「顧客との接点時間」を重要視
──鈴木社長としてのカラーをどう出しておられますか。 鈴木 目指すところは森川さんと同じですが、達成するための戦略・施策は、私なりの考えで決めて進めます。例えば、「ライジングゾーン」ですね。
──NECネクサソリューションズの歴代社長には何人か取材しましたが、初めて聞く言葉です。 鈴木 「ライジングゾーン」とは、日本一になれそうな私たちの製品・サービス分野(ゾーン)のことです。今はまだトップポジションではないかもしれないけれど、磨き上げればNo.1になることができる製品・サービスを選び、それらの商品力を強化しています。ニッチな分野や特定の業種にしか受け入れられない製品・サービスでも、「このゾーンはNECネクサソリューションズだよね」と言っていただける分野を、たくさん用意したいのです。
──そのゾーンは、いくつありましたか。 鈴木 16個です。本音をいえば50個は欲しかったのですが、無理矢理つくっても仕方ありませんので、まずはこの16個を日本一にします。なかには、もう一位になっているものもあって、VPN(仮想私設網)サービスの「Clovernet」や、バス会社向けのダイヤ編成支援・ロケーション管理システム、航空貨物代理店システムはその代表例です。
──鈴木社長は、NECで営業畑を長く歩んでこられました。ご自身の経験を生かした営業力の強化策はありますか。 鈴木 お客様に自分を認めてもらい仕事を獲得するためには、親身になって話を聞き、困りごとを探して解決策を迅速に提供すること。そのためには、お客様に接する時間を可能な限り増やさなければなりません。営業として当然です。だけど、これをきちんとやりきれていない例は結構多いと思います。
営業担当者が顧客と接する時間は、一般的に全業務時間のうちの25~30%と聞いたことがあります。当社はまさしく、25%くらい……。残りの75%は何をやっているかというと、見積書や提案書を書いたり、社内の事務処理をしたりなのですね。今、これを改善しているところで、現状の25%を最低でも2倍の50%に引き上げる必要があると感じています。お客様との接点時間を2倍にすれば、600人の営業担当者が1200人になる。施策の一つとして、「営業サポートセンター」という新部門をつくって、接点時間以外の75%の業務を、この新設部門のスタッフが代行するようにしています。道のりは長いですが、徐々に成果が出てきていますよ。
まずは国内市場に集中して地盤を固める
──営業の現場を知る鈴木社長らしい施策ですね。 鈴木 営業だけでなく、SEの仕事も変えています。重要なお客様には、営業担当者が3か月に一度定期訪問しているのですが、そこにSEも同行するよう指示を出しています。お客様のシステムの稼働状況や要望をSEに直接聞いてもらいたいからです。
また、役職定年したSEを有効活用する仕組みもつくりました。NECネクサソリューションズの役職定年は56歳なのですが、SEのプロとして30年以上仕事してきた人をその年齢で引退させるのは、すごくもったいない。役職定年したSEだけを集めた専門部署をつくり、この部門のSEが重要なお客様を3か月に一度定期訪問しています。
──そこで、どのような活動をさせているのですか。 鈴木 話を聞くこと。中堅企業のIT部門の人たちというのは、大変なんです。人も予算も乏しいのに、社長からは「あれやれ、これやれ」といわれて、現場からは経営層とは違うさまざまな要望や不満が上がってくる。でも、相談する相手はいない。だから、私たちがユーザーの悩みを聞いてあげるのです。この部門のスタッフには、営業目標を定めていませんので、商売っ気がない(笑)。お客様も気軽に話してくれますので、そのなかでさまざまなビジネスのヒントを得ることができています。
──おもしろい試みですね。こうした施策が業績に結びつくわけですが、現在の売上高の状況を教えてください。 鈴木 売上高は10年度、11年度は同じでほぼ700億円。ただ、今年度はおかげさまで相当前進することができると思います。具体的な数字の公表は、年度の途中なので控えますが、かなりの手応えを感じています。
──中期的には、東名阪の中堅企業だけではなく、海外市場に打って出る考えはありますか。 鈴木 お客様から、「海外に出るんだけど、海外事務所のITシステムも面倒みてほしい」と要請されるケースが増えてきました。国内よりも海外のIT担当者のほうが、きっと悩みは多いと思うので、私たちがお手伝いできる機会は多いでしょう。ニーズを探る目的で、今年8月には中国・上海市に駐在事務所を設けて、スタッフを常駐させています。
ただ、今は国内に集中したい。国内中堅企業に認めてもらったうえで海外に出たいというのが私の考えです。先ほど話したライジングゾーンの製品・サービスが、しっかりとNo.1を獲得することができたら、その時には自信をもって海外に本格進出します。
・FAVORITE TOOL 鈴木社長のビジネスバッグコレクション。なかには、十数年前から利用しているものもある。普段用や短期出張用、長期出張用など、用途に合わせて使い分けている。一番右が普段愛用する肩掛けタイプのビジネスバッグ。「両手が空くので楽だし便利」なところが肩掛けのバッグを選ぶ理由らしい。
眼光紙背 ~取材を終えて~
鈴木社長の話には、派手さはないが、わかりやすく、進めていることをイメージしやすい。失礼な言い方かもしれないが、親近感を感じるトップだ。企業のトップは、現場から最も遠い位置にいるだけに、話す内容は、ビジョンや思いに終始しがちで、具体性に欠けることが多い。鈴木社長の話にはそんな隔靴掻痒の感がない。顧客や現場のスタッフの視点で戦略を練り、それを披露してくれているからだと思う。取材のこぼれ話だが、記者が質問したクラウド事業の今後についての回答が印象的だった。「クラウドは、ITベンダーが需要を創出するために生み出した不透明な言葉。ユーザーに混乱を与えているような気がしている」。ITベンダーの多くの人がそう思っているかもしれないが、それをはっきりと口にするところに、顧客のことを真剣に考えている姿勢を感じた。
「中堅企業への特化」で生まれ変わってからおよそ2年。売上高は下がってはいないが、上がってもいない。鈴木社長の「顧客視点・現場主義」は、徐々に花開き、結実していくものと思われる。(鈎)
プロフィール
鈴木 良隆
鈴木良隆(すずき よしたか)
1953年12月28日、兵庫県生まれ。77年3月、神戸商科大学(現・兵庫県立大学)商経学部卒業後、同年4月にNEC入社。93年、東京支社東東京支店長。04年、西日本ソリューション営業事業本部関西支社関西製造・プロセス業営業事業部長。05年、第二国内SI推進本部長。09年、金融営業本部長。11年、NECネクサソリューションズに移り、取締役執行役員専務。12年6月19日、代表取締役執行役員社長に就任。
会社紹介
NECグループの中核SIerで、設立は1974年。NECの100%出資で資本金8億1500万円。従業員は2420人、11年度(12年3月期)の売上高は692億円。もともとは、ユーザー企業の規模や地域を問わず、IT機器の販売やSI・ITサービス事業を展開していたが、NECのグループ戦略で、09年10月からは、東京・大阪・名古屋地域の中堅企業向けビジネスに特化している。