情報化新時代 変わる地域社会

<情報化新時代 変わる地域社会>第9回 大阪商工会議所(上) 受注者と発注者をマッチング

2004/07/05 20:43

週刊BCN 2004年07月05日vol.1046掲載

 江戸時代から「商都・大坂」と呼びならわされてきた大阪市。ユニークな発想や斬新な経営スタイルも数多く生み出してきたが、その活力の源は、中小企業の集積度の高さにある。しかし、近年は長引く景気の低迷から、活力源である中小企業の地盤沈下が顕著になっているのも事実だ。大阪商工会議所では、1971年に情報経営センターを開設し、会員企業の情報化支援を行ってきているが、経営環境の厳しい今こそ、ITを利用し、中小企業のビジネスを活性化する必要がある。そこで、04年3月からインターネット上で商品やサービスに関する商談を行えるサイトを立ち上げた。それが「the商談モール」だ。(山本雅則・大阪駐在)

中小企業こそIT活用を 「the商談モール」の運用開始

■全国170の商工会議所が参加

 3月19日からスタートした「the商談モール」では、まず新規顧客を獲得したい受注者がモールに登録する。一方、仕入先や外注先を探す発注者は、モールに案件を依頼。そうすると、その内容に応じてカテゴリー別に分類された受注者に案件情報がメールで配信され、受注者が提案や見積りを打ち返す仕組み。そこでマッチングが成立すれば、直接取り引きに進むことになる。利用者は大商会員に限らない。モール運営に参加する商工会議所の会員であれば、無料で利用できる。現在、全国170の商工会議所が参加している。

 この仕組みの中でミソとなるのが、発注者の案件依頼が匿名で行われるところ。発注者側からすれば、企業情報がオープンになってしまえば、不要な販売攻勢を受ける懸念がある。一方で受注者側にとっても、発注者の属性が判ってしまうと、将来の取り引きの可能性を考慮して、適正な見積りを出せないこともある。発注者を匿名とし、案件情報だけを開示することで、最も適正なマッチングが行えるというわけだ。

 実は、この「the商談モール」にはベースが存在する。財団法人・大阪市都市型産業振興センター「ソフト産業プラザ・イメディオ」が2001年10月に開設したインターネット商談サイト「商談上手」がそれ。「商談上手」は、デジタルメディアビジネスなどIT関連の商談に特化した内容。大阪市の予算で開設されたものの、受注企業所在地は近畿2府4県であればよく、発注企業は全国どこの企業でも一切問わない。今年5月末時点では、受注者登録2984社、発注者登録489社。累計依頼案件数は2305件で、事務局の把握している成約件数は609件に上っている。

 「商談上手」の大島清身・WEBマスターは「新規登録企業、依頼案件とも月に100件を超えるようになっており、近畿圏でITにかかわる企業には浸透してきている。商談上手の活用をきっかけに、次のビジネスに結びつく場合もあるので、成約件数の多寡についても、それほど拘っていない」というが、十分な手応えは感じている様子だ。

 大阪商工会議所の松田聡・経営情報センター所長も「商談上手」をインターネットによるビジネスマッチングの成功事例と見てアクションを起こした。

 「中小企業取り引きのマッチングでは、企業数が多いため、データベース検索などを活用してもどれほどの効果があるのか判断しづらい」(松田センター長)ため、03年の春から夏にかけてイメディオと接触を開始した。その中で「互いに大阪の産業振興を進める立場にある者同士、連携があってしかるべき」との共通認識が生まれた。

■登録企業の拡大が課題

 また、「商談上手」がIT系中心、「the商談モール」はその他製品・サービスという形でセグメントできたことも、両者の連携をスムーズに進めることができた要因の1つといえる。事実、「the商談モール」への登録に際しては、「商談上手」への案内も表示される仕組みになっている。商工会議所会員の中にもIT産業に関連する企業はある。しかし、そこは「餅は餅屋」ということもあり、ビジネスチャンス獲得の可能性を高めることを重視しているわけだ。

 スタートしてまだ間もない「the商談モール」だが、開設3か月時点での受注企業登録件数は154社、発注依頼案件数は34件、商談に進んだ件数は10件、成約件数は1件となっている。こうしたビジネスマッチングの場については、早い段階で「使える」という評判や評価が得られるかが重要。松田センター長も、その点は十分認識しているが、「ビジネスとしてネットを活用している中小企業が少ないというのも事実」とみる。

 「商談上手」はIT系中小企業を対象としており、日常的にパソコンなどを利用しているところが多い。このため、案件情報のメールが受注企業に配信されてから10分以内に見積りが返送されるということも多々ある。しかし、その他の中小企業の場合、常にパソコンを使用しているわけでなく、こまめにメールをチェックするということも少ないという企業も多い。様々な会合の場などを利用し、告知に努めているが、登録企業の拡大は喫緊の課題だ。

 もっとも、最近になって会員企業からの要望でモールへの参加に動く地方の商工会議所も出てきている。中小企業の意識も、徐々に変化してきているのは間違いない。まず、営業力の弱さを補うためのツールとしてITを認知してもらう。その有用性に少しずつ触れることで、今後、中小企業という大きな山が動く可能性はある。

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