この出版不況の下で、電子書籍に救いを求める出版社は少なくない。中小または新興出版社は、取次（卸会社）との出荷条件や入金サイトなど、大手の既得権をゼロベースにして横一線からスタートするデジタル事業に期待していた。そこに格差のないビジネスの土壌があると思っていたのだ。しかし、現実は違った。電子ストアとの契約内容は守秘義務から非公開であるものの、大手出版社と中小にはさまざまな条件で、それなりに差が生じているという。著者側も電子版の印税には敏感で、フィーの高い出版社と契約するとか、個人での電子書籍ビジネスへと移行している。

　それにもまして、電子書籍の販売動向は「紙の本が売れれば、電子版も売れる」傾向が顕著である。売れている電子書籍は確かにある。至って単純で自然な現象ではある。電子書籍で起死回生の夢を描いていた出版社にとっては、複雑な思いであるようだ。ただでさえ、電子版の売り上げがコミック・アダルト系に偏重しており、書籍を刊行する出版社は、手をこまねいているというのが現状である。

　一方、出版社は、読者と直接取引をする「直販」という事業も並行して行っているケースが多い。個人読者の住所や購入履歴などのデータを入手して成立してきたこの事業も、こと電子書籍においてはユーザーの顧客情報は電子ストアに帰属するものであり、その可能性は閉ざされ、その仕組みそのものがビジネスを窮屈にしている。

　電子版の書籍を読むユーザーにとって不便なのは、読みたい本がどこにあるのかわからないということ。「埋もれてしまう」のだ。

　電子書籍を露出させる術は、今のところ値引きによるものでしかない。それを電子ストアの画面の前面に出すことで、“よい位置”で告知することができる。「1巻無料」や「99円キャンペーン」「ポイント50倍」などの価格訴求がよく目にするプロモーションの姿だ。その効果はキャンペーン終了後も3か月程度は続くというが、本を認知させる手段が「価格」だけという現状はいかにも寂しい。

　売れる本は、より売れる──電子書籍には明確な方程式がある。紙、電子にかかわらず、中味のない本をつくる出版社は、いずれ読者の支持を得られなくなる。これも自然なことである。