米NetApp(ネットアップ)は、企業が保有するデータをAIで活用しやすい状態(AI Ready)に整える基盤に強みを置き、ビジネスを展開している。オンプレミスのストレージだけでなく、独自のストレージOS「ONTAP」によって、ハイブリッドクラウド環境でもデータを一元的に管理できる点を訴求し、AI時代のデータ管理基盤として存在感を高めている。日本法人の斉藤千春社長は、パートナーと連携したソリューション提案や、中堅・中小企業に向けたサービス型モデルの展開を通じて、国内市場での成長をさらに加速させる考えだ。
(取材・文/日高彰、春菜孝明 写真/大星直輝)
中小や新規が成長エンジン
──就任から1年が経過しました。以前からストレージ事業の経験が豊富ですが、会社の印象はいかがでしょうか。
ネットアップに入ってみると、私が考えていたストレージベンダーとは、少し違った印象でした。当社は、データを安全に、簡単に管理しながら、さまざまな機能を通じてデータを使うことに重きを置いています。これは入社前から理解していましたが、中に入ると、より思い入れが強いと感じました。お客様からのフィードバックや要望を真剣に聞き、製品開発や品質改良に生かしており、他の大手ベンダーとは異なる機動力があると思っています。
──2026年5月に発表されたグローバルの決算では、過去最高の売り上げや利益を記録しました。好調の理由をどう受け止めていますか。
データの管理基盤としての評価がとても高まっています。お客様がマルチクラウドやオンプレミスなど、どのような場所にデータを置いても、シームレスに利活用できるプラットフォームを提供するのは、当社にしかできない提供価値です。
ハイブリッドクラウド、マルチクラウド環境におけるデータ基盤はもちろん、「STorage as a Service」(STaaS)のような新しく柔軟な製品モデルや、パートナーと連携した付加価値の高い提案ができたことが好業績の要因と言えます。箱売りではなく、お客様のデータの進化を支えるビジネスモデルに転換したことが、評価につながっているのでしょう。
また、「Amazon Web Services」「Microsoft Azure」「Google Cloud」といったハイパースケーラー経由で提供しているONTAPや、25年に発表した「NetApp AI Data Engine」(AIDE)などのソフトウェアビジネスも伸びています。
ONTAPに関しては、評価される理由がいくつかあります。一つめは「信頼性と安定性」です。ミッションクリティカルの環境でも、小さいオフィスのファイルサーバーとしても、安心して使える長年の実績があります。二つめは、データ管理機能や柔軟性は進化しつつ、シンプルかつ一貫した運用性を保っていることです。オンプレミスやクラウドでもONTAPでデータを総合管理できることは、運用メンバーが限られる環境で大きなメリットになります。このようなプロフィットの高いソフトウェアビジネスと、規模を問わずカバーするハードウェアビジネスの両立が、大きな成長に貢献しています。
──国内の業績はいかがでしょうか。
前年度比で40%近い成長を果たしました。メンバーも増え、お客様にカバレッジするために組織モデルも変わり、顧客課題起点で提案する「Centric Go-to-Market」を明確にしました。中小規模の企業や、新規顧客が成長の中で一番のエンジンになりますので、こういった領域を担当する営業のセグメントを分けて、人的投資を行っています。
パートナーとの連携・共創を深化
──この1年で注力した取り組み、今後の販売戦略を伺います。
AIの時代を見据えたデータ基盤というメッセージを届けてきました。営業やSEのスキルはもちろんですが、お客様との会話の引き出しを増やし、製品ではなくソリューション(解決策)を売っていくフェーズだと考え、ワークショップなどで仕組みを整えました。
ただ、AIは投資したからといってすぐに回収できるわけではなく、多くの投資が多くのリターンに結びつくとも限りません。お客様自身、AI戦略について、悩みながら進んでいる状況です。そこで、お客様の目指したいゴールを策定するためのワークショップを数多く実施しました。お客様のビジョンを明確なプランにするためのディスカッションができたことは良かったですね。
また、パートナーとの連携や共創は一番深化させなければならない分野です。AIワークロードに対応したソリューションが増える中、パートナーの皆さんも取捨選択し、自分たちならではの価値を提供できるサービスに特化し始めていると思います。ですので、当社と組んで付加価値をどう生み出すか、ゴールやターゲットを決め、対話する機会を設けました。
国内企業はSIerやコンサルティングファームと協力してビジョンを決めています。パートナーも1社ではなく、プラットフォームごとにデータ管理や運用の方法がまちまちな状況で、AIのビジョンを描くのは非常にタフです。当社はストレージの専門ベンダーとしてブループリントを描くことはできますが、自社だけで全体を完結させることはできません。そのため、キーになるパートナー2~3社と役割分担しています。お客様の課題に対し、ビジネスプランの策定から効果の見える化、ROIやビジョンとの整合性確認までを一緒に考えるフレームワークができつつあります。今後は、それをリファレンスケースとして、ほかのお客様にも伝えていきます。
AIに関しては、さまざまなAIツールで活用できるデータ基盤を提供し、AIで価値を生み出すためのデータ活用を支援することが当社の役割です。AI Readyなデータをそろえるには労力がかかります。一番難しいのは、アクセス権限やインデックスをどう管理していくかという点です。ONTAPではファイルの参照範囲やバージョンの管理が可能です。AI Readyなデータにするための処理を自動化するAIDEも用意しています。
──ネットアップの製品をファイルサーバーとして利用している中小企業も、AI活用の道筋を付けられるのでしょうか。
はい、スモールスタートで将来のAI活用にも対応できます。ONTAPを使ってまずはバックアップやデータの保護から始め、将来的には基盤上でデータの分析や、AIによるビジネス展開など、成熟度に合わせて活用フェーズを進めていくことができます。
アプライアンスとクラウドを両立
──ビジネスを拡大する上で課題は何でしょうか。
当社ができることを理解してもらう場を増やす必要があります。認知度を上げていく過程で、イベントやセミナー、メディアを通じて、パートナーやユーザーと具体的なユースケースをお伝えしたいです。
一方で、メモリーや半導体の価格高騰が続き、中小企業が値上がりに合わせて予算を増やすのは難しい実感があります。当社ではSTaaSの「Keystone」を提供していますが、1回の投資ではなくサブスクリプション型のモデルなので、需給予測が難しい時代に、投資をするに値すると判断されるのではないかと思います。パートナーにマネージドサービスのようなものを乗せていただくことで、共創モデルもつくりやすいです。新しいお客様へのアプローチは、こうしたサービスを中心に展開したいと考えています。
──アプライアンスの販売とクラウドサービスの比率はどうですか。
クラウドビジネスの成長率は高いですが、日本はオンプレミスのビジネスのポーションが大きいです。また、Keystoneのようなサービスモデルについて、日本の市場は大きいですが、まだまだMature(成熟)していないので、成長領域として期待しています。
地理的な状況を含めた不安定さがある中で、データのオーナーシップやソブリン性を重要視するお客様が増えているので、(アプライアンス製品のビジネスも)伸ばしていきます。また、当社はハイブリッドクラウド環境との連携について他社に比べて明確なバリューを持っているため、ストレージ基盤をハイブリッドクラウドで使うも良し、オンプレミスで一定程度の基盤を固めるも良しという、選択肢を持てる強みも生かします。
眼光紙背 ~取材を終えて~
22年間在籍した日本ヒューレット・パッカードでは主にストレージビジネスに携わった。当初は営業補助業務を担当していたが「営業ができる気がして『営業になりたいです』と言った」ことで、営業職として道が開けた。
「小さい舞台でも大きい舞台でも、トップを担える人間になりたいと昔から思っていた」。今までの経験を生かせると入社したネットアップで、初の社長業。社員には楽しさや誇りを感じてほしいと願う。その思いを文化として根付かせるため、リーダーが率先して行動し、団結力を高めたいという。
「メンバーとは仕事の関係だが、会社で仕事の仲間と接している時間は、人生の中ではものすごく長い」。その時間を少しでも前向きに、「楽しかった」と思えるようにする。それが社長としての思いだ。
プロフィール
斉藤千春
(さいとう ちはる)
日本ヒューレット・パッカードでストレージ事業を担当し、ゼネラルマネージャなどを経験。その後、日本オラクルでハードウェアやクラウドソリューションのビジネスに携わり、直近では執行役員クラウドシステム事業統括統括本部長を務めた。2025年6月から現職。
会社紹介
【ネットアップ】米NetApp(ネットアップ)は1992年設立。カリフォルニア州サンノゼに本社を置き、データインフラストラクチャー企業としてストレージやデータ管理ソリューションを提供。日本法人は98年設立。