ニアショアに取り組み、起業支援も
──パートナーに関しては、この6月、福岡コンピュータ技術者協同組合と御社九州支店の事業を一体化しておられますね。
齋藤 海外でのオフショアソフト開発があたりまえのように行われるようになった昨今ですが、実は同時に国内ニアショア開発も活性化しています。当社は北海道から九州まで拠点を展開していますが、ニアショア需要の取り込み強化の一環として、福岡コンピュータ技術者との事業一体化に踏み切りました。実稼働ベースで100人余りのパートナーが新たに合流し、九州での受注キャパシティが大幅に高まりました。
日本のオフショア開発先のほとんどは中国・ASEAN地域が占めているのですが、ソフト開発を請け負うことができるすぐれた人材が多い都市は、概して人件費が高騰しています。
アジア経済が急成長している現状を踏まえれば当然のことですが、なかにはすでにオーバーヘッドロスを含めた人月単価で、すでに北海道や九州のニアショアを超えているケースも少なくない。人件費の安い地域へとオフショア先を永遠に移転させていくというのは、高度なノウハウの蓄積が求められるソフト開発の場合、やはり無理があるんですね。
──ニアショア需要は、どれほど高まっているのでしょうか。
齋藤 ビジネス規模の絶対額でみれば、首都圏がダントツに大きいのですが、伸び率でみると、九州をはじめとするニアショア地域のほうが高い。震災で大きなダメージを受けた東北地区の復興需要も拡大していますので、仙台地区でも地場のパートナーの活躍の機会が増えると期待しています。
──パートナーや社員に向けた起業支援にも力を入れておられますね。
齋藤 起業支援制度は、私が社長に就いた2011年9月から本格的にスタートしました。これまで、ネット通販や出版業向け業務システム、ネットメディアサービスなど、3社がこの制度を利用して起業しています。うち2社はパートナーによるもので、1社は社員による起業です。制度を活用した起業の提案はほかにもあって、今後、さらに増えることが期待できる。パートナーは、もともと腕に覚えのある起業家精神旺盛の事業主ですので、きっかけさえあれば会社を起こす能力の高い人たちです。将来、事業が成功した暁には、開発や運用要員として当社のパートナーを起用してもらうエコシステムの形成も期待できます。
また、6月11日に高輪開発センターを開設して、客先に常駐しなくてもソフト開発を請け負えるスペースを確保したり、ウェブ上でパートナー自らが最新のスキルデータベースに更新し、顧客の要望とのマッチング精度を高める社内システムを増強したりなど、パートナーが働きやすい環境づくりに力を入れています。開発センターは、ただ開発業務をこなすだけでなく、パートナー同士や当社社員と顔を合わせて交流できる場としての役割も担っていくことで当社関係者全員の「一体感」を高め、事業の拡大にドライブをかけます。
・お気に入りのビジネスツール お気に入りのツールは、亀の置物。「『あなたはいつもせっかちだから』と心配する妻から贈られた」もので、常に仕事机の上に置いてある伝票の文鎮代わりとして愛用している。「思いついたことはすぐやらないと気がすまない気性と“のんびり亀”とで、精神のバランスを保っている」のだそうだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
首都圏コンピュータ技術者は、個人事業主の集合体という異色のSIerだ。協同組合としてスタートしたが、法改正の影響もあり、のちに株式会社へと変更。だが、腕に覚えのある一匹狼的な技術者集団に変わりはなく、セーフガードが整っているサラリーマンの気風とは一線を画すパートナーが揃う。
齋藤光仁社長は、2000人余りのパートナーとの一体感の醸成やモチベーションの向上、起業支援制度などの施策を相次いで打ち出している。個人事業主の道を選んだ技術者を、「営業や福利厚生、交流の場の提供によって支援するため」だ。
今年9月には、パートナーによる初めての“文化祭”を開催する予定。先端技術のレポートや事例研究の成果発表を通じて、「パートナー同士が刺激し合い、切磋琢磨する機会を増やす」という。「すぐれた研究成果には報奨金をつけてもいい」と、パートナーの実力を引き出すことでビジネスを伸ばす。(寶)
プロフィール
齋藤 光仁
齋藤 光仁(さいとう みつひと)
1953年、青森県生まれ。76年、東京国際大学(旧国際商科大学)卒業。78年、東京佐川急便に入社。94年、佐川物流サービス業務部長・佐川流通センター長。98年、佐川急便執行役員情報システム部長兼佐川コンピューター・システム(現SGシステム)代表取締役。07年、首都圏コンピュータ技術者に入社。10年、専務取締役。11年、代表取締役社長に就任。
会社紹介
首都圏コンピュータ技術者は、「パートナー」と呼ばれるIT系個人事業主を集合体とするSIerである。2000人余りのパートナーで構成されており、協同組合形式も含む同形態のSIerでは国内最大規模。今年度(2012年8月期)の取扱高は約85億円の見込みで、増収増益を達成する見通しだ。2013年8月期から始まる新しい3か年中期経営計画では、年間取扱高100億円を視野に入れる。