OVER VIEW

<OVER VIEW>回復への出口見えず、低迷し続ける世界IT市場 Chapter2

2002/09/09 16:18

週刊BCN 2002年09月09日vol.956掲載

 世界的IT不況の要因はソフトベンダーのマイクロソフト、UNIXサーバーのサン、世界のIT市場の縮図と考えられるIBMそれぞれの決算数字が説明する。相変わらず2ケタ成長を遂げたマイクロソフトの伸長は、ゲーム機Xbox売上高が支えた。IBMのサーバーなどエンタープライズ商品やサンの売上高が大きく落ち込んだことは、エンタープライズ商品の価格デフレが激しいことを物語る。同時にUNIXサーバー市場の大きな減少は、そのオルタナティブLinuxサーバーの普及によって加速されていることも判明する。(中野英嗣)

苦戦するエンタープライズ製品

■デルによる激しいパソコン市場のカニバリズム

 世界的IT不況のなかで、01年に大きく落ち込んだ世界のパソコン出荷台数は、02年4-6月も回復する動きは見られなかった。調査会社IDCによると、同時期世界パソコン出荷台数は、落ち込んだ前年同期よりさらに0.5%減少した。縮小し続けるパソコン市場ではカニバリズム(共食い)現象が激しい。

 IT不振のなか、ハードメーカーで1社だけ大きく売上高を伸ばすのはウィンテル専業のデルコンピュータである。

 デルの02年5-7月売上高は前年同期比11.1%増の84億5900万ドルに達した。IDCの調査によると、02年4-6月期、デルは出荷台数を前年同期398万台から15.5%伸ばし460万台とした。これによってデルはコンパックを買収して世界パソコントップとなった新HPのシェア15.1%に僅か0.3%差まで追い上げている。HPは前年コンパック台数を合算したシェア17.9%から2.8ポイントもシェアを落とした。逆にデルは前年同期シェア12.8%から2.1ポイントもシェアを引き上げた(Figure7)。

 HPのパソコンは旧コンパック分も含めてデルのカニバリズムによって出荷台数を減らした。まさにデルは縮小し続ける世界のパソコン市場で独り勝ちの様相を強めているといえよう。

 しかし、この独り勝ちデルのマイケル・デル会長ですら、パソコン市場について次のように悲観的に述べている。

 「世界のパソコン市場の牽引役は企業需要だ。しかし、企業ユーザーがいつパソコンの買い替えに踏み切るかについては、依然不透明のままだ。世界的に企業IT予算が削減するなかで、大量のパソコン購入は期待できない。従ってシェアを伸ばすには他社ユーザーの追加需要を奪うしかない」

■Xboxがマイクロソフトの成長を支える

 02年6月のマイクロソフト年決算売上高は前年比12.1%増の283億6500万ドルとなった。IT不況のなかでも同社は相変わらず年2ケタの成長率を維持している(Figure8)。

 しかし同社の成長率も90年代後半の30%、20%台には及ばない。しかもマイクロソフト成長を支えるビジネスも大きく変化している。同社決算セグメント情報によると、デスクトップアプリケーションの伸長は僅か0.6%で横這いとなった。一方デスクトッププラットフォームはウィンドウズXPの発表によって15.6%伸びた。

 しかし、同社ビル・ゲイツ会長が注力してきたサーバーOSなどエンタープライズ関連商品の伸びは前年の18.3%増ほどの勢いは見られず、5.8%増にとどまった。これに対し01年秋に発売したゲーム機Xboxを含むコンシューマ関連は前年の19億5400万ドルから83.5%伸びて35億8600万ドルとなった(Figure9)。

 すなわち、マイクロソフトの前年からの売上増額30億6900万ドルの53%はXbox関連の伸びが占めたことになる。従ってマイクロソフト売上高もXboxが大きく伸び続けなければ2ケタ成長は望めなくなっている。このようにマイクロソフト決算もパソコン低迷の影響を受けていることが判明する。

■エンタープライズ商品の激しい価格デフレ

 02年6月のサン・マイクロシステムズ年決算売上高は、前年比31.5%減と大きく落ち込んだ(Figure10)。

 また世界のIT市場の動向を示すと考えられる02年6月IBM前半期決算売上高も前年同期比8.4%減となった。IBMは全売上高に占めるITサービス、ソフトのノンハード構成比が前年55.8%となり、IT不況に最も強い抵抗力をもつといわれていた。このIBMも不況の打撃を受け始めている。

 サンはUNIXサーバーのトップメーカーであり、IBMもサーバー、ストレージなどハードではエンタープライズ商品が主力だ。サンはUNIXサーバーがeビジネス向け中核サーバーとして認識されて以来、そのトップメーカーとして急速な成長を遂げてきた。

 しかし、01年6月決算売上高をピークとしてサン売上高は大きく落ち込み、02年6月決算では6億2800万ドルという純損益ベースの赤字に陥った。

 IBMの02年6月半期決算セグメント情報によると、同社のITサービス売上高も前年同期比1.9%減となり、エンタープライズ商品はパソコン・プリンティングシステムの14.9%減より大きく18.1%も落ち込んだ。IBMソフトはデータベースの「DB2」およびアプリケーションサーバー「WebSphere」などミドルウェアが大きく伸びたため3.5%増となった。

 IBMソフト伸長には同社のLinux戦略が大きく貢献していることも見逃せないだろう。IBMのメインフレーム上で大きな実績をもっていたミドルウェア群がLinuxベースに移植され、しかもIBM全サーバーでLinuxが使えるようになったことで、自社Linuxベース・ミドルウェアの市場が自動的に大きくなったからだ。またIBMセグメントでは、半導体やハードディスクを含むテクノロジーが最も大きな打撃を受け、34.6%も売上高が減少した(Figure11)。

 「IBMサービス売上高が落ち込んだのは、ユーザーの新規システム案件の多くの開発着手が予算的に遅れているためだ」と、IBMグローバル・サービス副社長ラルフ・マルティーノ氏は語る。

 サン、IBMなど主力分野がエンタープライズ商品であるメーカー売上高の落ち込みは、サーバー、ストレージなどの激しい価格デフレによるものだ。

 IDCによると、02年1-3月、世界サーバー出荷金額は前年同期の134億ドルから20.1%減って107億ドルとなった。さらにサーバーのなかでもUNIXサーバーの価格デフレは激しく、同期24.2%減となった(Figure12)。

 いずれも台数は前年比ほぼ横這いだ。このようにサーバーを代表とするエンタープライズ商品は、単価も大きいだけに価格デフレによる市場縮小の影響は大きい。とくにUNIXサーバーの価格デフレが激しいのは、出荷台数の多いローエンドサーバーで、Linuxベースのインテルサーバーとの競合が激しくなったからだと米ギガ・インフォメーション・グループは指摘する。

 IT業界の提供するウィンドウズ、UNIXオルタナティブ(代替)のLinuxが、サーバー価格デフレを加速しているというわけである。
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