ITホールディングス(ITHD)の岡本晋社長は、2012年を期待と現実のギャップが依然として残るものの、情報サービス業の市況回復への兆しが強まってきているとみる。ITHD自身も今期(2012年3月期)連結売上高や営業利益見通しの上方修正を行い、来年度以降の成長にも手応えを感じている。こうしたなか、岡本社長は業界トップグループのなかから頭一つ抜け出すことを視野に入れた“大団結”を提唱する。その狙いは何か。
自信と誇りをもっていい
――情報サービス業の市場動向は、着実に上向いている印象を受けます。
岡本 全体として回復の兆しが強まってきているのは確かです。ただ“期待”と“現実”のギャップが解消し切れていないのも事実。2011年を振り返ると、年初は市況回復への期待が高まっていましたが、地震と津波、原発事故で不安へと暗転してしまいました。ところが、1年が終わってみると、情報サービス業の有力ベンダーの業績は総じて堅調に推移しています。業界全体が絶望にさいなまれたとはいえず、不安が緩和されて、再び期待が高まる状況に転換したように思います。現に、当社も予想していたよりは落ち込みが少なく、今期(12年3月期)業績見通しを連結売上高、営業利益、経常利益ともに上方修正するに至りました。
――2012年も期待と現実の新たなギャップが生まれるのでしょうか。
岡本 タイの洪水によるサプライチェーンの乱れは早々に収まるとしても、欧州の債務危機、不安定な為替、そして東北被災地の経済的打撃を考えると、期待と現実の振り子の幅はまだ大きく揺れ動くと覚悟しておいたほうがいいのかもしれません。ただ、必要以上に不安がることもない。例えば、震災直後の混乱、原発事故に伴う夏の電力事情の悪化に際しても、情報システムの要であるデータセンター(DC)で大規模障害を避けることができました。これは情報サービス業に携わる民間企業の知恵と努力によるところが大きく、自信と誇りをもっていい。みんなで力を合わせれば、たいていの困難は乗り越えられることを証明しました。
――岡本社長は情報サービス産業協会(JISA)副会長として危機回避に尽力されたとうかがっています。
岡本 2011年6月頃でしたか、夏の電力危機を目前に控えて、国から初めて産業界に向けての説明会があったのです。質疑応答のとき、真っ先に手を挙げて質問したのはわが情報サービス業の担当者でした。「DCで使う電力の前年同期比15%の削減は不可能で、失敗すれば経済に大混乱を与える」といった主張でしたが、その時点での国の回答は「例外なくお願いします」というもの。これはダメだと思い、JISA役員や事務局が中心となって、粘り強くDCの重要性を国と交渉。「一定の条件さえ満たせば0%でも節電とみなす」という措置を勝ち取りました。
実際は、事業継続管理(BCP)対策でユーザー企業の多くはサーバーをDCへ移設する作業を進めていましたから、そのままでは消費電力は増えてしまう。このため、当社グループでいえば、サーバー仮想化によって物理台数の削減を図りました。省エネ性能の極めて高い当社グループの御殿山DC、東京電力管外の富山・高岡DCなどを積極的に活用するなどして、なんとか夏をしのいだ格好です。とりわけ御殿山DCは2011年4月に全面開業したばかりの最新鋭で、ラック換算で約3000ラック収容できる大きさ。かつDC全体の消費電力をIT機器の消費電力で割ったPUE指標で1.36の省エネ性能で、従来の1.8程度で運用と比較して電力の消費効率が飛躍的に高いと自負しています。
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