視点
「ヤマ勘マーケティング」の威力はいかほどか
2013/07/25 16:41
週刊BCN 2013年07月22日vol.1490掲載
言われてみると、確かにそうだ。むしろ、紙の本を手にしている人が増えたようでもある。それに該当するデータらしきものはないが、その場に居合わせた誰もがうなずいた。デジタルユーザーは新幹線で一人ぐらい見かけたような……。
こうした何の根拠もない「ヤマ勘マーケティング」は意外と当たる。出版業界では、少年マンガ誌の発行部数について、都内の山手線で一人読んでいたら30万部、それが5人なら150万部などというテキトーな算出法があったが、これがまんざらでもない。『少年ジャンプ』は1994年から95年のピーク時には650万部超を発行し、「世界一の週刊誌」と称された。その頃は、本を手にしている人、網棚に捨てられたものを含めて10冊ぐらいは車内に“存在”していたといわれる。
電子書籍は、はやりものに敏感なユーザーが一時的に利用していたが、飽きてしまったというのか。しかし、その一方で出版社における電子書籍の売り上げは伸長している。
ある出版関係者曰く、「電子書籍は夜に読む傾向が強く、旅先でというユーザーもいる」。つまり、紙と電子書籍を使い分けているということらしい。いま、日本で流通している電子書籍はタイトル数にしておよそ30万点。紙の本の点数は80万点であるから、この数年で一定のボリュームになった。しかし、その実態はコミックスやアダルト関連のコンテンツが多く、一般書や専門書の銘柄はまだまだ十分とはいえない。デジタル化されたラインアップが変われば、電車の中の風景も変わるのかもしれない。
与太話が長くなり過ぎた。ところで、電子書籍を手がける出版社の重要課題は権利問題である。この業界トップは、違法ダウンロードなど海賊版の撲滅を目指して出版者の権利付与を求めていたが、国会議員や経団連などとの話合いが遅々として進まない。著者の権利を出版社に与えることで、海賊版事業者を出版社が取り締まれる。これが確立しないと、正規の課金ビジネスは成り立たず、デジタルコンテンツ事業は拡大しない。ここはテキトーにというわけにはいかない。
- 1