グレータージャパニーズを狙う
――企業規模について、2012年3月期における旧2社通期連結売上高見通しの単純合算ベース約2760億円に対して、15年3月期には3000億円を目指すといっておられますが、この数字は少し保守的すぎませんか。
中井戸 経営統合に向けた準備におよそ2年を費やし、本来は11年4月の決算発表のときに示す予定だった新生SCSKの経営見通しについても、東日本大震災の影響を見極めるために半年先送りしたくらいですから、いたって慎重です。
ただ、私個人としては、3000億円を例えば3500億円とか4000億円にして実質トップグループから頭一つ抜け出しますといったイメージではなく、やるなら2倍、3倍にしてダントツの力をもつベンダーになることを思い描いています。
――今の国内市場の成熟した状況を考えると、第二、第三の再編がなければ難しそうな印象を受けます。
中井戸 ご指摘の通り、国内市場はおそらく大幅に成長することはないでしょう。むしろ小さくなっていく危険性があります。その理由は、日本企業の競争力そのものが相対的に弱まっている側面も否めませんが、それよりも大きな要因として海外、とりわけアジア成長国でのIT投資が拡大しているからだとみています。海外で投資が増えるのに反比例して、国内は少なくなる。日本の人口減少やアジア成長国の市場拡大の状況をみれば、むしろ自然な流れでしょう。そこで重視するのが“グレータージャパニーズマーケット”です。つまり、日本の企業グループが海外でIT投資を行うのは、日本市場の延長線上にあると捉えるという意味です。
――地場の有力企業ではなく、海外進出している日系企業となると、ターゲットとする市場がいささか小さすぎませんか。
中井戸 グローバルビジネスでは、日本企業が再び世界で元気になり、光を取り戻していくことを基本方針の一つに据えています。正直、日本経済はこれからどうなるか決して楽観視できません。日本企業がグローバルで勝ち進んでいくには、すぐれたITシステムが欠かせないわけで、われわれはこの要望に応えていくためにトップSIerにならなければならないと考えているのです。
――なぜ、そうお考えになるのですか。
中井戸 IBMやアクセンチュアなど世界のトップベンダーが高収益を上げたり、インドのSIerが年率3割の勢いで伸びたりしているのかもしれませんが、やはり日本企業を最後まで支えるのは日本のトップSIerでなければならないと考えるからです。感覚的にはアジア成長国のIT投資額が年率3割増だとすれば、日系市場は3年で1割増が妥当でしょうし、じゃあ、浪花節的にしんどい採算でやるのですかと聞かれれば、経営者として素直に「はい」とは言えない部分もあります。それでも、日本経済が沈んでいる状況に手をこまぬいているわけにはいかない。だから、私はグレータージャパニーズマーケットを主軸に据えているわけです。3~5年後にはこうしたグローバル関連ビジネスの売上高構成比を約10%へ高めていきたい。
幸いなことに、親会社の住友商事がグローバルネットワークを築いているというバックボーンもありますので、グループ拠点はロンドン、ニューヨーク、上海、シンガポールなど、実は決して少なくありません。今回の経営統合を足がかりにするのはもちろん、グループのグローバルリソースをフルに活用することで国内外でビジネスを大いに伸ばし、トップSIerを目指していきます。
・お気に入りのビジネスツール 「日本の経営者のなかで、最も頻繁にスマートデバイスを活用している」と自負するだけあって、最新のデバイスをビジネスツールとして愛用している。その一方で、「“外部メモリ”に頼らず、人との会話のなかで数字を覚えていくことが私の記憶術の極意」ともいう。
眼光紙背 ~取材を終えて~
情報システムは戦略商品である──。中井戸信英社長が“グレータージャパニーズマーケット”にこだわるのは、ITの戦略的な活用によってユーザー企業の国際競争力を高めることができるという信念があるからだ。日系企業の競争力の相対的な低下が懸念されるなか、「ユーザー企業経営者のITに対する意識は着実に変わりつつある」と、中井戸社長は投資意欲の拡大に手応えを感じている。
激しい競争に勝ち残る戦略的な情報システムを提供するには、それなりのバックボーンが必要だ。SCSKは今回の経営統合で国内“トップSIer”になる足場を固めた。海外進出するユーザーは、グローバルで一貫したITサポートを求めており、トップSIerにはこうした要望に応じられる企業体力が不可欠となる。中井戸社長はさらに踏み込んで「ダントツの力をもつSIerになる」ことをイメージしており、今後のSI業界の再編に少なからぬ影響を与えるほどの意気込みを示している。(寶)
プロフィール
中井戸 信英(なかいど のぶひで)
1946年、奈良県生まれ。71年、大阪大学大学院工学研究科修士課程修了。同年、住友商事入社。98年、取締役。02年、代表取締役常務。04年、代表取締役専務執行役員。05年、代表取締役副社長執行役員。09年6月、住商情報システム(現SCSK)代表取締役会長兼社長。11年10月、SCSK代表取締役社長に就任。
会社紹介
SCSKは旧住商情報システムと旧CSKが2011年10月1日付で経営統合して発足した。12年3月期の旧2社通期連結売上高見通しの単純合算ベースでは約2760億円。中期目標では15年3月期には連結売上高3000億円、営業利益250億~300億円を目指す。旧CSKの強力なデータセンター(DC)設備が加わったことで全国10か所にDC設備をもつ国内有数のSIerになった。今後伸びが見込まれるクラウドビジネスへの応用も期待できる。