IT企業の営業マネージャーたちは、自社の人員を動かすだけではなく、販売パートナー側の営業パーソンをリードして、間接販売を成功に導くというケースも多い。システム構築を手がける内田洋行で、クラウド対応のERPパッケージ「Super Cocktail Innova」を担当する小川敬史さんは、ゲームの要素を取り入れながら、パートナーの若手営業担当を厳しく指導する。「自社やパートナーなど関係なく」必要なときには口を酸っぱくして、ストレートなもの言いをすることによって、エンドユーザーに対するていねいな提案活動を徹底している。(構成/ゼンフ ミシャ 写真/長谷川博一)
[語る人]
内田洋行 小川敬史さん
●profile..........小川 敬史(おがわ たかし)
1998年、内田洋行に入社。大阪支社で2年間営業に携わった後、名古屋の拠点に異動。二人体制で販売網を構築し、中部ビジネスの拡大につなげた。2012年、ERPパッケージ「Super Cocktail Innova」事業の立ち上げとともに現職に就き、東京本社勤務に。Innovaの直接販売を統括するほか、パートナーの獲得に取り組んでいる。
●所属..........情報事業本部
情報システム事業部
プロダクト営業部
営業2課
●担当する商材.......... ウェブベースのERPパッケージ「Super Cocktail Innova」
●訪問するお客様.......... エンドユーザーのほかに、大手SIerやソフトハウスなどパートナー企業
●掲げるミッション.......... 間接販売網を構築し、Innova事業を伸ばすこと
●やり甲斐.......... Innova事業の体制を立ち上げ、販売の成功パターンをつくる
●後輩を率いるコツ.......... 「忙しいから対応できない」とは言わせない
●リードする後輩.......... 2人
パートナーの営業も指導して一体感を強める
当社もパートナーも、お客様が内田洋行のERPパッケージ「Innova」を導入し、そのことによって、導入に携わった情シス担当の方の評価が上がることを、営業活動の最大の目的としている。そのために、私は自社の後輩はもちろんのこと、一緒に動いて提案をしているパートナーの営業パーソンも、対応が不十分なら、「これは叱ってあげないといけない」と考えて、実際にそうしている。
お客様に導入効果を伝える資料を作成すると言ったのに、実際はつくらなかった。あるいは、自分のミッションをちゃんと考えずに、目的があいまいな行動をした──私は、そんなときは、自社かパートナーかを問わず、何がダメなのかをストレートに口にして、改善を促している。遠回しの言い方をするよりも、その人のためだと思うし、叱った後は落ち込まないようにフォローもする。やり方は荒っぽくみえるかもしれないが、パートナーの若手営業担当に対して、自分も現場で一緒に汗をかくという本気度が伝わるので、一体感が強くなっていることを実感する。
私は入社3年目のときに、大阪支社から名古屋の営業拠点に移り、先輩と二人で、間接販売の体制をつくることになった。ところが、名古屋には上司もエンジニアもいない。部長同行が必要なときや技術セミナー開催の際は、大阪支社に人を送ってもらうよう頼まなければならなかった。そこで学んだのは、存在感が薄い地方の営業所なので、声を大きくして、上下関係を気にすることなく、自分の要望をはっきり伝えるということだ。名古屋に勤務した頃、私は、少し攻撃的になりがちな性格を逆手にとって、大阪支社をうまく巻き込んで、約20社のパートナーを新規開拓し、中部事業の拡大に結びつけた。
現在、「Innova」の間接販売を伸ばしていくうえで重要と感じていることは、当社の顔が見えすぎないようにして、パートナーの色を出すこと。要件定義など案件受注後の仕事はパートナーに任せて、きちんと利益を上げるための仕組みをつくっている。そして、受付突破や集客数はどちらが多いかを競い合うなどのゲーム的な要素を取り入れて、パートナーの若手営業担当とともに活動し、案件の獲得を目指している。
ちなみに、この3月末に課長代理への昇格が決まった。もともと、「この会社で役員になるぞ」と決めて、内田洋行に入社した。後輩を大切にしているからこそ厳しく指導するというスタイルを今後も貫いて、マネージャーの正道を歩んでいきたい。
[紙面のつづき]勉強会を開いて「センス」と「スキル」をもつ人材を育成
仕事のかたわら、2010年に中小企業診断士の試験を受験し、経営の観点からビジネスの改善を考える中小企業診断士の資格を取得した。当社のように中堅・中小企業(SMB)向けの事業を展開している会社は、営業スタッフがお客様の経営層のパートナーになって、いっしょに業務改革に取り組むことが重要だと考えている。私一人だけではなく、営業をはじめとする若手社員にも、そうしたパートナーとして活躍してもらうために、2012年の11月から13年の6月まで、中小企業診断士の知識を生かして、ビジネスについての理解を深める勉強会を開いた。
勉強会の目的は、若手社員に「ビジネスの視点をもって経営者と会話ができるセンス」と「システム以外の観点から業務改善の提案ができるスキル」の二つを身につけてもらうことだった。中小企業診断士の資格をもつ管理職社員2人とともにカリキュラムを練って、12年11月から週1回、夜に行った。参加したのは20代後半~30代前半の約10人。課題抽出と解決策の演習を重ねながら、社内講師の友人が経営する会社にお願いして、実際の企業の経営診断を行った。
通常業務との兼ね合いもあって、勉強会は途中で欠席者や離脱者が出た。しかし、せっかく社内外のいろいろな人を巻き込んで実現した企画なので、みんなが本気で参加しなければ意味がない。約束を守らないスタッフに、「大変だけど、君のためになる」と、参加を促した。こうしてモチベーションを高めることで、フェードアウトしてしまいそうな雰囲気を打ち破り、勉強会を最後まで続けることができた。
ちなみに、勉強会のお客様の経営診断工程では、私たち講師は枠組みだけを教え、具体的な診断内容には口を出さなかった。参加者は土日も経営分析や資料づくりに取り組み、お客様のシステム面だけでなく、財務面・商品企画やマーケティングにまで提言を行った。その結果、診断先の社長から「ぜひ採用したい提案があった」といううれしい言葉をいただいた。
きっかけだけを提示してあげれば、若い社員は自分で考え、やり遂げることができる。今後も、勉強会の開催などを通じて、ビジネスの「センス」と「スキル」をもつ人材を育てていきたい。

「言ったことは守る」を堅持する小川さんは、「ハミルトン」の時計で時間を確認して、約束に遅れないようにしている。夫人からの贈り物で、「気どらないデザインが気に入っている」そうだ。