米アマゾンがクラウド基盤のサービスを大幅に値下げし、AWS上でサービスを提供するIT陣営は驚嘆の声をあげた。今年3月の出来事だ。クラウド基盤をもつ大手IT企業による激しい「安値競争」は、情報サービス産業界にどんな影響を及ぼすのか。アマゾンのサービス価格は、それ以前に低価格を打ち出した米グーグルの価格に接近した。他の大手も価格競争に参戦してくることは間違いない。

　実際、日本マイクロソフトの某幹部は「勝つまで戦う」と、この土俵に上がる決意を表明している。米国のクラウド基盤に比べて物量で劣る日本のデータセンター（DC）事業者の場合、現状、価格面では手を打ちようがない。IaaS、PaaSを米国の企業などに頼りながら、SaaSのサービスや国内DCで「日本品質」を打ち出すほかに手がないのかもしれない。この流れは、世界展開する外資系メーカーに押されて撤退が相次いだ、日本のパソコンメーカーがたどった道と似ている。

　クラウドサービスを売りにするシステムインテグレータ（SIer）やユーザー企業にとっては、基盤の低価格化はメリットが大きい。ユーザー企業は選択肢が広がり、安価なサービスを組み合わせることができるので、コスト削減につながる。また、クラウドで収益を上げようとするSIerにとっては、チャンス到来といえる。

　クラウドサービスを“再販”できるSIerであれば、IaaSの在庫を安価なうちに抱えることができる。株価を見るように、最安値を探して一気に場所（IaaS）を押さえる。箱物を売るのと変わらない構図だ。企業に貸し出す際は、売値から仕入れ値を引くと、粗利が稼げる。そうでないSIerも、クラウドを構築するための「OpenStack」などを学びさえすれば、クラウド環境を顧客に提供することができる。今からでも遅くない。

　情報処理推進機構（IPA）が先ごろ発表した「IT人材白書2014」は、業界に衝撃を与えた。ITベンダー側とユーザー企業側で新規拡大予定の事業内容に、大きな乖離が生じていることが判明したからだ。ユーザー企業側はクラウドで事業を拡大したい。だがITベンダー側は人工（にんく）商売をしたい。ここまで意識の差が出ている現状で、ITベンダーがクラウドに取り組まないのは「悪」とさえいえる。安値競争を味方につけて、ビジネスを盛り上げたいものだ。