IT業界には、3K(きつい・帰れない・給料が安い)のイメージが定着している。とくに下請けの受託ソフト開発や派遣ビジネスを手がける企業では、以前から労働環境が問題視されてきた。そのせいか、新卒者の就職先としてIT業界の人気が低迷しがちだ。しかし、IT業界で活躍する企業のすべてが「3K」というわけではない。働きがいのある魅力的な職場づくりに積極的なIT企業は、実はたくさんあるのだ。従業員にとって魅力のあるIT企業は、どんな施策を講じているのだろうか。(取材・文/真鍋武、安藤章司)
【サイボウズ】時間と場所を選択できる人事制度
会社概要
▼業種:パッケージソフト、クラウド開発・販売
▼従業員数:386人(2012年12月末時点)

事業支援本部
中根弓佳
副本部長 サイボウズはもともと裁量労働制をとっていて、時間に関係なく働く従業員が多かった。しかし、会社の規模が拡大するにつれて女性社員が多くなり、結婚や出産などを機に退職する社員が増えてきた。一度退職してしまうと、再びサイボウズに戻るのは難しい。時間に関係なく働く裁量労働制では、実際には長時間労働を余儀なくされ、育児に充てる時間を捻出しにくくなるという一面があるからだ。
長時間労働を強いられれば、社員のモチベーションは下がる。しかし、会社としては、再び一から新しく人材を育てる手間とコストをかけるのはロスが大きい。そこでサイボウズが採用したのは、時間と場所を選択して働くことができる「選択型人事制度」だ。
勤務時間の面では、従来通り時間に関係なく働く「ワーク重視型」と、一定時間の残業を受け入れる「ワークライフ重視型」、定時もしくは短時間で働く「ライフ重視型」の3通りを設定している。勤務場所については、会社で働くやり方と、自宅で働くやり方、そして会社と自宅を組み合わせて働くやり方の3通りがある。これらを組み合わせて、9通りの働き方から選択する制度だ。例えば、9~17時は会社で働いて、残業を在宅勤務でこなすといった働き方を選択することができる。給与に関しては、働く時間が一番長いワーク重視型が最も高額で、短いライフ重視型は低くなっている。従業員にしてみれば、働く時間とお金のどちらをとるのかという選択肢でもあるわけだ。
サイボウズでは、この「選択型人事制度」を2007年に全職種に導入した。選択した後は、「社内に公表して、チームとして円滑に働けるように、上司はその人に適した働き方ができる環境を整えなければならない」(事業支援本部の中根弓佳副本部長)という。サイボウズでは、これによって28%だった離職率を4%に低減し、女性社員の数を社員全体の4割に向上するという成果を上げている。 中根副本部長は、「社員を疲弊させる環境のままでは、会社が永続的に成長することはできない。社員がモチベーションを高めて、健康な状態を維持できるようにすることが大切だ」と熱く語る。
【ダンクソフト】ペーパーレス化で残業を大幅に短縮
会社概要
▼業種:SI、ウェブサイト制作
▼従業員数:23人

星野晃一郎
代表取締役 ダンクソフトは、従業員の生産性を高める施策を講じて、月平均50時間程度だった残業時間を、3分の1程度に軽減することに成功した。社内規定の変更、フレックス制度や在宅勤務の導入など、複数の施策を打ったが、生産性の向上に最も貢献したのは、意外にも社内のペーパーレス化だった。星野晃一郎代表取締役は、「以前はオフィスに寝袋を常備して、会社に泊まる社員も珍しくはなかった。病気になる者も多いし、社員の机は紙が山積みされている状況だった」と当時を語る。
あるとき、星野代表取締役は、欧米人が日本人と比べて労働時間が少ないうえに、休日をきちんと取って、すぐれたワークライフバランスを実現していることを知った。「ところが、社内を見回すと、長時間働いても生産性は下がる一方だというのに、残業時間が多いことを自慢している社員がいることに気がついた」と星野代表取締役。そこで、生産性向上策を講じようとしたわけだ。
ペーパーレス化は2008年に実施し、「絶対に紙で保管しなければならないもの以外は、すべて捨てた」。これによって、23人の社員がいる会社の紙を段ボール2箱分までに圧縮した。従来、紙で記入していたものは、「Microsoft SharePoint」を活用して、社内の一部で社内ポータルサイトに共有すべきドキュメントを掲載するなど、すべてITシステム上に保存している。また、社員全員が作業時にはダブルモニタを活用。「モニタの一つを作業用、もう一つを従来のノートとして使用している。検索にも時間がかからないし、コピー&ペーストできるので楽だ」(同)。これによって、社員の生産性を引き上げた。また、ペーパーレス化することによってオフィスのスペースが狭くくても間に合うようになり、賃借オフィスを転居してコストを削減することができた。
ダンクソフトは、ペーパーレス化による生産性の向上が評価され、2013年の中小企業IT経営力大賞の審査委員会奨励賞を受賞している。星野代表取締役は、「IT企業は、自分たちがまずITを使いこなすことが大切だ。『ITを活用すれば生産性を高めることができます』と提案している自分たち自身が、ITを十分に駆使しておらず、生産性も低いというケースがざらにある。ユーザー企業もそのことに気づいている」と、自戒を込めて警鐘を鳴らしている。

社内で保管している書類は引き出し6個分だけ【内田洋行】モチベーションを高めるオフィス空間
会社概要
▼業種:事務機器販売、SI
▼従業員数:3007人(2013年7月20日時点)

オフィス事業本部企画部
矢野直哉
部長 社員に気持ちよく働いてもらうためには、オフィス空間にも気を配ることが大切だ。内田洋行は、2012年に新築した自社オフィスで、社員の働き方を変える最新のオフィス環境を整備した。
オフィス事業本部企画部の矢野直哉部長は、「当社は働きやすいオフィス環境づくりのソリューションを販売している会社。自らのオフィスを自慢できてこそ、お客様にも魅力を伝えることが可能になる。実際に当社のオフィス空間を構想したのは社員たちだ」と説明する。例えば、フリーアドレスである。営業部が働くフロアでは、すべての社員が特定の席をもたずに、その日その日に自分の席を決めて仕事をこなす環境を整備している。各社員が個別にもつノートパソコンなどのツールは、小型のロッカーに収納する仕組みになっている。
また、会議室には間仕切りを設けておらず、参加していない人でも、外から誰が会議をしているのかを把握することができる。会議のテーマや内容を聞いて、自分に必要だと思えば参加してみるなど、コミュ二ケーションを活性化する役目を果たしている。

営業部のオフィスは間仕切りがない
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