【米ラスベガス発】米NetApp(ネットアップ)は10月14~16日の3日間、米ラスベガスで年次イベント「NetApp INSIGHT 2025」を開催した。同社は近年、生成AI活用の本格化を背景に、単なるストレージ製品メーカーではなく、顧客のデータ活用支援まで踏み込む「インテリジェントデータインフラストラクチャー・カンパニー」を目指す姿勢を鮮明にしている。今回のINSIGHTでは、この新たな方針を具現化する技術と製品群を発表。「AIによって再定義・再発明されたストレージ」を他社に先駆けて市場に投入すると宣言した。同社が考える新たな価値を市場にどう浸透させ、ビジネスの成長につなげるのか。パートナーエコシステムの整備方針も含めて、ネットアップのビジョンと事業戦略を現地で取材した。
(取材・文/本多和幸、編集/日高 彰)
「AI対応データ」の整備を担う新製品を発表した
米NetAppのジョージ・クリアンCEO
「AI対応データ」の整備はまだまだハードルが高い
独自のストレージOS「ONTAP」を擁するNASのパイオニアとして知られる同社は、SANストレージとしても利用できるユニファイドストレージや、クラウドにもONTAPを展開しハイブリッドクラウド環境でシームレスに利用できるストレージサービスなどで、法人向けIT市場における存在感を高めてきた。
現在の注力領域は、他の多くのエンタープライズITベンダーと同様にAIだ。INSIGHT 2025の基調講演に登壇したジョージ・クリアンCEOは、多くのユーザーのAI活用は実証実験からビジネスへの本格的な実装フェーズに移り、プロジェクトの規模も急拡大しているという認識を示した上で、新たなデータ整備の課題が顕在化していると指摘した。「技術的には企業データの全量を分析できるようになったが、業務アプリケーションの生データを『AI対応データ』に変換するハードルはかなり高い。AIプロジェクトの約80%の時間がデータ整備に費やされている」(クリアンCEO)。
生データをAI対応データに変換するための「データパイプライン」は、AIプロジェクトに必要なデータの整理(キュレーション)、ガバナンスやセキュリティーの実装、メタデータ管理、ベクトル化といったプロセスで構成される。クリアンCEOが問題視したのは、「この過程で平均六つのデータコピーが生成され、データパイプラインが高コストで非効率、脆弱になっている」ことだ。「既存のパイプラインは、構造化データを扱う従来のビッグデータ分析向けに設計された手法を流用している。“データの重力”に逆らって膨大なデータをコピー、移動させており、アクセス制御や来歴情報がこの過程で失われるリスクもある。AIが真価を発揮する領域であり、かつ企業データの80~85%を占める非構造化データや、AIアプリケーションの要求に対応できる技術が必要だ」(同)。
「ゼロコピー」のデータパイプラインを構築
INSIGHT 2025では、これらの課題に対するネットアップの回答として、ストレージ側でAIデータパイプラインのプロセスを処理するソフトウェアである「NetApp AI Data Engine」(AIDE)と、その稼働基盤となる新しいフラッグシップの分離型オールフラッシュストレージ「NetApp AFX」を発表した。AIDEのビジョンは2024年に公表しているが、今回、具体的な製品を初めて公開した。同社はAIワークロードへの対応方針として「AIのためにデータをコピーして移動させる」のではなく「AIをデータの側に持っていく」という考え方を打ち出しており、まさにそれを具現化したものと言える。
展示されたNetApp AFXの実機
AFXは、ストレージコントローラーとNVMe対応SSDシェルフという従来のストレージ製品に含まれる要素に、GPU搭載コンピューティングノードを加えた三つのコンポーネントで構成される。このコンピューティングノード上でAIDEが稼働し、ストレージシステム内部で直接データにアクセスする。これによりAIデータパイプラインの主要プロセスを「ゼロコピー」で完結させる。シャム・ネアーCPO(最高製品責任者)は「私たちはAI活用のニーズに応じてストレージを再定義した。従来の複雑性と非効率を根本的に解消し、価値創出を加速させる技術だ」と胸を張った。三つのコンポーネントは物理的に独立しており、AIワークロードの要求に応じてコントローラー、SSDシェルフ、GPUノードをそれぞれ独立して拡張できる。
シャム・ネアー CPO
これらの新製品は、米NVIDIA(エヌビディア)との密接なパートナーシップの成果でもあるという。AFXはエヌビディアの大規模なAIデータセンター構築のためのリファレンスアーキテクチャー「DGX SuperPOD」の認定を取得しているほか、AIDEは「NVIDIA AI Data Platformリファレンス デザイン」を活用している。基調講演ではエヌビディア創業者のジェンスン・フアンCEOも動画で登場。AFXやAIDEを「ストレージそのものの再発明」だと評価した。
その他の製品のアップデートとしては、ランサムウェア対策機能の「NetApp Ransomware Resilience」や、ハイブリッドクラウド対応も強化。「従来のストレージの枠を超えた、エンタープライズグレードのデータプラットフォーム」を提供していく姿勢を改めて鮮明にした。
クリアンCEO
「ハイパースケーラーやデータプラットフォームベンダーとの補完関係は拡大する」
AIデータパイプラインをストレージ側で処理するというネットアップの新たな戦略は、エンタープライズIT市場の新たな競合関係に発展する可能性もはらむ。INSIGHT 2025期間中にインタビューに応じたジョージ・クリアンCEOに、ITインフラ市場の展望について聞いた。
――AIデータパイプラインについては、ネットアップが密接に連携してきたハイパースケーラー(大手クラウド事業者)や、米Databricks(データブリックス)、米Snowflake(スノーフレイク)といったデータ分析プラットフォームベンダーが担う部分も大きい。ネットアップは今後、彼らとどのように付き合っていくのか。
クリアンCEO 今回の発表は、文書、メッセージ、ログファイル、動画、音声といったあらゆる非構造化データを、AIアプリケーションで非常に容易に活用できるようにする基盤を提供するというもの。これによりユーザーは、従来と比べてはるかに多様な方法でストレージを活用でき、大きな価値を得られる。既存のデータプラットフォームプロバイダーが解決できない方法で非構造化データの課題を解決しているため、彼らとは協力できる。一部重複する領域はあっても、補完的な関係はこれから拡大していくだろう。
インタビューに応じたクリアンCEO
――AI活用が本格化するにつれ、ITインフラのトレンドとしてパブリッククラウドとオンプレミス環境のバランスはどう変化していくと見ているか。
クリアンCEO 今後も長期間にわたりハイブリッド形態が継続すると考えている。ハイパースケーラーでは新たなAIプラットフォームなどのイノベーションが加速しており、多くのユーザーに支持されている一方で、データの主権や管理に関する懸念からオンプレミス強化に向かうユーザーもいる。双方向の引力がある。
基盤モデルのトレーニングや大規模なモデル微調整など、長期にわたる超大規模なコンピューティング環境が必要な場合、エネルギー効率や液体冷却ラックの可用性といった点から、ネオクラウド(AI処理に特化したクラウドサービス)やハイパースケーラーのクラウドに構築する方が経済的に有利だろう。推論用途が中心のRAG(検索拡張生成)のようなユースケースであれば、自社データセンターに展開することも可能だ。
いずれにしても、モデル自体をより効率化する方法を模索していく必要があり、私たちはデータパイプラインの効率化を通じてそれを支援していく。
新たな価値を市場に届けるためのパートナーエコシステムとは?
ネットアップは「インテリジェントデータインフラストラクチャー・カンパニー」へのシフトに合わせて、単に製品を販売するだけでなく、顧客がAIやデータを活用してビジネス上の成果を上げるための支援を積極的に行う方針も示している。ただし、ネットアップが提供する製品やサービスはストレージレイヤーに限られる。ネットアップ日本法人の斉藤千春社長は、「従来のパートナーエコシステムを拡大し、インフラからアプリケーションまで、ガバナンスを利かせたトータルソリューションを構築できるコラボレーションの体制が必要になる」との認識を示した。
米NetApp日本法人
斉藤千春 社長
従来、日本市場では特にディストリビューターやリセラーとの関係づくりを重視してきた印象が強いが、これに加えて、コンサルティング会社やSIerを含む既存パートナーとの連携強化、クラウドインテグレーターなどの新たなパートナー開拓にも注力する。AIDEやAFXの当面の想定顧客は、大規模なAIアプリケーションをビジネスの現場で活用していく計画があるハイエンドのユーザーであり、この領域でビジネス上の成果創出につながる成功事例を増やし、市場の認知度を高めるためにも重要な施策だ。
また、国産クラウドやISVも含め、より幅広い属性のプレイヤーとの協業も視野に入れる。「日本市場の中で、AI実装の新しいビジネスでギブアンドテイクの関係をつくり上げられるベンダーを見極めてアプローチしていくことになる」と斉藤社長は展望する。
米Amazon Web Servies(アマゾン・ウェブ・サービス)や米Microsoft(マイクロソフト)、米Google(グーグル)、エヌビディアなど、グローバルでアライアンスを組む大手ベンダーとの間でも、日本市場独自の協業の枠組みを模索する。チャネルパートナーやSIパートナーの開拓、顧客開拓の取り組みなど「売り方のところでも連携を強化したい」(斉藤社長)意向だ。
ガネサン・アルムガム・APACチャネル&アライアンス統括は、グローバルで展開するパートナープログラムの「NetApp Partner Sphere」の中で、「仮想化、ハイブリッドクラウドコンピューティング、クラウドトランスフォーメーションなどに加え、直近ではデータレイクソリューションやLLMモジュールを提供する総合的なスキルに関するコンピテンシーなどが追加された」と説明。さらに、パートナーの受注案件をネットアップの技術チームが支援する体制を強化したほか、デモ機材の無償提供プログラムも発表した。
ネットアップ日本法人の藤山智浩・パートナー・アライアンス営業統括本部パートナー営業第一本部本部長は「AFXはハイエンドの製品だが、『NetApp AIPod』や『NetApp AIPod Mini』などミッドレンジ、エントリーのAI向け統合インフラも既に提供している。日本のパートナーも、お客様の課題をいかに解決できるかに重点を置くようになっており、一緒にビジネスを拡大できる手応えがある」と話した。