITが開発したBI(ビジネス・インテリジェンス)やETL(システム連携)などのツールがあり、メインストリームのひとつに、旧BSPが開発した企業の情報システム部門のシステム運用者向けツールがある。「システム運用をフルアウトソーシングする企業や、ソフトウェアやハードウェアを所有から利用へと検討し始める情報システム部門など、システム運用関連を取り巻く環境が確実に変化していた」(北野社長)と、LMIS on cloudの開始当時を振り返る。

 LMISは、開発から運用(本番)まで一連のシステムライフサイクルを、ITサービスを高品質に提供するために必要な情報としてCMDB(データベース)に蓄え、その情報を本番移行やサービス本番の中で活用しサービスの品質向上を図るツールである。同社では、ITサービスマネジメントにおけるベストプラクティス(成功事例)をまとめた国際標準「ITIL(Information Technology Infrastructure Library)」プロセスにもとづいたITサービスのライフサイクル管理ツールという位置づけだ。

 LMISを初めて市場に投入した07年頃、国内企業に浸透し始めたITILの取り組みの波に乗り、同製品は大手を中心に販売を伸ばした。北野社長は、「開発は一瞬、運用は一生といわれる。情報システム部門の運用を担当するシステム管理者は、事故を起こさなくてあたりまえ。システム開発者と異なり、評価をされにくい存在だった。LMISは、システム管理者を表舞台に出したくて、運用を可視化して価値を生み出すことを狙い成功した」と、LMISがシステム管理者の引き立て役としても一定の役目を果たしてきたと自負する。
 
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インタビューに応じた北野社長(右)と、週刊BCNの谷畑良胤編集委員

基盤の維持・管理より顧客支援

 だが一方で、同社ではLMISの導入支援に際しての負担が大きくなっていた。「お客さまの要望には、すべてお応えする」という社是にも近いポリシーを背景に、LMISの導入時には、顧客のシステム運用に関わるコンサルティングをするとともに、各社によって異なる業務フローやプロセスなどをカスタマイズしていた。「開発人員がLMISのカスタマイズ作業に張り付きになってしまう。スピード感がないばかりか、会社全体のビジネスがスケールしていかない」。こんな状況に限界を感じ「ノンカスタマイズでLMISを提供できる方法としてクラウドの提供を研究し、11年4月にLMIS on cloudの提供に至った」(北野社長)という。LMIS on cloudは、サービスデスク機能を中心としたITサービス全体を適切に管理する仕組みを、クラウド上に構築した日本初のサービスだ。

 ただ、クラウドサービス開始までには紆余曲折があった。北野社長によれば、「まずは、自社でIaaSとPaaSを構築し、自らプラットフォームで提供する方法を検討した」としている。だが、最終的には「当社がスケールしていくには、プラットフォームの維持・管理に関連するハードウェアの運用やOS変更対応、セキュリティ担保などを自社でやるわけにいかない」という結論を出し、セールスフォース・ドットコムのインフラを使うことを決定したという。

 LMIS on cloudは、セールスフォース・ドットコムのクラウド開発プラットフォーム「Force.com」で開発し、アプリケーションのマーケットプレイス「AppExchange」で、サブスクリプション型のクラウドサービスとして提供している。ユニリタがLMISの基盤にForce.comを選択したのは、「当時、ワークフローとマルチテナントに対応できる開発プラットフォームは、Force.comしかなかったこともあるが、システム運用上の構成管理や問題管理、インシデント管理などのプロセス管理に、Force.comのワークフローが使えると判断した」(北野社長)と経緯を話す。

 事実、自らがプラットフォーマーになるため、AWSやSugarCRMなどのベンチマークはしたという。しかし、前出の通り、「インフラの維持・管理に力を注ぐのではなく、お客さまのもっと重要な部分のお手伝いがしたい」(北野社長)という意志を貫くためにも、ユニリタのようなサービス事業者がアプリのメンテナンスを行わなくてすむ、セールスフォース・ドットコムの基盤を選択した。

「LMIS on cloud」で500 ID以上の導入が続々

 LMIS on cloudは、サービス提供から6年が経過した。営業出身の北野社長にいわせれば、「まだまだ、満足はしていない」と厳しいが、現在までに約100社に導入し、ここ3年で急速に需要が増した。オンプレミス版の累計導入数が十数社であることから、クラウドサービス化は一定の効果を上げたと判断していいだろう。

 また、クラウドサービス化は思わぬ用途を生み出した。LMIS on cloudはシステム管理者が使うツールだ。どんなに大企業でも、使うユーザー数は、多くても100人が限度だろう。ところが、「最近は、システム部門以外の事業部門や子会社に使われ始めている。例えば、サービスデスクやヘルプデスクの問い合わせの履歴の可視化と改善、ものづくりの領域で品質マネジメントにLMIS on cloudが入っている」(北野社長)としている。そのため、SEだけでなく、オペレータなどの数だけ積み増すので、クラウド利用のID数は、1社導入で1000~2000というケースが増えているのだ。「クラウドサービス化で潮流が変わった」と、クラウドの効果を実感している。

 一方でユニリタは、13年3月にITシステムのインフラから各種運用管理機能までをサービス化して提供するクラウドサービス「Be.Cloud」をリリース、現在では、コミュニケーション型のPaaS「Smart Communication Platform(SCP)」へ進化、提供をしている。北野社長は、「セールスフォース・ドットコムの基盤と比べると、当社のSCPは、ファブレス・プラットフォームだ」と説明する。セールスフォース・ドットコム以外の基盤を利用したサービスだが、「『お客さまに価値を与える部分に集中してビジネスができる』ことを考えれば、スケーラビリティを発揮できるプラットフォームへの注力は意味がある」と、北野社長は次なる戦略を見据えている。