富士通がクラウド事業を加速させている。その一環として、クラウドに関係するプロダクトとサービスを一つのグループに括り直し、クラウドビジネス全体を把握する体制に変更した。加えて、自社の商品やサービスに固執せず、他社のすぐれたサービスも積極的に取り入れていく。「経営資源をサービスにシフトする」と宣言した山本正已社長の思いが、具体的なかたちとなって動き出した。
2000人の技術者を投入してクラウド事業の強化に動く
富士通は、2013年5月、クラウド製品やサービスを体系化した「FUJITSU Cloud Initiative」を発表した。その責任者である水野浩士サービスビジネス本部本部長代理は「最適解の追求とクラウドへの継続的な投資の姿勢を示した」と力説している。
具体的には、IaaSからPaaS、SaaSまでを手がけ、それらサービスを実現するプロダクトを開発することだ。欧米の大手ITベンダーがクラウドサービス提供事業者に商品やサービスを、いわば部品として供給するのに対して、富士通はクラウドサービス提供事業者とクラウド部品の開発事業者を両立させる戦略である。
Cloud Initiativeの目玉は二つ。
一つは、プライベートクラウドとパブリッククラウドの真ん中に位置するIaaSを用意したこと。富士通が「ホステッドサービス」と呼ぶデータセンター内に構築するプライベートクラウドの一種で、初期投資ゼロの従量課金制にした。日本に加えて、米国とドイツ、英国、シンガポール、オーストラリア、ブラジルの7地域で提供する。
水野本部長代理によると「ホステッドサービスの注目度は高い。パブリッククラウドもあるが、やっぱり専用環境が欲しいというニーズが根強い」とのこと。つまり、プライベートクラウドを構築したいのだが、コスト的に見合わないという声に応えたのが、ホステッドサービスになる。
ただし、ホステッドサービスだけに注力するのではない。オンプレミスのプライベートクラウドとホステッドサービス、パブリッククラウド(Trusted Public S5、FGCP/A5 Powered by Windows Azureなど)を組み合わせて、いかに全体最適なシステムにつくり上げていくかがカギとなる。他社のクラウドサービスを含めて、システム稼働後の運用管理までを一貫して提供することも求められる。
こうしたニーズに応えるべく、富士通は今回、約2000人の技術者を配置した。
クラウド連携・統合基盤で他社サービスも取り込む
もう一つの目玉は、複数のクラウドサービスをつなぐクラウド連携・統合基盤「RunMyProcess」だ。富士通がこの4月に買収したフランスのクラウドサービス事業者RunMyProcessが開発したもの。約1800種類のコネクタをもっており、Amazon Web Services(AWS)やニフティといった各種クラウドサービスと接続できる。また、デザインツールを利用したワークフロー連携やプロセス定義ができるため、クラウド環境のシステム構築期間を最大で5分の1に短縮できるという。
その一方で、クラウドの運用を含めた人材育成に力を注いできた。「クラウドのAPIはサービス事業者の都合で変わっていく。それにいち早く対応するには、サービス運用のノウハウをもつ人材が求められる。データセンターの運用や複数のシステムをつないだ経験も必要だ」(水野本部長代理)。トラブルが発生した際、プライベートクラウドやパブリッククラウドにどのような影響が及ぶのかを素早く判断し、有効な対策を打つ力があるかどうかも重要になる。
また、サービス商品の開発には、プライベートクラウドを構築したユーザーの今後の動向に大きく影響される。「ホステッドサービスは、オンプレミスとパブリックの橋渡しになる。事実、オンプレミスからホステッドサービスへの移行が始まっているが、次の段階でパブリックに進むのか、ホステッドサービスに滞留するかまだわからない。おそらく二極化するだろう」と、水野本部長代理は予想する。グローバル化やエネルギー問題など社会環境の変化によって、要求されるサービス商品も変わっていくだろう。
水野本部長代理によると「(データセンターを含めた富士通の)クラウドサービスへの大きな投資は一巡し、今年から回収のフェーズに入っている」という。回収を早めるうえで重要になるのが、エコシステムの確立だ。つまり、ソフトウェアベンダーやSIベンダーとの協業関係をいかに築くかである。ソフトウェアベンダーが開発した数多くのSaaSを載せ、富士通のホステッドサービスやパブリッククラウドを活用したインテグレーションを展開するSIベンダーを獲得すること。それがクラウド事業3000億円(2013年度の目標値)に向けた重要施策の一つになりそうだ。
【今号のキーフレーズ】 クラウド製品やサービスを体系化。他社クラウドとも連携しながら最適なクラウド環境を提供する