“所有から利用へ”の潮流は止められない──。野村総合研究所(NRI)は、主要顧客の1社である野村證券の基幹業務システムを含めて、クラウドコンピューティング技術を活用した共同利用型のビジネスを拡大させる。アプリケーション層における業界共通部分はクラウド化によるシェア拡大を進め、ユーザー企業にとってのコア業務、差異化すべき領域は個別SIで提案する手法を徹底的に推し進めることで、クラウド時代のビジネスを有利に進める。嶋本正社長にNRIの戦略をたずねた。
クラウドでシェア寡占が進む
──売り上げが伸び悩むなかで、重い先行投資がのしかかるクラウド・サービスを推進する主要SIerの姿には、ある意味、悲壮感すら漂っています。
嶋本 ITシステムの“所有から利用へ”の潮流は、恐らくもう誰にも止められない。市場の変化への適応は、短期的な売り上げとは別の次元にあると捉えています。むしろこの流れに乗るか、乗らないかで、今後の成長がまったく違ったものになる。すべてがクラウドへ移行するわけではありませんが、基盤部分の共有化が進むのは、ぼぼ間違いありません。
──野村證券が、リテール向け基幹業務システムで、御社のクラウド型サービスの利用を決めました。このことによって、御社のカスタムアプリケーションの開発事業が縮小するのではないでしょうか。
嶋本 野村證券が採用したのは、当社の共同利用サービス「STAR-Ⅳ(スターフォー)」で、2013年初めまでに本格利用してもらう予定です。これまで、野村證券のリテール分野での基幹業務システムは、独自にカスタマイズしたものを使っていました。そのカスタムアプリケーションの主要部分は、実は当社が2009年3月末までに約400億円で買い取っています。野村證券は、当社からこのソフトをサービスとして利用しており、クラウドのような共有型ではないにせよ、サービス化はすでに完了しています。今回は、さらに一歩踏み込んで共有化するというものです。
買い取ったシステムの業務範囲と、STAR-Ⅳのカバー領域がそのまま一致するわけではありませんが、大手の野村證券がSTAR-Ⅳのユーザーに加わることで、大幅な機能強化が見込めます。STAR-Ⅳは、これまで国内準大手・中堅の証券会社の口座数ベースで約3割弱のシェアを占めていましたが、野村證券の口座数との合算ベースだと、過半数のシェアに達する見込みです。証券業界のデファクトスタンダードとなり、有利にビジネスを進められそうです。この部分でのカスタムアプリの仕事は減るかもしれませんが、それ以上にビジネスメリットが大きい。
──つまり、共有化が可能な領域では、クラウドによる寡占化が進む、と。
嶋本 進みます。ITシステムには、ハードウェアやOS、ミドルウェア、アプリケーションなどの階層があります。ハードはオープン化が進み、どのメーカーのものでも使えますよね。OSも標準化が進んでいるからこそ、今のAmazon EC2をはじめとするさまざまなパブリッククラウドがユーザー数を増やしている。オープン化、共有化が進めば、処理速度がより速く、価格がより安く、使い勝手のいい商材が大多数のシェアを奪っていくことになります。当社のSTAR-Ⅳのケースでは、証券リテールビジネスの標準的な業務アプリをサービスとして提供するものであり、現実的にはすでにアプリ層まで共有化が進んでいるのです。
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