日本政府のIT関連施策の先がけとなったのは、2001年のIT基本法施行とe-Japan戦略だ。この初期の施策で重視されたのは、高速インターネット網などのITインフラ整備。国民全体のインターネット利用環境の底上げに貢献し、ITを多くの人にとって身近なものにしたという功績は大きい。
工程表、KPIを示してPDCAを回す
しかし、2000年代中盤以降の施策は、迷走を重ねた。軸足が「ITの利活用」に移るにつれ、コスト意識や利用者視点の欠如、縦割り行政による議論の硬直化、不十分な規制緩和といった問題が顕在化した。
そして2009年、民主党への政権交代を契機に、IT施策の停滞は決定的なものになった。民主党政権は、2010年5月に「新たな情報通信技術戦略」を発表し、「国民本位の電子行政の実現」などの施策を掲げたが、「それぞれの施策の実施主体も明記されておらず、正直にいって実効性に乏しい計画だった」と、ある政府関係者は本音を吐露する。
現政権は、新IT戦略として「世界最先端IT国家創造宣言」を発表するとともに、詳細な工程表を示した。前回紹介した「目指すべき三つの社会」を実現するための個別の施策ごとに、担当府省庁を細かく割り当てた。さらに、施策ごとのKPI(重要業績評価指標)を定め、政府CIOを司令塔として、PDCAサイクルを推進していくことを明らかにしている。
これまでも組織横断的な施策の必要性は絶えず指摘されてきたが、横並びの各府省庁が連携しようとしても、構造的な難しさがあったといえる。しかし、今年春の国会で「政府CIO法案」が成立し、内閣に設置されている「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)」の事務方トップである政府CIOに、法的権限が与えられた。政府CIOには、すでに昨年8月、リコー出身の遠藤紘一氏が就任しているが、リーダーシップを発揮するための法的な裏づけを得たことは大きい。遠藤氏は、新IT戦略を成功に導くために、「障害となる組織の壁や規制の打破」や「年度予算制度にこだわらない対応」など、従来の「役所のやり方」とは一線を画す方法論を採ることを宣言している。
このように、従来の施策にはない新たなコンセプトを示した新IT戦略に対応して、個別の施策の実施主体となる各府省庁は、具体的にどのような動きをみせるのか。次回からは施策テーマごとに、各府省の取り組みを追う。(本多和幸)