6年ほど前のことだ。私は、IT産業の成長に限界を感じていた。

　これまでの社会人キャリアのすべてをIT関連のメディア制作に費やしてきた私は、この産業はもう伸びないとあきらめたことがあった。この10年を振り返ると、ITベンダーの提案は、情報セキュリティや内部統制への対応、システム運用の効率化といったITを守るためのソリューションがメインだったように思う。売ったITを“お守り”するためのITを売る。そんな行為を繰り返しているようにみえて、発展的に思えず、密かにIT業界の将来を不安視していた。そんななか、2008年にリーマン・ショックが起こり、ユーザー企業はシステム刷新プロジェクトを軒並み凍結する事態が生じて、IT産業は一気に沈んだ。私はこの時期、歴史が長い産業が停滞に直面した時、どのような打開策を打ってきたかを調べていた。

　だが、ショックから立ち直ったIT産業は力強くよみがえった。「クラウド」「モバイル」「ビッグデータ」「ソーシャル」というメガトレンドを生み出して定着させ、それを支える新技術を誕生させた。2013年のIT市場規模は、前年と比較して微増に終わったようだが、それ以上に持続的成長の可能性を感じさせた。その点で2013年は数字以上に価値がある。かつて感じた絶望感を、この四つのトレンドは完全にぬぐい去った。

　クラウドは、複数のサービスを組み合わせれば、ユーザーがもっと使いやすくなる。モバイル環境を支えるデバイスは、入力機器と出力機器に分かれて進化を遂げていき、ウェアラブル化も進むだろう。ソーシャル（メディア）とビッグデータは、企業のマーケティングを変える。IT業界がユーザーに提案することはたくさんある。

　2014年、複数のIT調査会社は、国内IT市場規模をポジティブにみて前年比微増だと分析している。確かに、ユーザー企業のIT投資額は急激に増えることはなく、数字のうえでは予測通りになるかもしれない。しかし、その中身が変わるはずだ。これまでのように、守りの投資をユーザーに強いるのではなく、ユーザーがITに価値を感じてくれる提案でビジネスをつくることができる時代に戻る。四つのトレンドは、それだけの力をもっているし、一過性のものではない。IT産業再成長の道標はすでにある。