日本コンピュータシステム販売店協会(JCSSA)は11月6日、「ダイバーシティ推進フォーラム2025」を開催した。多様な人材の活躍について、有識者や会員企業の当事者らが意見を交わした。会員企業への調査結果を公表したほか、基調講演ではグローバルと日本で女性の社会進出に差が生まれている点を解説。パネルセッションでは働きやすい環境づくりの取り組みを示した。
(取材・文/春菜孝明)
人材活躍に理解を深めたフォーラム
IT業界の多様な人材活躍を進めようと企画し、2024年に続いて2回目。25年7月には会員企業向け研修も開いている。今回のテーマは「多様な人材が自分らしく活躍できる、これからの企業の在り方とは?」とし、企業風土づくりの考えを深めた。大塚商会本社を会場としたほか「Teams」で配信した。
JCSSA
奥田芳恵 理事
会員企業の従業員407人が回答した女性活躍に関する調査結果について奥田芳恵理事(BCN社長)が説明し、若年層の価値観や、管理職と一般社員の認識の違いを解説した。「女性が管理職になれるか」「ワークインライフを実現しているか」に対する回答をもとに、ダイバーシティーの考え方の浸透度合いを4象限に分けると、ともに程度が高い「イノベーション型多様性組織」が62.9%で最多だった。働きがいを答える設問には「お客様や社会の役に立っていること」が全体で最も多い61.4%だったのに対し、20代と30代では「給与・報酬が高いこと」の割合が最も高かった。
管理職に「なりたくない」一般社員が56.2%と高水準になり、「プライベートとの両立困難」「自信不足」が背景にあることが分かった。管理職に「なりたいが自信がない」一般社員も20.9%を占めた。現職の管理職の働き方改革や、一般社員への伴走支援が必要と提言した。
羽生プロ
羽生祥子 社長
24年に続いて講演した羽生プロの羽生祥子社長は、日本の女性が世界で最も有償労働時間が長いにもかかわらず、男性の5.5倍の家事時間をこなしているとデータを示した。一方で男性も長時間労働に陥っており、家事や育児に時間を割けていないという。これには歴史的背景への理解が必要と指摘。1970年代の性別役割分業を基にした社会からの転換に向け、職場における性差別禁止などの法整備がなされたが、実態は伴っていなかったという。
15年に制定された女性活躍推進法は、企業に対して行動計画の策定、公表を義務付けるなど実効性が求められる内容となった。女性役員比率を30%以上にする政府方針も打ち出され、女性を優遇する「逆差別」だという声もあるが、「これまでのビハインドをゼロに戻す象徴が役員比率3割だ」と訴えた。
その上でダイバーシティー経営は「やらなければリスク、やればメリットの時代になった」と強調。ダイバーシティー経営に取り組む企業は財務データもよく、投資家から評価を受けることができるとした。また、女性の活躍が企業パフォーマンスを向上させるとして製造業の特許取得に関するデータを紹介。発明者が男性のみの特許に比べて男女が関わっているほうが、経済的価値が高いという。男女の優劣ではなく「属性を混ぜることでチャレンジングなことができる」と分析した。逆に性別や年代などが均一な組織だと、意見が同質化して腐敗につながるとして、「異なる意見を言うことがリーダーの役目」と示した。若年層を中心に価値観が多様化する中で、多様性を受け入れることで人材確保にもつながるとした。
厚生労働省が25年からスタートした「共育(ともいく)プロジェクト」についても説明。羽生社長が座長を務めており、男性管理職の長時間労働の是正や共育企業の支援に取り組んでいると語った。
パネルセッションには羽生社長と、会員企業から4人が登壇し、さまざまな人材が活躍できる企業のあり方をひもといた。
左からミラクルソリューションの長岡路恵代表取締役、
庚伸の宮澤慧丈室長、インテルの高木博子マネージャー、リコージャパンの鈴木大紀氏
ミラクルソリューションの長岡路恵・代表取締役は自身が文系出身でエンジニアになった経験を踏まえ、本人の努力次第で社会進出の道が開けると説いた。社内の取り組みでは、育児休暇の取得を積極的に促し、東京都からライフ・ワーク・バランス企業として認定されたことを紹介した。
庚伸の取締役の宮澤慧丈・社長室長は育児休業などで社員が抜ける際の穴をどうフォローし合うかが現実的な課題だとした。女性活躍については家事負担に言及。共働き率が高い台湾で家事を外注している事例を挙げ、家庭内外での分担の可能性も考えるべきだと語った。
子育てしながらの働き方について、インテルの高木博子・ビジネス・ディベロップメント・マネージャーは、営業職は時間の調整にメリットがあり両立しやすいと話した。リコージャパンのデジタルサービス営業本部マーケティングセンターの鈴木大紀氏も周囲に仕事をお願いすることがある半面、「限られた時間で成果を出すためにモチベーション高く働けている」と手応えを語った。
管理職になりたいが自信がない社員が多いという調査結果については「自分がどうしたいか分からず、不安になっているのでは」(高木マネージャー)という声があった。不安の解消には管理職に関する情報を得ることで「今の自分に何が足りないか理解できる」(鈴木氏)との意見が出た。宮澤室長は「失敗しても大丈夫だという風土をつくることが大事」とし、制度設計や声掛けでのフォローを提案した。