“勝ち組みソフト”は特許でつくる

<“勝ち組みソフト”は特許でつくる>第1回 ソフト特許は「安心・安全」の源泉

2007/11/26 16:04

週刊BCN 2007年11月26日vol.1213掲載

 食品業界を中心にコンプライアンス(法令遵守)違反、またはそれに近い違法行為が連日報道されている。賞味期限や原産地の偽装表示などは、大きな問題であり、企業の社会的責任が厳しく問われている。これと関連して筆者が危惧していのは、今後はソフトウェア業界にも同様の問題が“飛び火”し、その傾向がより強く出てくるだろうということである。ハードウェアばかりでなく、それに付随するソフトにも広く「安心・安全」の提供が求められるのである。

 ソフト業界におけるコンプライアンス問題には、例えば、ある企業の提供するソフトが他社の特許権を侵害していないかということがある。コンピュータ系のハードについては、多くのメーカーは知的財産権の取得や他社の権利回避など、法的問題に関して極めて慎重な行動をとってきた。その結果、大きな法律問題を引き起こすことは少なかった。これに対しソフト業界では、大型のソフトは別として、種々の小さなサービス系を含めた無数のソフトにコンプライアンス対応がなされてきたかは疑問が残る。筆者の知見する限りでは、弱小ソフト業界はまさに無法状態に近い感がある。

 パテント(特許権)は、市場利益を約束するもの、つまり利益の源泉だという本質的な誤解が人々、とりわけ経営者の間に多いように思う。他方、ソフトはフリーだという誤解のもとに他社製品と同一あるいは類似製品を提供することに躊躇しない企業が存在するのも現実であろう。

 ソフトも特許の対象となったことは、古い事案を引き出すまでもない。しかし、小さなメーカーが林立するソフト業界では、法的な常識が浸透していないのが実情だ。ある企業のソフトが他社の特許権を侵害していることが発覚すれば、単にそのソフトの内容が問題になるばかりでなく、使用差止請求によってそのソフトを使った種々のサービスや行為にも影響が及び、そこから得た利益は損害賠償請求の対象となることにも注意が必要だ。

 Linux文化の延長上でソフト業界は、フリーの世界だという考えが蔓延しているようだ。1-2年程度の短寿命商品に対するデザイン業界であれば問題が少ないだろう。しかし、短いとはいえ、その使用期限が2-3年から数年に及ぶソフト業界では、フリーライド(企業が長年かかって築いた信用や名声に便乗する行為)への厳しい規制がかかるのは時間の問題だ。安易なフリーライドは、いつかその“ツケ”を払うことになるだろう。ソフト開発においても、進歩性、独自性、市場独占性に加えて、「安心・安全」の担保を目標にすべきである。

 今、IPO(新規株式公開)を当面の目標におく新興企業が増えている。新株公開時には、当然ながら経営内容がチェックされ、企業統治と関連してリスク情報の開示も求められる。自社事業に違法性があることは論外で、製品の技術的な不具合だけでなく潜在的リスク要因を想定したうえで事業の安全性を、投資家や社会に訴える必要がある。

 技術をベースとした事業について安全性の確実な根拠となるのが特許である。特許権取得の一事で事業の安全性が保障され社会に安心感を与え、IPO後の経営の合法性を訴えることができる。だが企業経営者、特にソフト業の経営者には特許権あるいは実用新案権が低コストで「安心・安全」を確保できる法的手段であることは案外知られていない。IR(投資家対象の広報)の視点からも、特許権は市場独占性の魅力と安全性担保の合法性を訴求できる。さらに市場独占機能は営業促進材料という付随的なメリットももたらす。

 さて、来年度からJ-SOX法が適用される。米国SOX法に対応し日本版では「資産の保全」の項目が追加される。これと関連した開発の視点からは、例えば、ERP(統合基幹業務システム)のなかにJ-SOX対応機能を導入するコンセプトを先行開発し権利化すれば、市場独占の可能性が生まれるだろう。

 一方、経営の視点からは、コンプライアンス違反、さらにこれを含めた企業統治が問題となる。資産保全の立場からいえば、もし特許を取得できるソフトを保有しながら権利取得を怠った企業があれば、その消極的行為が問題視されることも考えられる。

 ソフト特許は競合企業からの防衛機能や市場独占、営業促進の機能を果たすばかりでなく「安心・安全」の経営を保障するのである。(柳野国際特許事務所 所長・弁理士 柳野隆生)
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