サイボウズはノーコードツール「kintone」の大規模導入促進に向けた取り組みを強化する。エンタープライズ企業や大規模導入向けのパートナー認証制度を新たに設け、価格体系にも新コースを用意した。kintoneは部門導入にとどまるケースが多く、単価の伸び悩みが指摘されており、新施策を通じて顧客規模の拡大を図る。青野慶久社長は「kintoneをいかに全社的な情報共有プラットフォーム・DX基盤とするかという部分にビジネスをシフトする。パートナー、顧客双方を啓蒙できる仕組みとしたい」と期待を寄せる。
(藤岡 堯)
青野慶久 社長
新制度となる「kintoneエンタープライズパートナー認証」は、エンタープライズ企業などに対するシステム開発や構築の技術力、組織体制、大規模導入・拡大の実績を持つパートナー企業を、サイボウズが審査・認証する取り組み。同社は従業員規模1000人以上の企業をエンタープライズ企業と位置付けている。
認証を通じてエンタープライズ向けや大規模導入を得意とするパートナーを明確にすることで、ユーザー側が課題やニーズに応じたパートナーを選びやすくする狙いだ。青野社長は制度について「狭き門」と表現し、技術、体制、実績のいずれの要素もそろえたパートナーを厳選する考えを示す。認証取得企業の第1弾では、M-SOLUTIONS、コムチュア、ジョイゾー、アールスリーインスティテュート、JBCCの5社が選ばれた。
料金体系に関しては、最小契約数1000ユーザー以上の顧客を対象とする「ワイドコース」が設けられた。作成できるアプリケーション数の上限をスタンダードコースの1000から3000に引き上げたほか、コミュニケーションやアプリ集約の場となる「スペース」の上限も500から1000とした。エンタープライズではプラグインやカスタマイズを介したAPIアクセス数が増えることを踏まえ、1日あたりのAPIリクエスト数の上限もこれまでの1万から10万に大幅に拡張した。上限については、個別相談による上乗せも可能となる。
さらに、アプリ内で実行された業務プロセスや、上長、管理者らからの承認履歴を管理できる機能、社内組織別のアプリ保持や権限設定の状況などを分析できる仕組みを提供し、大規模導入に欠かせないガバナンス面の体制も整えている。
kintoneは順調に導入社数を伸ばしており、同社によると、3万4000社を超える企業が利用している。企業規模に関しても、東証プライム上場企業の3社に1社が採用し、大企業ユーザーも着実に増えている。一方で、多くの企業では部門採用にとどまるケースが多く、青野社長は「(kintoneは)全社で情報を共有する世界を目指しており、部門向けにつくったものではなく、不本意な面がある」と語る。
kintoneが部門導入中心となっている現状は、成長の鈍化にもつながっている。23年12月期の決算関連資料によると、kintoneを含むクラウド製品全体におけるARR(年間経常収益)は240億1800万円、前年比増加率(成長率)は17.5%だった。成長率は、20年に27.0%、21年は24.3%、22年は22.9%と減少を続けており、23年は20%台を割り込む結果となった。1サブドメインあたりの平均売り上げを指すARPAを製品別でみると、全社導入が前提の「Garoon」が11万6700円であるのに対し、サイボウズの売り上げ全体の半分以上を占めるkintoneは3万4100円となっており、ビジネスのさらなる伸長を目指す上でも、kintoneの単価向上は重要な課題だ。
青野社長は新規施策を通じて、大規模導入のニーズを掘り下げていく考えで「エンタープライズのお客様に必要性を理解してもらい、DXのステージを進めていただきたい。それができるパートナーを選び、一緒に取り組みたい」と意気込む。