ITベンダーよ目を覚ませ!
――米国ではITエンジニアの7割はユーザー企業所属で、ITベンダー所属は3割程度。日本はそのほぼ逆でユーザー企業所属のITエンジニアは2割強とも言われます。この構成を変える必要があるということでしょうか。
現在の日本の人材分布も、今までのウォーターフォール型の開発では最適な構成だったと思います。しかしDX時代は、アジャイル開発を駆使しながらスピード感を持って効率的に開発を進めないといけない。その場合はユーザー側にエンジニアがいたほうが多少有利ではあるでしょう。
しかし、日本がいきなり米国風を目指すのは現実的ではありません。重要なのは、ITエンジニアの人材分布を変えることではなく、日本のITエンジニアがビジネスアーキテクチャーの勉強をして、ITインフラやアプリケーションの上のレイヤーで、ビジネスの構造を論理的・体系的にきちんと定義できる人が育つことなんです。今後少なくとも、日本のITエンジニアの3分の1から4分の1くらいの人材には、ビジネスアーキテクチャーを勉強してほしいですね。そうすれば、彼らがユーザーに所属していようがベンダーに所属していようが、DX人材として活躍してくれるはずです。逆の見方をすれば、ビジネスのことを知らないエンジニアをユーザー側がベンダーから引き抜いても、あまり意味がないということです。
――そうすると、エンジニアがビジネスアーキテクチャーを学ぶための教育にITベンダー側が投資をすることが手っ取り早いということになりますが、そうした動きは進んでいるでしょうか?
まったく進んでいないですね。そういうマインドも率直に言ってほとんどない。いま儲かっているからそれでいいと思っているんですね。若手やミドルマネジメント層も、自分たちの給料の源泉が今はそこにないから、そういう投資に否定的だったりすることが多い。でも、世の中の流れは近いうちに必ず変わります。ビジネスドリブンで情報システムが変わっていく時代がすぐに来ます。マーケットが変わってから動くのでは遅い。ビジネス価値を生むデジタルサービスをつくるのがDX時代のITベンダーの役割であり、そのためにはアジャイル開発の手法だけ学んでもダメなんですよ。ITエンジニアがビジネスアーキテクチャーを知ることがプロジェクトの成功に大きく寄与することになるというシンプルなロジックを、多くのITベンダーに理解してほしいです。
Favorite Goods
山本教授の思索の相棒は、多機能ボールペンと小さめのノート。ジャケットのポケットに入るサイズであることが必須条件だ。アイデアが浮かんだ時に即座にメモでき、ビジュアル的に分かりやすく整理できるこの組み合わせの「手軽さと万能であること」が魅力だという。
眼光紙背 ~取材を終えて~
テクノロジー戦略は経営の重要課題
日本電信電話公社(現NTT)の国産メインフレームコンピューター「DIPS」の開発プロジェクトに身を置いたのがキャリアのスタートだった。その後、ダウンサイジング、オープン化の時代を経てインターネット、クラウドの時代へという流れを、ソフトウェア工学の専門家の視点で捉え、NTTグループのR&Dをけん引してきた。
NTTデータに移った後は、R&Dのマネジメントがメインの業務になり、日本で初めての電子タグの実証実験などを主導するものの、「もっと自分の頭を研究開発そのものに使いたい」という思いが強くなっていった。研究者に転じることになった大きな理由だ。
日本のエンタープライズITの発展を担ってきた一人として、日本社会のIT活用のあり方には大きな課題を感じている。「とにかく頑張る」ことを重視する精神論の文化や、「いま儲かっているなら変革の必要はない」という近視眼的な考え方が支配的であるという状態を変えられるのは、経営者だけだ。経済産業省の「デジタルトランスフォーメーション(DX)に向けた研究会」委員としての活動は、テクノロジー戦略と経営戦略が表裏一体となった時代の企業経営の行く末を少しでも明るく照らしたいという思いに立脚している。
プロフィール
山本修一郎
(やまもと しゅういちろう)
1979年に名古屋大学大学院修士課程修了。同年、日本電信電話公社(現NTT)入社。2002年、NTTデータ技術開発本部副本部長。07年、同社初代フェロー、システム科学研究所所長に就任。09年、名古屋大学情報連携統括本部情報戦略室教授。17年からは同情報学研究科教授。プロジェクトマネジメント学会中部支部支部長、IPA/SECシステム構築上流工程強化部会主査も務める。経済産業省の「デジタルトランスフォーメーション(DX)に向けた研究会」委員、同研究会WG座長として、18年9月に発表された「DXレポート」の策定で中心的な役割を果たした。