客先常駐の下請け開発で得た自信

　今年36歳になったフリーエンジニアの中明知也は、元来起業意識が強かった。将来の独立に備えて、「経験を積む目的で」大学卒業後は会社勤めを選んだ。どんなビジネスを立ち上げるかのプランはもっていなかったので、大学で学んだ不動産の知識を生かそうと、不動産管理会社に就職した。だが、ITに有望性を感じてソフトエンジニアを目指し、1年半で退職。ソフト開発会社に転職した。しかし、半年後にその会社が潰れてしまった。

　転機になったのは、次の就職先でのことだった。新たな勤め先になった小さなソフト開発会社の仕事は、顧客のオフィスに常駐しての下請け開発だった。必死に働き、開発スキルを身につけ、3年後にはプロジェクトマネージャーを任されるまでになった。「客先常駐の開発を嫌うエンジニアは多い。ただ、経験が乏しい自分にとって、お客様のそばで要望を聞き、つくったものの反応をダイレクトに感じられることは、貴重な経験だった。ここで今の自分の礎を築いたような気がする」。

　5年が過ぎた頃、「仕事に慣れて難なくこなせるようになったことに、もうこれで成長の伸びしろはないと不安を感じた」ことから、中明は新天地を求める。新たな分野として、携帯電話向けのアプリケーションソフトやネットサービスの開発会社に移籍。ここでもワークスタイルは客先常駐。前職と違うのは、開発だけでなく新規ビジネスの立ち上げにも携わる環境だったこと。「この会社で商売、ビジネスの立ち上げ方を学んだ」。

　そして、30歳が目前に迫った時期に、「一人でも食っていけるという自信をもつことができた」。その自信を糧に、独立に踏み切った。（つづく）［文中敬称略］