まずは「仮想化」の案件を狙う
──三つのうちの「クラウド」について詳しく聞かせてください。
関根 クラウドといってもさまざまですが、当社は、ユーザー企業が自身でクラウド環境を構築する際に、そのお手伝いをするビジネスに焦点を当てています。
09年から富士通エフサスは、関連会社を含めて自社システムのクラウド化を推進しています。これまで当社には、なんと1500台ものサーバーがあったのですよ。仮想化技術を活用してこの台数を削減し、その後にクラウド環境に移行しようとしています。この社内システム改革で得たノウハウやアイデアを、ユーザー企業に提供するのです。
──そのようなクラウドソリューションを求めるユーザー企業は多いと思いますが、まだターゲットが限られているように思います。今年度、どの程度のビジネス規模を見込んでいますか。
関根 今年度に限っていえば、クラウドビジネスというよりも、その前段階の案件をどの程度獲得するかを意識しています。それが仮想化です。クラウドは確かに理想の形ではありますが、オンプレミス型システムを一気にクラウド化することはないでしょう。「まずは仮想化によってサーバーを統合し、その後にクラウド」という流れになるはずです。
仮想化は、先進的なユーザーを除き、大企業や中堅企業でもまだまだ浸透率が低い。今、ユーザー企業は仮想技術を活用したソリューション以外には興味をもっていないと思えるほど、関心は非常に高いです。まず、今年度は仮想化で攻めます。仮想化関連の案件を今年度は300件は獲りたいですね。「仮想化のエフサス」と評価されるように、積極的に提案していきます。
──仮想化を実現するための技術者は、すでに充足されているのでしょうか。
関根 当社はヴイエムウェアの製品に関する技術者を中心に育成しているのですが、ヴイエムウェアが展開する技術者資格「VMware Certified Professional(VCP)」は昨年度末で102人となりました。1社で100人以上の「VCP」を取得している企業はないと自負しているのですが、今年度はさらに2倍以上の240人まで増やすつもりです。その育った技術者を全国の拠点に配置し、全国展開します。
──分かりました。では、ほかの戦略事業については?
関根 環境ビジネスは、データセンターの消費電力を削減するための省エネソリューションです。一方、マルチベンダーは、文字通り、富士通製品以外の運用や保守も積極的に対応していこうということです。当然ですが、ユーザー企業のシステムは、すべて富士通製品で構成されているわけではありません。ですから、他メーカーのサーバーもサポートし、周辺機器やネットワーク機器、コピー機やプリンタについてもサポートできる体制を築くのです。これまでやってこなかったわけではないのですが、あくまでも受動的だった。今後は積極的に動きます。
──新しいビジネスを創出するという観点で三つの事業を示されましたが、ユーザーの対象を広げるという観点で、海外市場についてはいかがですか。
関根 海外に関しては、富士通との連携という面が国内以上に強い。富士通は各地域の現地子会社を抱え、そこには営業担当者もSEも、CEも在籍しています。当社の役割は、現地子会社を後方支援することにあります。それはこれまでも今後も変わらない方針であり、単独で海外事業を伸ばすつもりはありません。
ただ、少し風向きが変わったのは、富士通の山本(正己)新社長が「日本企業の海外拠点をもっと手厚くサポートする」という方針を掲げていますので、当社の役割が現状よりも大きくなるかもしれません。エフサスの技術者がユーザー企業の現地子会社に常駐し、運用や保守業務を担当して、円滑に運用できるようになったら、現地の富士通子会社に任せるようなことがあるでしょう。いずれにしても、海外経験者は多いですから、要請があればすぐにでも対応できますよ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
本文では触れなかったが、富士通は4月1日付で、インフラサービス事業本部を富士通エフサスに移管した。これで富士通エフサスは、富士通グループのインフラ系サービスを手がける中心企業としての地位を、ますます強固にした格好だ。以前からその必要性が叫ばれていたものの、なかなか実現しなかった組織改革が、ようやく具現化した。
経歴をみればわかる通り、関根社長は富士通時代も含めてサポートビジネスの経験が長い。5年ほど前、成長著しい中国に、17のサポートサービス拠点を開設したのも関根社長だった。
保守サービスは、構造不況に陥っており、景気が上向いたとしても、それほどの成長は見込めない。長年の経験から、関根社長はそのことをよく知っている。定めた三つの重点事業をどこまで進展させられるか。まずは、仮想化が関根改革のマイルストーンとなる。(鈎)
プロフィール
関根 英雄
1947年1月6日生まれ、千葉県出身。69年11月、富士通入社。92年12月、フィールドサポート本部第一サポート統括部担当部長。97年10月、フィールドサポート本部ハードウェアサポート統括部長。99年6月、フィールドサポート本部長代理(サポートビジネス担当)。02年7月、システムサポート本部副本部長。03年6月、常務理事兼システムサポート事業本部長。04年6月、経営執行役兼システムサポート事業本部長。06年6月、富士通サポートアンドサービス(現・富士通エフサス)代表取締役副社長。09年6月、富士通エフサス代表取締役執行役員社長。
会社紹介
富士通エフサスは、1989年に設立された富士通カストマエンジニアリングが母体で、コンピュータおよび通信機器の保守・修理サービスをメインに事業を手がける。96年に富士通サポートアンドサービスに社名を変え、01年に東京証券取引所第1部に上場。その後、04年に富士通の完全子会社となる。07年に現社名に変更。資本金は94億175万円で、従業員数は約5000人。