視点

崩壊寸前の年金制度、責任の所在は?

2011/12/01 16:41

週刊BCN 2011年11月28日vol.1409掲載

 来年度の通常国会に提出される法案の審議で、年金改正法案が世間を騒がせている。パートタイマーの厚生年金適用範囲の拡大や、60歳以後の在職老齢年金の見直しなどが俎上に乗ったが、いちばん衝撃的だったのが年金の支給開始年齢を68歳にするという案である。2004年度の年金大改正で100年安心の年金制度を構築したはずだ。それが10年もたたないうちにさらに、支給開始年齢を引き上げるというのである。

 この法案に関してはマスコミが取り上げ、筆者もテレビや雑誌から20回以上取材を受けた。結果として、来年度の法案としての提出は見送り、2年程度様子をみるということで決着した。

 わが国の年金制度は、現役世代が引退世代の年金の支払いの財源を負担する「世代間扶養」の仕組みをとっている。高齢化が進展してきたために、保険料だけでは年金財源が確保できず、国が基礎年金部分については2分の1を負担している。世代間扶養の仕組みは、現役世代と引退世代の人口バランスが保たれて初めて成り立つ仕組みである。現役世代10人で引退世代1人を支えれば、当然のことながら現役世代1人あたりの負担は軽くなる。しかし、今後の人口予測では2050年には現役世代1.2人で引退世代1人を支えることになる。普通に考えても世代間扶養の仕組みを前提とする年金制度は維持できなくなる。今回の法律改正案も、若い世代に年金の負担を押しつける改正案であった。このような改正を繰り返す限りは、国民の年金不信が増すばかりである。

 筆者自身も、1994年と2000年の2回の年金改正によって、60歳から受け取れるはずだった厚生年金が65歳支給開始となった世代に該当する。年金制度は、現役時代に長期間にわたって保険料を納め、引退後の生活に欠かせないお金を受け取る仕組みであり、年金の支給開始年齢が受け取る直前で引き延ばされることは、リタイア後の生活設計が根底から狂ってしまう大問題である。たとえるならば、現在の年金制度は、土台が腐ってしまって今にも崩壊しそうな家である。その家の崩壊を食い止めるために、表面だけ増改築するような改正を繰り返してきた。しかし、土台が腐っているので、いずれ家自体は崩れてしまう。その責任を誰がとるのか。

 年金を含めた社会保障制度のあり方を抜本的に見直さない限り、この国に未来はないと考えるのは筆者だけだろうか。
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