中国Lenovo(レノボ)は、サーバーなどのITインフラ製品を扱うインフラストラクチャーソリューショングループ(ISG)がグローバルで大きく成長している。一方、日本では大きなシェアを獲得しているPCと比較すると、サーバーはそれほど存在感を高められていないのが現状だ。国内でISG事業を担当するレノボ・エンタープライズ・ソリューションズ(LES)の社長に3月に就任した張磊(チョウ・ライ)氏は、「製品やテクノロジーをただ提供するのではなく、それによって企業にどのような価値を届けられるのか」にフォーカスする方針。パートナーとどう連携していくかなど、成長戦略を聞いた。
(取材・文/堀 茜 写真/大星直輝)
挑戦者として市場を開拓
――前職の米Intel(インテル)で長年仕事をされていました。LESの社長を受けた一番の理由はどんな点でしたか。
インテルで直近の10年は、ユーザー企業のDXやAIを推進するポジションで、日本を代表する企業とお話しする機会が多くありました。その際に(ユーザー企業が抱える)苦しみもよく聞いていましたが、インテルは最終製品を持っていないので、歯がゆい思いをしていました。レノボから声がかかり、会社の現状と私に期待している点について話を聞いた時、私がやりたいことと合致していると感じました。メーカーだからこそ、顧客企業の変革を実現できると考えました。
――どのような役割を期待されているのでしょうか。
レノボはグローバルでISG事業が前年比60%超と大きく成長しています。日本には大きな市場があり、日本のお客様に必要な技術を届けてほしいと言われています。レノボがいい製品や技術を持っていることは、他国での成長が証明しています。一方で、この技術をどのくらい日本の顧客に伝え、理解してもらっているかという点では課題があります。国内ではレノボに対してPCのイメージが強いかもしれませんが、挑戦者の立場として、私がお客様にきちんと価値をお伝えし、サーバーなどISG事業の成長を目指していきます。
もう一つ期待されているのは、顧客の声を聞くことです。日本のユーザー企業が何を必要としているかを、本社の製品開発部門にフィードバックすることに力を入れます。私は来日して25年になりますが、仕事をする中でたくさんのことを教えてくれたのは日本のお客様です。インテルを退職した後も、お客様に恩返ししたいと考えていました。企業を具体的に支援する機会をレノボが与えてくれました。
――入社して、レノボの印象はいかがですか。
社内の風通しが良いです。ISG部門だけでできることは限られていますが、PCやサービスのチームもお客様のところに一緒に行くなど、組織に横串が通っていてコミュニケーションが円滑ですね。また、新しいことに挑戦しやすく、自由度が高い企業文化も感じています。入社して数カ月ですが、すごくいいチームに恵まれています。私はチーム全体の監督として、全員が目標に向かって走れるようにサポートしていきます。
ユーザーの声を聞く
――x86サーバーへのニーズは、AIの台頭でどう変わってきていますか。
需要が急激に増えており、今までにないスピードでGPU搭載のサーバーの出荷が増えています。国内では、超大企業ではない「普通のエンタープライズ」でAIへの取り組みが早いです。グローバルであるような何万個のGPUという規模ではなく、1ラックやサーバー数台で、AIで分析を行うような事例が多いです。そういった動きの中で、われわれの挑戦は、日本でAIエコシステムをいかに成熟させるかということです。ソフトウェアやAI向けソリューションを開発しているISV、これまでIT業界とあまり関りが深くなかった企業がどんどん参入してきており、その流れをサーバーの需要と結びつけていきます。
――日本は、グローバルと比較してAIへの取り組みが遅れていると指摘されることが多いですが、現状をどうみていますか。
そもそも私は遅れているとの認識はありません。すさまじいスピードでAI活用が進んでいます。日本では、課題がはっきりして、その解決のためにAIを使うというケースが多いです。PoCではなく、小売業や製造業で実際のビジネス課題の解決に活用しています。
――主力製品のサーバーで、どういった点を競合と差別化していきますか。
当社の特徴的な取り組みとして、最新の次世代型水冷システム「Lenovo Neptune」があります。GPUやCPUだけでなく、電源などサーバー全体を冷やすことができるのでファンが不要で、電力効率を40%向上させることができます。
顧客が重視するのは、ビジネスアジリティーとサステナビリティーです。AIの需要が高まり、電力消費も増え続けている中、どうやって目的を達成しつつ地球環境を守るかが差別化要素になります。水冷サーバーは、データセンターやクラウドの事業者、大企業で需要があるかと思っていましたが、実際は、そこまで規模が大きくない企業がAIのワークロードに限定して分析用に使ったり、コンテナ1個で使ったりというケースが増えています。
もう一つは、エッジからクラウドまでという幅広いラインアップを持つレノボだからこそ提供できる、ものづくりのケイパビリティーです。防塵・防振性能に優れた高性能なエッジサーバーはどんどん小型化しており、工場ですぐにデータをAI分析できるのは製造業や物流業界にとって価値が高いと考えます。
――ITインフラをas a Serviceで提供する「TruScale」へのニーズはいかがですか。
ニーズはたくさんあるはずですが、あまり使われていないのが現状です。中小企業から大企業までフレキシブルに利用できるとてもいいサービスなのですが、お客様の認知度を含めお届けしきれていない部分があります。最近発表したTruScaleの事例で、島根銀行での導入があります。当社の強みの一つは、お客様のニーズに合わせてカスタマイズできる点で、今回の事例をきっかけにもっと広げていける製品です。AI時代の企業のITインフラは、ハイブリッドなかたちになっていくのではないかとみています。データの質や使い方によって、クラウドとオンプレミスを適切に選んでいただけるように提案していきます。
――日本市場でビジネスを拡大する上でかぎになるのはどんな点でしょうか。
大切にしたい考え方は、「もの売りではなく価値売り」ということです。お客様の課題を理解し、それを解決するためには何が必要かというアプローチでないと、本質的な解決や満足につながりません。価値を売るというのは、言うのは簡単ですがとても難しく、お客様に寄り添ってニーズを正確に聞き取ることが必要です。そのために、新たにユーザーコミュニティーを立ち上げました。
ユーザーコミュニティーは、お客様が当社に課題を伝えるという役割に加え、参加企業同士で課題をシェアすることも大きなメリットになります。あえていろいろな業界をミックスしたコミュニティーにすることで、参加企業にも新たな視点を持っていただけると考えています。AI時代にデータはとても重要ですが、自社内にデータはたくさんあるのに使えるものがないと考えている企業があったとします。しかし他業界から見るとそのデータは宝の山で、協業によって1プラス1が3以上になるというケースはたくさんあるのです。当社がファシリテーターとしてそういった関係を広げていくことで、その先に当社の製品開発や新しいイノベーションも生まれてくるでしょう。
パートナーは家族
――パートナー戦略を教えてください。
日本ではパートナーとの協業は非常に重要で、パートナーとの協力体制なくして成功はあり得ません。パートナーには製品を販売していただくだけではなく、当社のプロジェクトをサポートしていただきたいという立ち位置です。企業の課題を解決するソリューションを、パートナーと一緒につくっていくことを目指します。パートナーはつくったソリューションを横展開することでビジネスに広がりが出ます。私が一番力を入れたい、お客様にレノボの価値を伝えることも、パートナーと一緒に取り組んでいきます。ビジネスの表現としてはウィンウィンということになるのですが、家族として一緒にやっていこうという気持ちです。当社は多くの販売パートナーに支えていただいていますが、AIの実装にあたっては深さがより求められていきます。お客様ともパートナーとも深い議論をすることで、深いエンゲージメントを実現していきたいです。
――今後の目標をお聞かせください。
日本企業に、当社がどんな価値をお届けできるかという点を考え続けます。グローバルで見ると、日本は大きな市場で成長可能性が高いです。日本には、グローバルの成長率を超えるチャンスがあり、それを達成するのが私の役目だと思っています。レノボが培ってきた技術を日本のお客様に伝え、国内のサーバーのシェアや成長率、お客様からの評価をグローバルと同等のあるべき位置まで押し上げるのは、私の在任中にやり切りたいです。
眼光紙背 ~取材を終えて~
来日から25年、日本で暮らしている。当初は日本語ができず、「日常生活も仕事も、周りに助けられてばかりだった」と振り返る。
転機になったのは、2011年。東日本大震災が発生し、職場から自宅まで都内を歩いて帰宅することになった。住宅街に「トイレどうぞ」という張り紙がたくさんあり、「大変な時に助け合おうという日本人の心に本当に感動した」。また、仕事で福島第一原子力発電所を訪れた際は、厳しい環境で復旧のために骨身を惜しまず作業をする人たちに出会った。中国に帰ろうかと考えている時期だったが、日本の素晴らしさに触れ、住み続ける決断をした。
今考えているのは、「日本のために自分が何かできるか」。ITインフラで日本企業に価値を提供することで、日本の成長に貢献したいと願っている。
プロフィール
張 磊
(Ray Zhang)
中国・上海出身。1989年、上海化学技術学院(現上海応用技術大学)を卒業。国営企業勤務、起業を経て95年に米Intel(インテル)へ入社。上海で工場立ち上げなどを経験。2000年、同社日本法人に異動。エグゼクティブディレクターとして法人事業グループを率い、産業アカウントチームやエンジニアリングチームを統括。その後、執行役員インダストリー事業本部長に就任。24年11月にインテルを退職。25年3月より現職。
会社紹介
【レノボ・エンタープライズ・ソリューションズ】2014年設立。中国Lenovo(レノボ)の製品のうち、サーバー、ストレージ、ハイパーコンバージドインフラストラクチャー(HCI)関連製品の販売・保守を国内で展開。エッジからクラウドまで、企業向けにAI対応のインフラストラクチャーソリューションを提供している。