都築電気はコンタクトセンターやクラウドPBX、セキュリティーなど「成長6領域」と位置付ける事業を原動力に業績を伸ばしている。同社が強みとする付加価値の高いネットワークやセキュリティー事業が好調に推移しており、2026年3月期で最終年度となる3カ年の中期経営計画については、売却した電子デバイス事業で見込んでいた分を除くと、売上高、営業利益ともに目標達成が見えてきた。6月に就任した吉田克之社長は次期計画を見据えて「サービスを軸とした成長領域を一段と伸ばす」と述べ、さらなる飛躍へ意欲を示す。
(取材・文/安藤章司 撮影/大星直輝)
高収益化に向けて大きく前進
――中期計画の最終年度にトップのバトンを引き継ぎました。まずは足元の概況を教えてください。
最終年度の業績予想は、連結売上高が前年度比4.3%増の1025億円、営業利益が同3.4%増の67億円の見込みです。計画策定時の目標は売上高1300億円、営業利益65億円でしたが、売上高に関しては、24年に売却した電子デバイス事業が278億円を見込んでおり、この分を除けば目標達成は射程圏内です。利益面では「成長6領域」を着実に伸ばしたことが追い風となり、高収益化に向けて大きく前進したと手応えを感じています。
――成長6領域のどのビジネスが伸びていますか。
当社は電気通信の設備工事業として創業し、伝統的に通信ネットワークに強いSIerです。成長6領域の中にもコンタクトセンター向けシステム開発や、クラウドPBXを軸としたクラウドコミュニケーション事業が含まれ、いずれも力強く成長しています。
コンタクトセンターは生成AIと相性が良い分野の一つで、就労人口の減少による人手不足を補う方策として、生成AIが注目を集めています。音声やチャットでの問い合わせに対して、かなりの割合でAIエージェントが対応できるようになることが期待されています。人間のオペレーターの負荷軽減や、エンドユーザーの顧客体験の向上にもつながるとして、システム刷新の案件や問い合わせが増えており、コンタクトセンター関連事業で目標とする売上高61億円、CAGR(年平均成長率)11%を達成できる見込みです。
――クラウドPBXのビジネスはいかがですか。
クラウドPBXは従来のオンプレミス型PBXからの置き換えが進んでおり、当社も通信キャリアと連携しながらクラウドPBXへの移行提案を積極的に行っています。
過去を振り返ると、ユーザー企業の多くは固定電話に対して安定性を第一に求めており、IP電話移行への漠然とした不安や、市外局番を含む自社の電話番号が変わることに抵抗感があったのは否めませんでした。固定電話の番号持ち運び制度の規制緩和によって既存の電話番号を変えずに導入しやすくなったこと、大幅な品質向上、さらにコロナ禍を境にリモートワークが普及したことなどがきっかけとなり、クラウドPBXに移行する機運が高まっています。出社時はもちろん、在宅勤務時や出先でもスマホやPCで固定電話番号からの着発信ができる自由度の高さがクラウドPBX化の大きな魅力です。
当社ではNTTドコモビジネスをはじめ主要な通信キャリア各社と進むべき方向を共有しながらビジネスを伸ばし、目標に迫っている段階です。
強みを組み合わせる連携戦略
――ほかの成長領域の状況もお聞きします。
製造業向けのOTセキュリティー事業を重点的に強化しています。生産設備で使うコンピューターのセキュリティーを高めるソリューションを、当社ならびにグローバルセキュリティエキスパート、クロス・ヘッド、ネットワンパートナーズの4社が連携して体系化しました。
生産設備で使うコンピューターは、ネットワークから切り離されたスタンドアローン環境で利用されることが多かったのですが、近年のIoTやDXの流れでデータを抽出してクラウド上で分析、活用するケースが増えました。ただ、これまでインターネットにつながっていなかったコンピューターについては、セキュリティー対策の意識が希薄だったり、予算も限られていたりするケースが多くあります。当社はここに着目し、OTセキュリティーに強いベンダーと連携し、製造業ユーザー向けのビジネスを伸ばしています。
――都築電気は製造業向けソリューションにも強いのですか。
もちろんSIerですので一通りこなしますが、当社と製造業の接点は工場内のPBXやネットワークの構築が多くを占めます。大きな工場には構内電話やLANケーブルが敷設され、Wi-Fiが飛び交っており、万が一にも通信が途切れると生産が止まってしまいます。安定した通信サービスを提供する縁の下の力持ちとしてユーザーから高い評価をいただいています。こうした実績を踏まえ、製造業ユーザーに向けて影響力ある各社と連携し、OTセキュリティー事業を立ち上げました。
――製造業以外の注力業種はありますか。
トラック運転手の残業規制や荷主・物流業者に対する規制が強化される中、当社は運転手の負荷軽減や安全性の向上、輸送品質を高めるソリューションを拡充しています。直近では当社のクラウド型動態管理・配送管理サービスの「TCloud for SCM」と、倉庫管理に強いシーネット、配車計画に実績のあるライナロジクスのソリューションを連携させ、納品先の倉庫や店舗の受け入れ情報を事前に共有して無駄のない配送計画を立てられるシステムの開発に取り組んでいます。トラックの待機時間を減らすことで効率化し、物流危機を乗り越えるためのソリューションです。
当社は長年、トラックのスピードや急ブレーキ、急ハンドルなどを記録する車載端末を通じて、安全管理や輸送品質を担保するシステムを手掛けており、その発展型として専門的な知見やシステムを持つベンダーと協業を推進しています。OTセキュリティーもそうですが、当社の強みと他社の強みを組み合わせる水平分業を加速させることで、より迅速に特定の業種・業務の課題を解決し、成長につなげていきます。
次期中計もサービス軸に成長
――吉田社長はどのようなキャリアを歩んできましたか。
キャリアとは少し違うかも知れませんが、高校を卒業してから3年間、社会経験を積むためにスキー場やガソリンスタンド、大工の手伝いなどのアルバイトに打ち込みました。その後、都築電気を就職先に選んだのは、1980年代ではまだ珍しかった完全週休二日制で、夏休みも長く、給料も多かったというのが理由です(笑)。ちなみにコロナ禍のときは率先してリモートワークに移行するなど、時代に合った働き方を取り入れて活力ある職場づくりに熱心なのは当社の伝統なのかもしれません。
入社したあとは中堅・中小企業ユーザーの担当営業となり、中小企業経営者が抱える課題解決に従事しました。まだ若かったことや、3年間のバイト経験を通じて仕事現場をそれなりに見てきたこともあってか、多くの経営者の方々にかわいがっていただきました。週末にはゴルフに連れていっていただいたり、スキーや海に行ったりと、完全週休二日制をフルに活用してお供しました。ときには愚痴みたいなものも聞きながら10年余りかけて信頼関係を築けたことが、今でも営業マンとしての原体験として鮮明に残っています。
――来年度以降の次期中計の方向性はどうですか。
直近の売上高に占めるハードウェアなどの製品販売の比率は4割、ITソリューションなどのサービスは6割ですが、製品販売の利益率はどうしても限られる傾向にあります。とはいえサーバーやPC、通信機器と合わせてワンストップでシステムを構築してほしいという顧客ニーズは厳然として存在しますし、メーカーとの協力関係も重要ですので力を抜くことは考えていません。そうなると利益率を高めていくにはサービスを軸とした成長領域を一段と伸ばしていく必要があります。
場合によってはM&Aを通じて、サービス事業の規模を拡大したり、競争力のあるITソリューションを有している会社を迎え入れたりすることも検討しています。当社自身も新しい領域へ積極的に挑んでいくことで、業績を伸ばしていきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
吉田社長は「信頼と挑戦の二つの軸で経営のかじ取りをしていく」と経営方針を語る。駆け出しの頃から現場が好きで、ユーザー企業と深い関係を築いて信頼を得ることを喜びとしていた。あまりにユーザーの利益ばかり考えすぎて、「上司からお小言を言われることも度々あった」とのこと。
そんな吉田社長のモットーは「失注しても信頼は失うな」である。「失注は仕方ない。但し、ごまかしたり不誠実であったりすることが理由となっての失注だけは絶対にするな」と指導している。顧客との信頼関係さえ続いていれば、3年後あるいは5年後に必ず商機は巡ってくるからだ。
50年以上の長きにわたって取引関係にある顧客も少なくない都築電気にとって、信頼とは時計の秒針のように一つ一つ刻んでいくものである。「信頼醸成を大切にするマインドを持つ人材が果敢に挑戦できる環境を整えつつ、2032年の創業100年を迎えたい」と話す。
プロフィール
吉田克之
(よしだ かつゆき)
1962年、東京都生まれ。81年、法政大学第二高等学校卒業。84年、都築電気工業(現都築電気)入社。2003年、流通営業統括部第三営業部長。09年、理事。12年、執行役員。16年、執行役員常務。18年、取締役執行役員常務。23年、執行役員専務・ソリューションビジネス本部長。25年6月26日付で現職。
会社紹介
【都築電気】1932年に創業した通信ネットワーク構築に強い老舗SIer。2026年3月期の連結業績予想は、売上高で前年度比4.3%増の1025億円、営業利益で同3.4%増の67億円を見込む。グループ拠点を全国約70カ所に展開。従業員数は約2000人。