スマートフォンのヒットで軌道に乗る

　およそ10年の会社勤めを経て、30歳を目前に独立した中明知也。フリーエンジニアとしてのビジネスは、滑り出しから順調だった。それを支えたのは、客先に常駐しての下請け開発で得た人脈と、独立前にメインで手がけていた携帯電話（スマートフォン）向けのアプリケーションソフトの開発実績だった。

　中明が独立したのは、「iPhone」の初期モデルが発売された頃。スマートフォンが普及し始めて、企業はスマートフォンに最適化したウェブサイトやアプリを求めていた。旺盛なニーズを満たすにはエンジニアが足りないという状況で、開発スキルをもつ中明に仕事が舞い込む流れができ上がっていた。顧客が顧客を呼び、「売り込みの活動をしなくても食っていける状況」が続いているという。

　「私がお客様に受け入れられているのは、開発スキルだけでなく、スマートフォンを使った新しいビジネスや商品を、少なからず提案できることにあると思っている。スマートフォンはまだ新しい分野で、お客様はどう活用すればいいか模索しておられる。そのなかで、単純に言われた通り開発するだけでなく、上流から入ってビジネスプランの立案をお手伝いできることを評価してもらっている」と中明。独立直前に勤めた会社で、ソフト開発業務だけでなく、新規事業の立ち上げを経験したことが生きているという。

　独立しておよそ5年、順風満帆にフリーエンジニアとして活躍しているが、中明には今のビジネススタイルを長く続けるつもりはない。フリーエンジニアとしての生活をそろそろ終えようと考えている。独立当初には感じなかった「一人の限界」と「後輩の育成の必要性」を感じ始めたのだ。（つづく）［文中敬称略］