視点

企業経営は労務リスクを念頭に置いて

2012/03/29 16:41

週刊BCN 2012年03月26日vol.1425掲載

 昨年10月、京都市のコンピュータ会社で裁量労働制の適用を受けたシステムエンジニアとして勤務していた男性が、実際は裁量外の労働をしていたとして、会社に残業代など約1600万円を求めた訴訟の判決で、京都地裁は10月31日、1135万円の支払命令を下した。男性は裁量労働制が適用されるシステムエンジニアだったが、実際に業務の一部として行ったプログラミングや営業活動については裁量が認められないと指摘されている。裁量労働制は、誤解が多い制度の一つである。コンピュータ関係では、いわゆるSE、ゲーム用ソフトウェアの創作の業務は裁量労働制の対象となるが、プログラミングは対象とはならない。

 裁量労働制は、業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある19の業務に適用することができる。この制度導入のメリットは、実際の労働時間にかかわらず一定時間働いたものとして取り扱うことができるという点にある。

 裁量労働制とは別の話題に転じよう。今国会で、労働関係に関する重要法案が審議され、可決される見込みである。いくつか紹介すると、まず、有期契約労働者について、契約を繰り返して5年を経過した場合は正社員として採用を義務づけるということが検討されているが、これは企業経営に深刻な影響を及ぼしかねない。現在、有期契約労働者の契約期間の上限は3年と定められているが、3年以内の期間を定めた契約を繰り返して、結果的に何年も雇用し続けている会社が多いからだ。また、パート社員の厚生年金の適用基準の拡大は、会社にとって社会保険料の負担増を引き起こす。

 冒頭に紹介したケースに類する裁判は、数多く提起されている、会社を相手にした訴訟の一つであることに留意しなければならない。近年は、社員が会社を相手に労働問題に関して訴訟を提起するケースが激増している。サービス残業はもちろん、名ばかり管理職、セクハラ、最近ではパワーハラスメント関係の訴訟も珍しくなくなってきた。そういった意味でも、今国会で成立する労働関係の法律に関してのコンプライアンスはますます重要になってくる。「人」に関するトラブルが会社経営を根底から揺るがしかねないリスクになっている点を認識し、労働関係の法律を意識した経営が強く求められる時代に入っているのだ。
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