ミッドマーケットはチャネルの力が不可欠
──EMCは「大規模システム向けで高価なモデル」というイメージが相変わらず強い。これが恵まれた環境下にあっても、EMCの弱点のように思います。
山野 ミッドレンジ(中堅企業)以下のストレージ市場は、いろんなメーカーがたくさんの製品を出しています。正直にいって、どこが勝っているか分からない。リーダーが不在の群雄割拠のマーケット。それが中堅企業以下の市場の現状だと思います。
EMCは中堅以下のマーケットを、今年度(11年12月期)はかなり意識していますよ。その現れが、今年2月に発表した新ブランド「EMC VNXファミリ」だと思ってください。SANとNASの両方をサポートする新モデルで、「高信頼・簡単・低価格」を武器にしています。ハイエンドで培った技術を移植しながら、導入・運用も容易で、価格も抑えました。
中規模と小規模でモデルを分けていますが、代表的な価格タイプをいえば、自動階層化機能を付加したSANとNAS対応機種は271万円からです。小規模システム向けの価格は4月に発表しますが、もっと魅力的です。
──確かに今までのEMCにはない新製品だと思いますが、中堅以下のマーケットでニーズはありますか。
山野 すでにNASとSANを並行利用している企業は多いので、ニーズは確実にあります。みなさん、SANとNASをバラバラに使っているから、苦労しておられる。それを変えようとしています。
──チャネル(間接販売)ビジネスの進捗をどのように分析していますか。
山野 販売パートナープログラム「Velocity」に参加しているパートナーは充実していると感じています。制度の内容はかなり確立されているな、とも。あとは、各パートナーが自発的に当社の製品を提案してもらえるように、パートナーの要望に沿った支援をいかに徹底するかに尽きます。
──先ほど話題に上がった「EMC VNXファミリ」の対象が中堅以下であるなら、パートナーの存在というものがハイエンド製品よりも重要になります。
山野 その通りで、「VNXファミリ」はユーザー企業が導入・運用しやすいだけでなく、パートナーが売りやすい、手離れがいいモデルでもあります。ぜひ、デモをご覧いただきたい。私でもセットアップできちゃうくらいですから(笑)。
──パートナーの支援組織を強化する考えはありますか。
山野 すでに増強しています。パートナーの支援組織「ストラテジーアライアンス統括本部パートナー事業本部」の人員は34人で、昨年度第2四半期(10年4~6月期)に比べて約2倍に増員しました。この事業本部の組織も再整備し、NEC、東芝ソリューション、伊藤忠テクノソリューションズ、ネットワンシステムズの4社を支援する営業部、ディストリビュータをサポートする営業部、中堅以下のマーケットに強いパートナーを支援する営業部隊、そして、チャネルマーケティング部の4区分にしています。各パートナーにはそれぞれ営業担当者を付けており、体制は充実しています。
われわれの製品販売は、そのほとんどが今ではパートナーを通じた間接販売モデルに移行していますが、これからはもっと重要になるという意識をもっています。
・こだわりの鞄 「TUMI」のビジネスバック。他メーカーの製品よりも使いやすいので、数種類もっているそうだ。「バッグへのこだわりはそんなにないんだけどなぁ」とはいうものの、写真の鞄はインターネット通販限定のモデル。ワークスタイルにマッチする機能や形状のモデルを、自身で選んでいる。
眼光紙背 ~取材を終えて~
山野修社長に初めてインタビューしたのは、8年ほど前のことだ。その当時は、RSAセキュリティのトップだった。気さくで柔らかな雰囲気は、その当時とまったく変わっていなかった。外資系IT企業の日本法人トップがもつ排他的な言動がない。それが山野社長の持ち味だろう。半年前から務めていた副社長からの昇格でもあり、EMCジャパンの文化にも慣れている様子。すっかり、EMCの人になっている気がした。
クラウドの台頭でストレージの重要性は増すばかり。ビジネス環境は明らかに追い風だ。ただ、数々の企業買収を通じて膨れ上がった製品・サービスが今ひとつマージ(統合)されていない印象はぬぐえない。「ストレージだけでなくITインフラを売る企業にならないといけない」と山野社長も話している。数々の外資系企業を渡り歩いてたどり着いた今のポジションは、山野社長の力を発揮する最大の舞台であり、力を試せる時期にあると感じているのだろう。表情は明るかった。(鈎)
プロフィール
山野 修
(やまの おさむ) 1959年、東京都出身。1984年、東京工業大学大学院制御工学専攻修了。同年6月、米AT&T ベルラボラトリーズ主任研究員。86年11月、横河ヒューレット・パッカード(現・日本ヒューレット・パッカード)に移籍。94年、オートデスクに入社。マーケティング部長に就任。96年、シャイアン・ソフトウェア(現・CAテクノロジーズ)、マーケティング部長。98年、日本RSA(現・EMCジャパン)マーケティング統括本部長。99年、日本RSAおよびセキュリティ・ダイナミックスの代表取締役社長を兼務。2001年、スタンフォード大学 ビジネススクール、Executive MBA修了。10年、EMCジャパン執行役員副社長。11年1月1日、EMCジャパン代表取締役社長に就任。
会社紹介
親会社である米EMCは1979年の設立で、世界約80か国でビジネスを展開する。昨年度(2010年12月期)の連結業績は、売上高が前年比21%増の170億ドル(約1兆3940億円)、純利益(GAAPベース)が同75%増の19億ドル(1558億円)。2011年1月1日付で、子会社のRSAセキュリティと経営統合した。日本法人の設立は1994年で、従業員数は約1000人。日本法人の業績は非公表。