コスト感覚を徹底させる
──丸紅インフォの第一印象は?
ファン 業績不振でしたから、当初は従業員にやや元気がないような気がしました。ただ、丸紅ブランドのもと、人材は豊富で優秀な社員が多い。ベンダーとの素晴らしいパートナーシップもあります。だんだんと、会社全体でエキサイトできるようになっていると思います。社長に就任してから1か月でほとんどの社員と話をしました。
──丸紅インフォを傘下に収めたSYNNEXの強みとは何でしょうか。
ファン この業界ではコストが一番重要なポイント。SYNNEXはコストを徹底的に削ってきました。スピード経営を実践することも大事です。在庫は時間が経つと腐ってしまう。回転率を向上させて、注文、出荷の情報など全体のサプライチェーンを可視化する努力を重ねてきました。
コスト競争力はどの企業にも負けません。SYNNEXのITシステムはどの企業のそれよりも優れています。これは自信をもっていえます。
また、顧客とメーカー、従業員を非常に大事にしています。それから投資家も。寝る間も惜しんで彼ら、彼女らの利益を考えています。
──外資系メーカーの多くは日本市場に参入して根を張っていますが、流通・小売企業の成功例は少ないように思います。
ファン 私は、丸紅インフォの強みとグローバル展開するSYNNEXの強みを生かすハイブリッドな企業をつくっていく考えです。もともと、SYNNEXの由来はシナジー(相乗効果)。今回の買収で、1+1=3になるというシナジーを生み出したい。
海外のモノを単に持ってくればよいとは考えていません。日本に一番適合するようにつくり変えていかなければならないと感じています。
──これから先、何に取り組んでいきますか。
ファン 現在のままでは、オペレーティング(物流関連)コストが高すぎます。30~50%は下げられるはずです。コスト感覚が不十分。サプライチェーンをいかに合理化するのか、徹底的に考える必要があります。2011年中に、現在稼働中の基幹システムをSYNNEXのカスタマーインフォメーションシステム(CIS)に移行する考えです。
なお、丸紅グループを離れはしましたけれども、丸紅との関係は非常に良好です。これからも力を借りながらWIN─WINの関係を築いていきたい。
まずは、現状の把握と基盤固めに努めたいと思います。社内で改善すべき点はたくさんあります。
──商機はどこにあるとお考えですか。
ファン まだタッチしていないソリューションがあります。ストレージやネットワークのビジネスなどを伸ばしていきたい。コンシューマ関連のビジネスも非常にポテンシャルがある。これには、SYNNEXのグローバルネットワークを生かしていくつもりです。
──ずばり目標を。
ファン 2~3年で110%~120%の成長を目指します。ファーストステップとして年商2000億円。とにかく方向を決めて、やるべきことをきちんとやる。数年で足腰を強くします。長く社長の座にとどまるつもりはありません。5年くらいで後進に道を譲る考えです。
・こだわりの鞄多忙なロバート・ファン社長が普段持ち歩く鞄に求めるのは、ビジネスの現場での使い勝手のよさだ。ブランドや外形のデザインにはとくにこだわりがなく、「使いやすさを重視している」。収納性や耐久性、機能性など、実用的な面を重んじているようだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
SYNNEXは北米を筆頭に、中国や英国、メキシコなどに拠点を展開しているグローバル企業。事業は、ディストリビューションのほか、コントラクトアセンブリサービス、BPOなど多岐にわたる。
社長に就任したロバート・ファン氏は、一代でSYNNEXを年商70億ドルを超える規模の企業にまで育て上げた辣腕経営者だ。自身のキャリアに確固たる自信をもち、成功者独特のアクの強さがある。丸紅インフォテックからシネックスインフォテックに変わり、「流通・卸企業のプロフェッショナルがトップになるのは初めて」だ。
物言いははっきりしているが、「自分だけ突っ走ったら、裸の王様になる」「常にコツコツやってきた。その間に他社がダメになっていった」などという発言からは、いわゆるワンマンとは違う印象を受ける。従業員一人ひとりと向き合おうとしているようだ。
半年後、ファン社長がどんな成果を披露してくれるのか楽しみだ。(宮)
プロフィール
ロバート・ファン
1945年、台湾生まれ。1968年、九州大学工学部卒業後に渡米。1971年、ロチェスター大学大学院でMSEE(電気工学修士)とMA(統計学修士)を取得。1979年、MITスローン・スクール等で修士号を取得。同年、AMDに入社。1980年、COMPAC Microelectronicsを米国カリフォルニアで創業。1994年、SYNNEX Information Technologiesに改称。2003年、SYNNEXとして再登記し、米国NY証券取引所上場。2010年12月から現職。
会社紹介
丸紅インフォテックは、ここ数年赤字決算が続き、厳しい経営からの脱却を迫られていた。売り上げは1000億円超にまで落ち込み、物販ビジネスを伸ばすのが容易ではない状況にあった。そんななか、2010年12月、丸紅は、同社が保有する丸紅インフォテックの株式すべてをSYNNEXグループに譲渡。商号をシネックスインフォテックに変更し、社長にSYNNEXの創業者で前会長兼CEOのロバート・ファン氏が就任した。天野貞夫社長は会長に退いた。