大遊泳時代

<大遊泳時代>第13回 貸本屋と電子BOOK

2004/03/29 16:18

週刊BCN 2004年03月29日vol.1033掲載

松下電器産業役員

 知り合いの98歳のおばあさんが病気で見舞いに行った。その人は今から50年前に自宅で貸本屋を始めた。私はよくマンガ本を借りて読んだが、私のその店の会員番号が「200番」であったと今も記憶している。本の付録を貯めておいて、1か月間で最もよく借りた人から順にプレゼントしてくれた。いわゆるポイント制である。おばあさんいわく、大阪では初めての会員特典制と自慢していたが、戦後初の女性ベンチャーといえるかもしれない。

 この貸本屋もTVが始まり、子供の読書離れが進み、劇画BOOKの読み捨て時代となり、廃業していった。メディアというかコミュニケーションツールの交代である。ところで最近、息子との待ち合わせにマンガ喫茶を指定してきたので行ってみた。店内でセルフサービスのドリンクを飲みつつマンガを読む。持ち帰りは会員になればOKとのこと。なんと貸本屋の復活だ。これは経済的メリットの追求と同様に、マンガも全集となり在庫がすごいし、紙消費に対するエコロジー的理由もあると思われる。

 そこへ電子辞書に続いて電子BOOKが登場し、普及団体や新会社の競争が始まった。電子BOOKはグーテンベルクの印刷技術の発明以来の革命かもしれない。ハード、コンテンツ、配信技術、ビジネスの仕組み、使い易さの進化が期待される。こうなると本屋業はどうなるのかな。もちろん、専用端末機は本屋ルートで販売、コンテンツも配信2か月後、自動消去など、出版界との共存共栄が仕組まれている。

 しかし、ITとエコロジーの視点で考えると電子BOOKは大歓迎。いってみればIT型の貸本屋である。しかも在庫は不要、増刷も簡単、中央集権の取り次ぎ不要、地方コンテンツの活用可能といいことずくめである。ワトソン君! 「ITは紙に勝てるかな?」と聞くと、答えていわく「いずれ使い分けの時代となりますよ」、「つまらないコンテンツは消し易くて便利ですよ」とのこと──我がコラムも消されないように頑張らなくては!!
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