四つの注力分野でグローバルに臨む
──海外ビジネスに関連して、具体的にどのようなビジネスモデルや商材を想定しておられますか。
佐々木 付加価値が高く、差異化しやすい分野に、ある程度絞り込んでいく必要があります。一つには、アジア成長市場へビジネスを拡大しているユーザー企業をターゲットとして、経営管理レベルを高めるERP(統合基幹業務システム)系に力を入れます。二つ目が情報漏えいを防ぐグローバル対応のセキュリティ、三つ目がこれらシステムを支えるハイエンドのクラウドサービス。また、新規事業でネット広告配信プラットフォームなどを軸に検討しています。
クラウドやネット広告配信は、当社のデータセンター(DC)やモバイルサービス向け事業で培った大規模インフラ運用、大規模トランザクション処理のノウハウを生かすことができる分野です。かつて手がけてきたような、カスタムアプリケーションを手づくりするモデルはもはや通用しないのは明らかですからね。
──どうやって売っていくお考えですか。
佐々木 注力事業を推進していくにあたって、重視すべきは、顧客の経営がどうあるべきで、最適なITシステムとは何なのかを、稼働後の運用も含めてユーザーとともに考えることです。当社グループの経営コンサルティング会社で、日本航空の経営再建にも貢献したKCCSマネジメントコンサルティングは、京セラグループ独自の経営管理手法「アメーバ経営」を継承しています。手持ちのIT商材をただ納品して終わりというものではなく、むしろユーザーの経営に深くコミットし、ICT事業とのより一層の連携を進めていくことで相乗効果を発揮していきます。
直近の海外拠点は、主に京セラの事業所のITシステムを担うために常駐しているケースを除けば、上海とシンガポールの2か所です。京セラは中国やASEAN地区で事業所を拡充していますので、当社としても現場に密着したビジネスを実践していきます。京セラグループや日系企業向けのビジネスは前述した通りなのですが、地場の有力企業に向けての展開はまだこれから考えなければなりません。経済の発展度合いが進むにつれて、より高品質なサービスを求めるのは世の常で、当社が得意とするハイエンドなサービスに対する需要は確実に高まっています。
──御社の主要事業の一つである通信エンジニアリングはどうですか。
佐々木 携帯電話のインフラとなる移動体無線基地局構築や車載基地局などの建設・運用は当社の強みであり、売り上げのおよそ3分の1ほどを占めています。今は高速無線通信のLTE設備投資に支えられている部分もありますが、投資が一巡したときに備えて、太陽光発電システムの建設など新規分野に取り組んでいます。例えば、京セラとソフトバンクの両グループが今年7月から段階的に運用を始めているメガソーラー発電所事業に参加しています。最終的に1000世帯分に相当する発電量に達する見込みで、当社としてはこれを足がかりに再生可能エネルギーに対応したEMS(エネルギー管理システム)で、スマートコミュニティ関連ビジネスなどにつなげていきたい。
ICTと通信エンジニアリング、経営コンサルの三つの事業領域、さらには京セラグループとの連携を通じて、事業の拡大を図っていきます。
・こだわりの鞄 「INDEED(インディード)」のビジネスバッグ。「しっかりしたつくりとダークグリーンの落ち着いた色合いが気に入っている」とのこと。深緑色の革は珍しく、KCCS独自のIT商材「GreenOfficeシリーズ」のGreenとも重なる。家族からもいい色合いだとの推薦があったことが決め手となったようだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
京セラコミュニケーションシステム(KCCS)の佐々木節夫社長は、「ICT市場は世界的にみて拡大基調にあるが、当社を含む日本のベンダーがまとまったシェアを獲り、ビジネスを伸ばせるかどうかはまた別の問題」とみる。チャンスを掴めるかどうかは、あくまでも自身の変革と挑戦にかかっているというわけだ。
KCCSのビジネスポジションは決して悪くない。グローバルカンパニーである京セラグループとの相乗効果が期待できるだけでなく、自らも無線通信インフラ建設エンジニアリング、さらには「アメーバ経営」を継承する京セラグループ唯一の経営コンサルティング会社など、他社にはない事業を多数擁する。
これまでのカスタムアプリ開発の受託モデルから、クラウドやグローバルビジネスへと大きく様変わりする情報サービス業において、KCCSならではの付加価値の高いビジネスモデルをつくり出せるかどうかが問われている。(寶)
プロフィール
佐々木 節夫
佐々木 節夫(ささき せつお)
1955年、東京都生まれ。81年、早稲田大学理工学部卒業。京都セラミック(現京セラ)入社。95年、京セラコミュニケーションシステム(KCCS)設立に伴い出向。97年、経営情報システム事業本部副本部長。00年、KCCSに転籍、取締役。06年、常務取締役。08年、専務取締役。12年4月1日、代表取締役社長に就任。
会社紹介
京セラコミュニケーションシステム(KCCS)の昨年度(2012年3月期)の連結売上高は1000億円を超えた。外販ビジネスが好調で、1995年のKCCS設立当初は京セラグループ向けの売り上げが20%ほどあったが、直近では約7%に下がってきている。売上高構成比は情報サービス(ICT)が約3分の2、通信エンジニアリングが約3分の1を占める。