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富士通 DaaS参入へ 一括アウトソーシング推進

2009/11/12 21:43

週刊BCN 2009年11月09日vol.1308掲載

 富士通はDaaS(デスクトップのサービス化)を年内をめどに始める。企業で使うパソコン環境を丸ごとアウトソーシングするもので、従来のクライアント/サーバー(クラサバ)方式に比べ、ユーザー企業はシステム運用コストを削減できる。すでに一般化しているアプリケーションのサービス化(SaaS)をより発展させたのがDaaSと位置づけられており、富士通では他社に先駆けて同サービスを始めることで、クラウド型ビジネスの売り上げ拡大に結びつける。ただ、ビジネスを本格的に立ち上げるには、アプリケーションの管理方法や価格競争のリスクなど、DaaS特有の課題を解決する必要がある。

 DaaSは、仮想化技術を応用したもので、クラウド型サービスビジネスの一つ。パソコンのデスクトップを仮想化し、データセンター(DC)から画面イメージを配信する仕組みだ。富士通は11月、主力DCの館林システムセンターの新棟が本格稼働したことを受け、年内をめどにDaaSを始める。同社がDaaSに参入するのは今回が初めて。

 要素技術は、仮想化ソフトベンダーのヴイエムウェアやシトリックス・システムズ・ジャパンなどが開発。富士通は今回、シトリックスのデスクトップ仮想化ソフト「XenDesktop」を採用する予定で、同じくDaaSに取り組む丸紅などもシトリックスが一部出資するDesktone(デスクトーン)製品を使う。ヴイエムウェアも対抗製品「VMware View」の拡販に力を入れるなど、ベンダー間の競争が激化している。

 技術的な突破口は開けてきたものの、実際にDaaSとして本格サービスを立ち上げるには、課題もある。まず、顧客の電算室に設置してある基幹業務アプリケーションといかに連携させるかという点。既存のDaaSでは、高価な高速回線を使ってDaaSと接続する方式が挙げられるが、これでは回線コストが余分にかかる。従来のターミナルサービス型のシンクライアントに比べ、DaaSは拡張性が格段に高いだけに、運用コストの削減は必須。また、デスクトップのみの提供では、他社との差異化が難しく、価格競争に陥る危険性もある。

 丸紅の料金設定は月額6500円からとしており、SIer大手は、「同等の価格か、それを下回らなければシェア獲得は難しい」(SIer幹部)と、早くも価格を意識。パソコン販売での利益確保が困難を極め、収益力の回復を狙ったDaaSにもかかわらず、低価格競争や運用コスト増加に陥っては元も子もない。

 富士通では、「基幹業務システムとDaaSは基本的にセットでアウトソーシングしてもらうよう提案する」(伊井哲也・サービスビジネス本部アウトソーシングサービス推進部長)と、館林DCの充実した設備をフルに活用して、サーバーからデクストップまでの一括アウトソーシング受注を目指す。DaaS化によって既存のクラサバより運用コストが増えてしまっては本末転倒であり、ビジネス的にも失敗しかねない。統合管理の手法を用いてコスト削減に努める。同社はおよそ3000社の業務システムのアウトソーシング実績をもっており、まずはこうした既存ユーザーに向けてDaaSを提案。業務アプリと一体的な運用ができる強みを生かす。

 スケールメリットが見込める大規模ユーザーに有利なDaaSだが、来年以降、中堅・中小企業向けDaaSのサービス設計にも取り組む。当面はユーザー別に個別のDaaSシステムを構築する方式を採るが、中小企業向けには一つのシステムを複数ユーザーで共有するマルチテナント方式を視野に入れる。

 DaaS本体の価格を抑えつつ、提携関係にあるSaaS型ERPのネットスイートや、グループ会社の富士通ビジネスシステム(FJB)がもつ中小企業向けアプリや販路を活用することで利便性を向上させる。富士通では、館林DCをベースとしたクラウド型ビジネスを向こう3年で3000億円規模に拡大させる計画を立てており、今回のDaaSをその有力商材の一つと位置づけ、シェア拡大に力を入れる。(安藤章司)

【関連記事】DaaSは“脱クラサバ”の有力候補
規模の論理で厳しい側面も

 DaaSが注目を集めるのは、クライアント/サーバー(クラサバ)型のシステム運用コストが膨らんでいるからだ。ITベンダーにしてみれば、利幅の薄いパソコン販売から脱し、デスクトップをアウトソーシングしたほうが収益の安定化につながりやすい。両者の利害が一致していることから、DaaSが“脱クラサバ”の有力候補の一つになるとみるITベンダーは少なくない。

 すでに市民権を得た感があるSaaSは、ユーザー企業によるパッケージソフトの買い取りを止めさせて、アプリケーションをサービスとして利用してもらう方式。今回、富士通が始めるDaaSも、関連するハード設備をITベンダーが所有し、デスクトップのみサービスとして提供するもの。DaaS、SaaSでデスクトップも買わず、アプリケーションも買わずという状況をつくりだしてしまっては、「メーカーとしては正直厳しい」(メーカー関係者)と、本音が漏れ聞こえてくる。

 しかし、SaaSで急成長したセールスフォース・ドットコムのようなベンダーがDaaS分野で登場してからでは遅い。GoogleやマイクロソフトのAzureなど、大規模なクラウドをもつベンダーなら、例えば、中小企業で必要なアプリケーションをすべて揃えたうえで、DaaSに参入してくる可能性も否定できない。両者ともに、オフィス系のアプリケーションやDaaS/クラウドの技術要素をもっており、その潜在力を過小評価するのはあまりにも危険といえる。

 富士通の場合、大手向けには富士通本体が基幹業務システムとデスクトップを一体的にアウトソーシング。中小向けには、FJBや、グループ会社でインターネットプロバイダのニフティがオフィスソフトや業務システム系SaaSとセットで、割安に提供する選択肢もあり得る。クラウド系のサービスは、スケールメリットが重要であるだけに、中途半端なままで満足せず、グループの総合力を結集する必要がある。(安藤章司)
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