ユーザー事例 経営がITを変える

<ユーザー事例 経営がITを変える>9.山辺【下】

2006/06/05 20:29

週刊BCN 2006年06月05日vol.1140掲載

情報システム子会社を新設

内製化でコスト削減図る

 主要商材100万点のデータベース化を目指す山辺は、技術に詳しいプロのユーザーにとって真に使いやすいデータベースづくりを重視した。

 部品一つ一つに素材や材質、表面加工の詳細データを添付し、必要ならばCADデータも参照できる。膨大な技術情報を現業のかたわら登録作業するのは困難であったため、ITベンダーの協力を一部得ることにした。

 ところが、取り扱う工具や部品に関する専門的なノウハウがないITベンダーに依頼したケースでは、「詳細データの入力ミスが目立ち、やり直しの作業が発生して逆にコストを引き上げた」(山辺隆久社長)という結果を招き、当初予定していた予算をオーバーしてしまうこともあった。

 長年培ってきたノウハウが求められるデータ入力は、ITベンダーだけに任せていてはうまくいかない。制作過程でマニュアルが完全に確立されていなかったこともマイナス要素だった。

 結局、デジタルパーツプラットフォームの基礎となるデータベースの制作は2000年3月、新たに設立した情報システム子会社のエム・エヌ・ユー(M.N.U)が中心となって作業を進める内製化に踏み出した。

 M.N.Uは自ら開発に従事するとともにITベンダーの位置づけを「当社と同等の業務ノウハウを持ったビジネスパートナー的な存在であるのか、またはマニュアルどおりに作業を進める下請け的な存在なのかの二極化が進んでいる」(廣岡正史・常務取締役)と捉え、それぞれの成熟度に応じて使い分けることで生産性の向上を図った。

 すでにマニュアルが完成しているケースでは単純作業を請け負うITベンダーに発注し、そうでない価値創造を目指したシステム開発は本当の意味でのITパートナーに発注すべきとの考え方だ。

 デジタルパーツプラットフォーム構築で助言した文部科学省の藤井章博・科学技術政策研究所科学技術動向研究センター主任研究官は、「ネットの登場でメーカーとユーザーが卸を介さないで直接取引する“中抜き”の現象が一部で起きているが、山辺は逆にネットを活用することでディストリビュータとしての付加価値を高めている」と評価する。

 ITベンダーはこうした顧客の先進的な取り組みに応えるIT技術の習得を進めるとともに、より踏み込んだ業種・業務のノウハウを身につける戦略的なR&D(研究開発)投資が求められているといえそうだ。(安藤章司●取材/文)
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