今年4月、経営陣による株式買取(MBO)によって非上場化することを宣言し、業界に衝撃を与えた東証二部上場の1stホールディングス。MBOは5月23日、公開買付が成立した。2年半ほど前に株式を上場(当初はジャスダック市場)した当時、内野弘幸社長は、「社会的に認められる企業になるために、2004年の創業から早い段階で上場を視野に入れていた」と語った。「ようやく大人になった」と上場の意義を表現し、業界内で目標にされる存在に浮上した。それがなぜ、改めて非上場化を決断したのか。真意を聞いた。
非上場のスピーディな経営判断にひかれる
──IT業界、とりわけソフトウェア業界は、驚きをもって1stホールディングスの動きを受け止めました。なぜ、このタイミングでMBOによる非上場化に踏み切ったのですか。 内野 根底にあるのは、クラウドコンピューティングの普及などで、従来のソフトベンダーとしてのビジネスモデルがなくなっていく可能性があるという危機感があったことです。競合も、これまでとは変わってくるかもしれません。外資系大手ベンダーと伍して戦う場面が出てくることも十分に考えられます。そうした市場環境の変化に適応してビジネスを成長させていくためには、IT市場に正面から向き合う必要があると思案したのです。そこで、いったん非上場化したほうがいいとの判断に至りました。最近になって、上場廃止によって、新しい事業展開が可能になるイメージが頭の中で鮮明になってきたのです。
──株式上場の意義やメリットについては、どのように考えておられたのでしょうか。 内野 上場する際には、いわば会社が社会的に認められたポジションに立ち、事業をオープンにすることで社内の活力が高まるという期待感がありました。その目的はある程度果たしたと思います。ただ、もともと株式市場から資金を調達する目的で上場したわけではなかったので、キャッシュフローの状況からすると、その点でのメリットはさほど感じませんでした。
しかし、優秀な人材を確保するという点では、上場企業だからこそ多くの人が当社に興味をもってくれるようになったということは間違いないでしょう。また、海外の企業からみた信頼感という点でもメリットがあって、外資系企業とのアライアンスもスムーズに進んだことは事実です。
上場企業の場合は、まず株主の目線を重視することが必要です。株主からは単年度での利益を求められます。四半期ごとの短いサイクルで収益を上げ続けなければなりません。その場合、短期的な利益に縛られた経営になりがちで、私にもそういう認識がありました。しかし、非上場化することでそこから解放され、中・長期での成長を考えた戦略にシフトすることができるようになります。これは非常に大きいことだと思います。
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