中国ソフト産業のいま

<中国ソフト産業のいま>2.ソフト産業と政治(上)

2003/01/13 20:43

週刊BCN 2003年01月13日vol.973掲載

 今号から中国ソフト産業の現状と実力を検証していく。扇情的な過大評価も過小評価もなく、在るがままの姿を浮き彫りにする。まず初めに、政治的側面から中国ソフト産業を考えて見る。(坂口正憲)

 中国のソフト産業は高度成長期にある。国務院信息化工作弁公室によると、2002年の産業規模は前年比40%増の1100億元(約1兆6500億円)に達した。全世界市場で米国を筆頭とするベスト5の仲間入りを果たした可能性は高い。ソフト輸出国であるインドの1兆9000億円台に迫る。

 日本のソフト産業は14兆円規模なので、中国ソフト産業はその8分の1程度。海外輸出は10億ドル程度しかないが(インドの10%)、93年から01年にかけて年率30%の伸びを示す国内IT投資に牽引されてきた。

 この結果を受け02年末に中国政府は、05年に(1)ソフト産業の規模を3兆7500億円、(2)国産ソフトとサービスの国内市場シェア60%、(3)輸出額50億ドル――とする新たな発展目標を掲げた。国直轄のソフト開発特区では、海外企業の直接投資を呼び込もうと、優遇措置を強化する。一方で、国内産業育成のため、厳しい中央財政の中からソフト産業へ集中的に投資する。

 中国政府には、ソフト産業を急成長させなければならない切羽詰った理由がある。製造業が好調で、GDP(国内総生産)が7-8%成長を見せる中国だが、経済発展のすぐ隣で社会不安が高まっている。

 外資製造業の進出が旺盛な沿岸部と、農業主体の内陸部の経済格差が著しいからだ。国営企業の縮小が追い討ちをかけ、内陸部の実質失業率は10%以上である。社会学的に言えば、所得格差を示すジニ係数が「暴動発生」を警告する領域に達する。

 つまり中国政府は今後、膨大な雇用機会を創出しなければならない。製造業の成長だけではカバーし切れない。中国の経済政策の根底には「先富論」がある。豊になれる者から先に豊になる。工業化で発展した地域から、早く新産業へシフトしなければ後がつかえる。ソフト産業の育成は待ったなしなのである。

 それだけに中国の中央、地方政府の取り組みは真剣である。社会統治と地域間競争がかかっている。わが国のお気楽な雇用対策とは“気合”が違う。
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