テクノロジーを駆使したビジネス支援などを展開するアクセンチュアが、日本企業のビッグデータ活用支援を積極的に推進している。単なる分析ツールの提供ではないし、ビッグデータ活用のコンサルティングでもない。ビッグデータ活用のチームメンバーが、その戦略立案からテクノロジーの構築、さらにデータを最適化し、ビジネスの収益を最大化させる運用までを提供する体制で挑む。
圧倒的に不足しているデータ・サイエンティスト
アクセンチュアが今年6月にデータ分析チームの名称を「アナリティクス インテリジェンス グループ」から「アクセンチュア アナリティクス」に変更し、工藤卓哉氏を責任者に就けた。戦略コンサルティング本部アクセンチュア アナリティクス日本統括シニア・プリンシパルという肩書の工藤氏は、米ニューヨークのブルムバーグ市長時代に、データを行政に生かす市政府統計ディレクターを務めた経験をもっている。
その人物をデータ分析チームのトップに据えたのには理由がある。日本企業がビッグデータの活用に着目し始めたからだ。工藤氏は「(ビッグデータの活用で先行する)グーグルやアマゾン、サムスンなどの成功が背景にある」と考えている。
例えば、カーナビゲーション市場。日本企業はカーナビ単体の機能強化に力を注いできた。ところが、その間に登場したiOSがカーナビの機能を取り込んだ。結果、カーナビ単体の市場は縮小していくことになる。デジタルカメラや携帯電話機も同じ道をたどっている。
共通するのは、「自分たちがいいな」と思った商品を大量に安くつくろうというプロダクトアウトの発想。顧客の声を聞こうとする姿勢が足りなかった。その反省がビッグデータの活用へと向かわせたというわけだ。
「不変的で、常識となっているところに、ほころびが生まれてくる」と工藤氏。その変化の兆しを収集したデータの分析からとらえれば、イノベーションの創出へとつなげることができる。
問題は「その役割を担うデータ・サイエンティストが日本に10人程度しかいない」(工藤氏)ということ。そこでアクセンチュアは、統計理論に必要な基本統計と探究的データ解析、多変量解析、機械学習、最適化/OR(Odds Ratio)のすべてに精通するデータ・サイエンティストを5人揃えるという。その5人がデータ分析チームの核になって、仮説を立てて実証を繰り返す。周りには、データの抽出や集約、変換といった前処理を担う人材、SASやSPSS、Rといった統計解析ツールを駆使する人材、業種に強い経営コンサルタントなどを配置する。
ソリューションの創出や幅広い人材活用も視野に
データ分析の引き合いが増えているなかで、最も多い案件は大量の顧客データが蓄積されたデータウェアハウスを使ったマーケティング戦略の立案だという。「顧客を分析する、この領域はボリュームゾーン」(工藤氏)になる。ソーシャルメディアやリコメンデーションの分析も、それぞれ引き合いの1割程度あるという。リコメンデーションは例えば、運転手が高速道路のどの場所でブレーキを踏んだかを位置情報と組み合わせて分析し、道路の補修箇所の優先順位を決めるといったものだ。こうした分析を依頼する企業の経営者には「黒字を確保できている今のうちに、何らかの手を打たなければ」という危機感がある。日本市場で売れたからといって満足するのではなく、世界市場でも競争力のある商品を開発しなければ、海外企業に国内シェアも奪われてしまうかもしれない。そんな事態を避けるには、商品を売ったら終わりという商売を改めて、顧客の声を反映した商品開発サイクルを回していくことが求められる。
海外のある携帯電話機メーカーはスマートフォンを販売した後、顧客が使うアプリと使わないアプリを徹底的に調べて、機能強化に生かしている。「顧客が喜ぶこと」「顧客が欲すること」の洞察を得るのは、ビッグデータ活用の基本である。その遂行を確実にするべく、アクセンチュアは「発射台(データの前処理とデータ調査)とゴール(仮説立案、分析結果の活用目的など)をきちんとつくる」ための支援をしていると工藤氏は語る。
アクセンチュアのデータ分析チームには、各国の専門家も参加する。世界23か所のイノベーションセンターにおいて、データ分析ソリューションを開発し、活用している人材だ。工藤氏はまた、データ処理センターを設置し、データの前処理を得意とする人材を採用するといったことも構想している。例えば育児で1日3時間とか月曜日にしか働けないといった女性が対象となる。大学と連携し、革新的なソリューションを創出したり、人材育成を支援したりもする。こうした布石を打ちながら、日本市場におけるビッグデータ活用の実績を上げていく考えだ。
【今号のキーフレーズ】
急増するデータ分析の案件。顧客情報の分析ニーズがボリュームゾーンとなる