SAPジャパンは10月4日、中堅企業向けのクラウドERP製品「SAP S/4HANA Cloud」について、パブリッククラウド型の最新版の提供を始めた。製造業向けの機能を拡充したことなどが主な特徴。今後、パブリッククラウド型を新規顧客に対して第一の選択肢として提案する方針で、パートナーエコシステムの強化や拡大を図る。
(齋藤秀平)
最新版では、製造業向けの機能拡充として、設計や配送計画、需要主導型生産計画、納期回答、予測型MRP(資材所要量計画)、コンフィグレーション、プロジェクト管理、品質管理などの領域の機能を拡張。販売業務や製造業務といった業種や顧客固有の要件がある領域にも対応できるようになった。
稲垣利明 バイスプレジデント
また、開発言語のABAPを用いたプログラミングにより、クラウドシステム上でカスタム機能の開発が可能になった。具体的には、公開オブジェクトを使用した開発手法を採用。将来的な製品アップグレードの影響を受ける心配はなく、クラウドサービス利用によるイノベーションスピードの加速というメリットを保持したまま、固有のカスタム機能を実現できるとしている。
同社の稲垣利明・バイスプレジデントRISEソリューション事業統括は、第一の選択肢として新規顧客に提案していく理由について「将来の拡張性や柔軟性、俊敏性を享受できるパブリッククラウド型を提案させていただくことは、長い期間で見た場合、お客様に提供できる価値の最大化につながると信じている」と説明。最新版によって、顧客のニーズに柔軟に対応できるようになったことも理由の一つとして示した。
同社は、関連のビジネスを成長させることを目的に、新たに専任営業部隊を組織し、事業推進体制を強化する。ABAPを用いた業種別の機能開発については、パートナー企業による開発を中心に進める。パートナー関係では、新規の導入が大幅に増えると予想されることから、パートナーエコシステムの拡大を進め、各プロジェクトにしっかりと対応できるようにする。
グローバルのクラウド戦略では、これまでオンプレミスで提供してきた製品のクラウド化などを進めてきた。今後はクラウド事業をより伸ばしていくことを目指す。2025年のクラウドビジネスの売上高は、21年比で約2.3倍の22億ユーロ(約3兆円)が目標だ。
国内でも、「2025年の崖」問題や政府のクラウド・バイ・デフォルトの方針などにより、企業や組織のクラウド化が加速している。こうした動きを踏まえ、同社は、製造業などの領域以外でも、パブリッククラウド型の利用を積極的に推進する。
この日の説明会では、独本社でS/4HANAを担当するスベン・デネケンCOOが、世界中の企業がS/4HANA Cloudを利用していると紹介し、ビジネスで得た知見を生かして「お客様のDXのお手伝いをしていく」と力を込めた。また、総合建設コンサルタントのエイト日本技術開発(岡山市)の永田裕司・取締役常務執行役員も出席し、システム刷新に当たり、クラウドオファリング「RISE with SAP」などのソリューションを採用した理由を説明した。