セーフィーは、徹底したビジネスパートナー戦略を実践することで、クラウド録画サービスの国内トップクラスのシェアを獲得し、月額課金によるリカーリング収益モデルを確立させた。パートナー戦略ではソニーグループやキヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)など複数の有力ベンダーと資本業務提携を結ぶとともに、ITスタートアップにも出資。パートナーが手掛ける事業との相乗効果を最大限に生かし、自社サービスの市場浸透を図ったことで、2025年12月期は創業11年目にして初の調整後営業利益ベースでの黒字化を見込む。創業時から一貫してパートナービジネスを推進してきた佐渡島隆平社長に話を聞いた。
(取材・文/安藤章司 撮影/馬場磨貴)
初の通期黒字化へ
――本年度は創業から11年目にして初の通期黒字化の見通しです。まずは足元のビジネス概況を教えてください。
当社はクラウド録画サービス「Safie」を軸とした月額課金のリカーリングモデルが収益の中心部分を占めており、解約率が上がらない限り、売り上げや利益を見通しやすいビジネスモデルになっています。直近ではクラウド録画カメラの納入台数が32万台に達し、クラウド録画サービスの国内トップクラスのシェアを獲得したことで、通期黒字化を見込むに至りました。
ここ数年は「黒字化しようと思ったらいつでもできる状態」ではありましたが、クラウド録画サービスのプラットフォームとして盤石な地歩を固めることを優先してきました。当社は14年の創業時から30年代にどうなりたいかを常に思い描き、それを実現するためにはプラットフォームとして十分な規模を築いていることが不可欠だと考えてきました。今、当社のクラウド録画サービスは、小売店舗や建設現場といった場所で、防犯や監視のためのカメラ映像をデータ化する初期段階を経て、顔認証やAIなどと連携しながらデータを活用できる段階に入っています。30年代にはこれをさらに進化させ街全体の映像をデータ化し、リアルタイムで市民一人一人の意志決定に役立つようなサービス創出を描いています。
――壮大な事業構想ですね。クラウド録画のプラットフォームは外資系をはじめとした大手資本との競争が厳しそうです。
もちろん自己資本だけでは、研究開発費はもちろん、マーケティングや営業費用も過剰に膨らんでしまいます。そこで当社は創業当初から徹底したビジネスパートナー戦略を展開して、仲間づくりに力を入れてきました。ビジネスパートナーの中には資本業務提携を結んでいるケースも少なくありません。
具体的には、私を含めた創業メンバーがソニーグループ出身ということもあり、創業時にはソニーネットワークコミュニケーションズに一部出資してもらいました。また、オリックスやキヤノンMJ、関西電力、NTTドコモといった事業会社にも一部出資していただき、互いの資本や経営資源を最大限に活用しながらプラットフォームづくりに取り組んでいます。
資本業務提携で仲間をつくる
――それぞれの事業会社とは、どのように協業していますか。ソニー系やキヤノン系はカメラメーカーでもあるからでしょうか。
ソニーネットワークコミュニケーションズはグループ傘下にMVNO(仮想移動体通信事業)を基盤としたIoTプラットフォーム事業を手掛けており、IoTの一種である防犯カメラとは相性が良いです。MVNOはデータのダウンロード需要のほうが大きくなりがちですので、アップロード中心の防犯カメラと組み合わせることで、上り・下りの回線バランスを保ちやすくなるメリットもあります。ほかにもソニー系のITスタートアップで縦型の等身大モニターを活用した映像コミュニケーションシステム「窓」を開発するMUSVIにソニーグループと協調して一部出資しています。
キヤノンMJとは、キヤノングループでネットワークカメラを開発するアクシスコミュニケーションズ製のカメラで、当社クラウド録画サービスが利用できるようになっています。25年2月にはキヤノンMJと歩調を合わせ、IoTデータをAIで分析する米MODE(モード)に一部出資をしました。
オリックスは小売店舗や建設現場に防犯カメラを含むさまざまな機材をリースしており、当社サービスと組み合わせて提案していただいています。関西電力はグループ企業で展開するMVNO事業において、法人向けIoTソリューションの一つとして扱っている防犯カメラなどで協業しています。NTTドコモについては、NTTドコモビジネスと協業し、NTT東日本など通信キャリアとも連携しています。
――どれも実ビジネスでのつながりが深そうな関係ですね。
自社の本業と相乗効果が見込めるビジネスパートナーのみで構成されており、純粋な金融取引で資本提携する仲間は基本的にはいないのが当社のパートナー戦略の特徴でもあります。当社の間接販売チャネルは、資本業務提携を結ぶ事業会社を中心とした約20社を中核とし、スポットや小口の販売を担っていただく数百社のパートナーと合わせて構成されています。
街全体の映像をデータ化する
――クラウド録画サービスの端末となるネットワークカメラは特定メーカーのものに限定されているのでしょうか。
いえ、カメラのハードウェアはマルチベンダーで対応しています。メーカーの協力を得て、当社のクラウド録画サービスを使えるようにするための制御用ミドルウェアをカメラにインストールすれば、すぐに使えるようになります。国内メーカーだけでなく、台湾のネットワークカメラメーカーであるVIVOTEK(ビボテック)など海外メーカーにも当社サービスに対応していただいています。
――既存の防犯カメラにはSafieは使えないということですか。
25年3月に既存カメラの映像を録画するストレージ「Safie Trail Station(セーフィートレールステーション)」を発売したことで、Safie制御用のミドルウェアが入っていないカメラで撮った映像も、このストレージを経由して間接的に制御できるようになりました。イメージとしては、NAS(ネットワーク接続型ストレージ)のような役割を担い、このNASにSafie制御用のミドルウェアを実装することで、NAS経由でカメラ映像をいつでもどこでも確認できる仕組みです。例えば、既存の大手小売店舗で稼働している数千台、数万台のカメラを入れ替えることなく、かつデータをオンプレミスで管理することでクラウドストレージの利用料も削減できる“一石二鳥”の仕組みとして評価され、問い合わせが急増しています。
――佐渡島社長が起業を志すようになったきっかけはなんでしょうか。
父方の祖母の影響が強くて、物心つく頃には「学問よりも、商売を覚えなさい」とよく祖母に言われたことがきっかけでした。祖母は茶道を趣味にしていましたが、『高価な茶器を夫のお金で買っていては楽しめるものも楽しめない』といい、自ら駐車場経営をしたり、保険代理店を営んだり、地元の百貨店の地下街に店を出したりと、手広く商売をしていました。
バイタリティーあふれる大阪気質で、商売熱心な祖母の影響を受けて、私も学生時代に自営業で稼いだ300万円を元手に有限会社のDaigakunote.comを創業したりしました。渋谷ビットバレーが注目を集めていたネットバブルの時代で、祖母は商売のつてをたどり、孫正義さんや三木谷浩史さん、伊藤穰一さんといったITビジネス界のリーダーに私を引き合わせようと尽力してくれた思い出があります。
――いったんはサラリーマンになっても起業の夢は諦めなかったわけですね。
冒頭で触れた30年代には街全体の映像をデータ化し、リアルタイムで分析・活用できるようになるというビジョンを描けるようになった時点で、起業は規定路線でした。当時の上司に辞表と新会社の事業計画、出資要請の3点セットを提案し、結果として5000万円の一部出資を受けて誕生したのが当社です。これからも30年代、さらにその先を見据えてビジネスを伸ばしていきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「2030年代に映像のリアルタイム処理が主流になる」ことを見越して佐渡島隆平社長は創業メンバーとともにセーフィーを起業した。情報処理の歴史を振り返ると、最初はテキスト、次に静止画、そして映像をコンピューターで扱えるようになった。だが、リアルタイム処理ができるのはテキストや静止画まで、映像のリアルタイム処理は「顔認識や異常検知など一部にとどまっている」と指摘する。
映像の完全リアルタイム処理が可能になれば、世界は大きく変化し、新たなビジネスチャンスが生まれると見る。ここ数年の大規模言語モデル(LLM)の登場でAIが非構造データを処理できるようになり、AIエージェントが仮想空間で人間のように振る舞うようになった。佐渡島社長は「AI活用の本命は映像のリアルタイム処理」と位置付けており、人間と同様に現実世界の映像を見聞きして、人間とともに生活する「フィジカルAIへと進化していく」と予測する。
プロフィール
佐渡島隆平
(さどしま りゅうへい)
1979年、大阪府生まれ。2002年、甲南大学経済学部卒業。99年、在学中にDaigakunote.comを創業。02年、ソニーコミュニケーションネットワーク(現ソニーネットワークコミュニケーションズ)入社。10年、モーションポートレート入社。14年、セーフィーを創業。代表取締役社長CEOに就任。
会社紹介
【セーフィー】クラウド録画サービス「Safie(セーフィー)」を手掛ける。2025年12月期の連結売上高は前期比22.3%増の184億円、調整後営業利益は5000万円~3億円の見通し。従業員数は約520人。ベトナムとタイに海外拠点を展開している。